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3. 帰還

故郷の星へ帰還するまでの間、6日の時間がある。その間に出来る事は無いだろうか。

春斗はまず、宇宙船の内部を把握する必要が、有るのではないかと思った。今、自分で分かっているのは、サブのコントロール室と自分の居室、後はシャトルの格納庫位なものだ。そのコントロール室にしても、部屋の様子が分かるというだけで、船のコントロールについては、その機能も操作方法も全く分からない。手始めに、そのコントロール機能だけでも分かるようにならないかと、美月に相談した。


美月は、それを聞くと訝しげな顔をした。

「春斗は、声に出して命令さえすれば、船はそのように動きます。コントロール室で操作をする必要はないと思いますが、それでも必要ですか?」

「必要とか必要ではないとか、という問題では無くて、出来れば覚えたい、という程度かな。取り敢えず他にやる事もなさそうだから。」


「そうですか、でも大変失礼にも思えますが、6日程度では手動操縦の全てを把握は出来ません。手動方法は、とても複雑で多岐に渡っています。それでも、と思われるのでしたら、一つだけ方法がございます。春斗の頭の中に直接、その情報を入れ込んでしまう、という方法です。以前、地球人の検索をした折に、その脳の働きも調べましたが、ヒトの脳には、まだまだ使われていない領域が沢山あって、知識は充分にインストールできると思います。そう言う方法でよろしければ、数時間程度でインストールできると思いますが、お試しになりますか?」


人の脳は、コンピュータと似ている所が有る、という話は聞いた事が有る。でも直接、知識を脳の中へ入れ込むなんて事が出来るのだろうか。それが出来るのだとしたらと、春斗は驚くと同時に、その技術力の高さに畏怖した。

詳しく聞いて行くと、脳へのインストールは頭上に整備された装置から、眠っている間に自分の知らない内に行う事が出来るという。したがって、起きている間も寝ている間も、いままでと違わない生活が出来るという。そう考えている間に、美月の言葉から春斗の中に、ある疑問が生じた。


「ミツキ、先ほどミツキは前の乗組員は、地球の大気の状態とウイルスで全滅した、と言っていたけど、もし僕がミツキの故郷であるその星へ行ったら、やっぱり僕にはその星の大気が、ぼくには合わないんだろうか?」

美月は即答した。


「いいえ、何も心配は無いと思います。地球の大気は、私達にとってその成分が問題なのではなく、気圧が問題だったのです。当然、船の中は私達に都合の良い気圧に調整されていましたが、地上へ衝突の際に大気と船の間に隙間が生じて、少しずつ船の中の状態が地球の気圧へと変化してしまったのです。同時に私達にとっては、未知のウイルスに侵入されてしまったのです。私達の星は、地球より気圧が低いのです。それが問題だったのです。それでもハルトにとっては、許容範囲だと思われます。それに私達の星には、ハルトの体に影響を及ぼすウイルスは存在していません。だから心配は要りません。宇宙服などは着なくて過ごせるはずです。」


それを聞いて春斗は安心した。美月は続けた。

「ただ、もし今でも、当時と同様に交戦中だったら、ハルトの身に危険が及ぶ可能性もあるかもしれません。それで今、ハルトの身を守る為の装置を開発しています。それとそれは武器にもなりえるものにもと考えています。少し時間がかかるかもしれませんが、その装置が出来次第お持ちしますので、必ず身に着けるようにしてください。」


用意周到の美月の言葉に、春斗は全幅の信頼を置いた。

それから、数日が経った。その間に美月から、いやこの宇宙船から春斗の脳内へ、その構造や操船方法などの知識が常時流れこんで来ている。でもそれは春斗の意識外での出来事であり、春斗は気にも留めていない。


ただ美月が言っていた、ハルト専用の安全装置が出来あがった時には、非常に驚いた。それは見た目が単なるブレスレットだったからだ。そのブレスレットは何処にでも有りそうな、表面には何の装飾も無く、幅三センチ程度の銀色だった。そのブレスレットを手に取り、美月が説明した。


「これを、利き腕の手首に嵌めて頂けますか?この装置には、スイッチという物は有りません。常時、作動しています。したがって、不意に何かの武器や圧力が春斗の身に襲いかかっても、それを跳ね返す力を発揮します。完全にハルトの体を覆ってシールドの役目を果たします。その外圧や衝撃は、例えて言うなら、この船の主砲から放たれた魚雷や光線弾程度の力でも、春斗の身を守ります。ただ、その範囲は体の周辺だけという事ですが。それに、酸素の欠乏という事態にも対処しています。ですから地上は勿論、宇宙空間でさえに春斗の安全は保障されると言っても過言ではありません。」


春斗は、身震いした。身を護る装置とだけ聞いていたので、単に銃や弓矢程度のものを防いでくれるものだとばかり思っていたのに、この船が持っている武器程度も跳ね返し、宇宙服のような役目もするとは。それに確か、武器にもなると言っていたような気がする。それを質すと、美月が答えた。


「はい、威力はそれほど強いものではありませんが、拳を前に突き出したり、腕を振ったりすることで、ブレスレットの中からビームが飛び出します。不用意に武器にならないように、その制御は春斗の声で行います。其処が不便と言えば不便なのですが、意図しないでビームが発射されないための安全装置だと思ってください。その制御の言葉は、何でも構いません。コードのようなものと思ってください。」


「そうか、それじぁ、何か決めておいた方がいいんだよね。取り敢えず『武器使用』としておこうか。いつでも変更は出来るよね?」

「ええ、可能です。それに一言一句同じでなくても作動します。咄嗟の場合、思い出せない事も有るかも知れません。ニュアンスが同じであれば、今の場合は『武器を』だけでも作動しますが『武器』だけでは作動しません。それは覚えて置いて下さい。それと、その作動を止める言葉もご用意ください。」


「そうか、武器が不要になった時に、止めなければいけないのだよね。じぁあ、そちらは『武器停止』にしておこう。それでいいかい?」

「了解しました。それで登録しました。」


美月は笑って答えている。美月の言わんとするところは、大方理解した。誤って、他人を傷付けないためのものだろう。春斗の左薬指には、結婚指輪が嵌っている。妻美玖とは一日だけの夫婦であったが、美玖の姿は今でもはっきりと思い浮かべる事が出来る。初夜の睦事を思い出す度に、体が熱くなる。美玖を今でも愛してはいたが、春斗は若い体だ。時々襲いかかる性欲とも戦っていた。直ぐ近くに美月という魅力的な女性形をしたドロイドが居るが、所詮は機械だ。もし美月が生の女性であったなら、春斗は自分の欲望を押さえる事が出来なかったかもしれない。場違いな想いを秘めて、春斗は左手を見ていた。


「このブレスレットは右手に嵌める事にするよ。この左手の指輪は、妻との大事な思い出だから。」

そう言うと、美月から受け取ったパーソナルシールド装置と武器になるブレスレットを、右手首に嵌めた。すると、そのブレスレットが作動したのか全体に青白い光を放った、と思ったらその光は直ぐに消えてしまった。ブレスレットは自然と手首に馴染み、余裕が有った隙間は肌に密着した。嵌めたと言う感覚が無い。


「それともう一つ、このブレスレットについて説明をしておきます。直ぐには発動しませんがハルトが今後成長を続けて、身体能力が向上したり意志の力が強くなったりした時には、別の機能が働きだすことが有ります。でもそれが何であるかは徐々に分かってくると思われますから、詳細の説明は避けておきます。」

何か意味深長な言葉だったが、ハルトもそれについての質問はしなかった。


続きは明日。

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