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昨日の続き

向こうの認識コードはこちらで解析できなかったが、こちらの古い認識コードを向こうでは解析できるはずだと踏んだのだ。アローが認識コードを送信すると、間髪入れずにそのコードに対応している返事が来た。此方でも解析できるコードだった。アローはそれを読み解いて、間違いなくあのシャトルはカザムの所属機だと判断したし、相手側もそう判断したようだ。


「船長にこのシャトルの乗船許可を求める。」

そう言って来たのだ。春斗はしばらく考えていたが、争いは好まない。シャトルの武器とシールドを解除すれば、乗船を許可しようと思った。話し合いによっては、色々な情報も得られる。春斗は美月にその旨を伝えると、乗船を許可すると伝えるように指示した。するとアローはシールドを解除して、シャトルを迎え入れる準備をした。

相手シャトルも武器を解除している。


「そちらの階級と、氏名を問う。」

シャトルから返事が来た。

「私はカザム第一宇宙観側隊セレン第二空域監視部隊特務少尉のアロン・サダスだ。そちらの船長の名は?」

ハルトが答える。

「私の名はユウキ・ハルトと申します。軍人ではありませんしカザム人でもありません。ここからは遠い銀河に有る、太陽系の第三惑星地球という星から来ました。詳しい事はお会いしてからお話ししましょう。私もお聞きしたい事が沢山あります。」


アロン・サダスと名乗った声に、一瞬の戸惑いがあった。何故、他の惑星の宇宙人がカザムの軍艦の船長を名乗っているのか、という疑問があったのだと思う。それでも攻撃体勢には無く、シールドも完全に解除されている。敵対心は無いように思われるし、セレンの認証コードで解析できるコードを送信してきた。春斗は半信半疑ならも、サダスの乗船を決行する事にした。それが任務なのだからと。


そのシャトルは、最下層の格納庫へ進入を始めた。格納庫へ着陸して扉が閉められると、サダスはシャトルを出る。戦艦であれば、大勢の乗組員が待機しているはずだ。が、その様子は微塵もない。シーンと静まり返っている。すると何処からともなく、一つの足音が近づいてくる。思わず腰の銃に手を掛けて身構えた。


格納庫に収まっていた旧式の大型シャトルの陰から、女性型のドロイドが現れた。美月だ。軍服ではなく、生活着姿だ。サダスは怪訝な顔をしながら、腰に収まっていた銃を引き抜いて前方へと構えた。美月は立ち止まってから、言葉を発した。


「銃はお納めになって戴けませんか。私どもに敵対心は有りません。私も武器を携帯していません。私の体をサーチしてくだされば、お分かりいただけると存じます。」

サダスは慎重に携帯サーチ機を取り出すと、それを美月の体へ照射する。警戒音は鳴らず、ディスプレイにも武器不携帯の表示が出た。サダスは銃を腰のホルダーに収めたが、まだ警戒心を解いていない。


「私は船長ハルトの為だけに作られたドロイドです。名前はミツキと申します。これから船長が待機している、会議室までご案内いたします。私の後について来て下さい。」

そう言うと格納庫の前方へ歩き出した。サダスもその言葉に従っている。エレベーターに乗って、第二層へ着く。


案内された会議室に着くと、ハルトが椅子へ座って待っていた。その部屋は窓が無く、回りの壁と床には無機質な光沢が見られる。全体には壁の色と灯りのせいもあるだろうが、灰色と薄いオレンジ色に満たされているようだった。その中央にはU字型に、濃い茶色の大きな木製机が備わっている。その外側に、多数の背もたれが付いている立派な椅子が並べられていた。全部で20脚は有りそうだ。


春斗はその向かい合わせになった二列の席の、出入り口に近い場所の向こう側に、出入り口へ正面を向けて座っていた。サダスが入室すると、席を立って軽くお辞儀をした。その見慣れない動作に、サダスは驚くと同時に警戒心を解いた。なんて無防備な行動なのだろう、と思ったのだ。


春斗はサダスに席に座るように促すと、自らも席に座る。後から入室した美月が、その春斗の隣へと腰を下ろした。最初に声を発したのは、ハルトだった。それが礼儀だとの認識なのだろうか、サダスは言葉を待つ仕草だった。


「改めまして、ご挨拶をさせて頂きます。私はこの船の船長ユウキ・ハルトと申します。」

サダスの耳に春斗の言葉は紛れもなく、この惑星の母国語カザム語で聞こえている。翻訳装置が働いているのだろう。違和感は無い。

「私はカザム第一宇宙観側隊セレン第二空域監視部隊特務少尉のアロン・サダスと言います。この空域を巡回していた際に貴艦を発見し、司令部の要請のもとにこの星の防衛の為に、貴艦を確認しに参りました。まず、乗船を許可していただきお礼を致します。」


サダスと名乗った男は、春斗より一回り大きい体をしている。紺色に襟と袖、それにポケットの上側に銀色の刺繡が施してある軍服らしき服を着ていた。腰には銃が収められているようだったが、あえてそれは不問にした。春斗はいつもと変わらず白のシャツに黒のズボン姿だ。美月はそのシャツが萌黄色になっている。


「色々と尋ねたい事は有りますがまず、貴艦のこの惑星への訪問目的をお聞きしたい。」

サダスが問いかけて来た。春斗は〈少し話が長くなりますが〉と前置きしたうえで、飛行機事故からの経緯を説明していく。サダスは、それを驚きの表情で聞いている。


「それで、この船に人影が無かったことも頷けます。そして貴公が船長となった理由も分かりました。よく800年もこの船は無事に保たれていたものです。」

サダスが、感嘆の想いを込めて呟いた。

「それについては、この船の乗組員であった貴国の技術者たちが優秀であった事に他ならないと思います。」

春斗が言うと、サダスが答える。


「ただ、この船をサーチにした結果、相当に技術が遅れている事も分かり、軍艦として実戦で役に立つのかどうかは私には分かりません。母国の今の技術者たちなら改良も出来ると思いますが・・・。ただ、今のわが国には一艦でも軍艦が必要な時なのです。その理由は後程お話しますが改めて軍部と相談しまして、その要請にお伺いする事になると思われますが、ご了承いただけますでしょうか?」


理由については、春斗に思い当たる事も有った。まだ800年前の戦闘が、続いている可能性があるのかも知れない。それなら地表での人の活動量が少なく、周回軌道に衛星やステーションが見当たらなかった事も頷ける。多大な被害を被り、またそれ以上の被害にあわないためにも、極力地下へ避難したに違いない。春斗は水星を出発する際に、この船を母国の人に返したいと思った事がある。母国の人がこの船を必要とするならば、やはりそうするのが良いのだろう、心内でそう思っていた。


「分かりました。そちらのご要請をお待ちしています。私からもお聞きしたいことが有りましたが、それはその時にご説明があるかもしれません。今日のところは、私からの質問はない、という事にしておきます。」

サダスは椅子から立ち上がり、春斗の真似をして腰を折った。春斗に対する礼儀だと思ったに違いない。帰還するつもりなのであろう。


部屋から出て行こうとした時に、サダスの通信機が鳴った。

「こちらはセレン35号シャトル、サダスです。」

携帯の通信機で何やら連絡のやり取りをしている。その声は聞こえてこない。

「分かりました。このまま帰還いたします。そちらは大丈夫なのですか?」

何やら緊急事態が持ち上がった様子だ。通信を終えると、サダスは春斗に向き直った。


「たった今、本部から敵オグマ星の大型軍艦1隻がカザムへ近づいて来ているとの報告が有りました。私は見落としたようです。私のシャトルでは、到底太刀打ちできません。私を星の裏側まで運んでいただけませんか?そうすればシャトルで迂回しながら帰還します。」

春斗は咄嗟に、この800年の間にオグマはカザムに対して侵略を続けていて、その戦闘がまだ終わっていないのだろうと推察した。


「その戦艦が、あなた方の星カザムを攻撃しようと近づいて来ている、という認識で良いのですね?私たちは構いませんが、それこそこの艦に出来る事は有りますでしょうか?」

「いえ、この艦が昔のカザムの所有物であったとしても、異星人であるあなたを戦闘に巻き込むわけにはいきません。それにもし戦ったとしても、この艦は旧式ですし乗組員があなた一人とドロイド一体では、到底歯が立たないだろうと思います。私が発進したら、なるべく遠くへ逃げて頂けたらと思います。」


サダスはそう言い残すと、シャトルへ乗船するために格納庫へ向かった。

春斗は直ちに、アローを敵戦艦が近づいて来る方向とは裏側の空域へ向かわせた。格納庫を開けて、サダスのシャトルは発進する。春斗と美月はコントロール室へ戻った。


「ミツキ、僕らは逃げてもいいのだけれど、それでも何かできる事はないだろうか?」

美月が即答する。

「そうするのがいちばん賢明な方法だと思います。敵の艦の性能がどの程度のものか分かりませんし、時の流れから言ってこの船が陳腐化している可能性の方が大きいと思われますから。」

「そうだね。私たちが居ても、足手まといになるだけかもしれない。直ぐにこの空域から逃れよう。ミツキもアローもそれで構わないか?」

「もちろんです、船長。」

ミツキとアローが同時に答えた。


アロー号は、元来た方角へとジャンプの準備を始める。

「ミツキ、先ほどのシャトルとセレン本部との通信は傍受できるの?」

春斗は何か不安を感じて、そう質問した。

「それは可能ですが、多分スクランブルが掛かっているために、内容までは不明だと思いますが。」

「そうかも知れないね。でも一応傍受しておいてくれないか。スピーカーに流しておいて欲しい。」


コントロール室に、雑音と思われる音の後にサダスと思われる慌しい声が流れて来た。スクランブルが掛けられてようで、その意味とするところは不明だったが、何か重大な事が起こっているように感じられる声だ。もしかしたら、サダスの身に危険が迫っているのかも知れない。緊迫した同じような言葉を繰り返している。春斗にはそれが《メーデーメーデー》と助けを求める声に聞こえて来た。



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