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昨日の続き



2時間は直ぐに経った。声に促されて、春斗はコントロール室に戻った。前方に写真でしか見た事の無い、水星が見えている。

水星は、その名に相応しくないような、岩石の塊に思えた。小さなクレーターは無数に見える。水星なのに、水などどこにも在りそうにない。太陽に当たっている面は、400度以上あると聞いた事が有る。反対に、夜の部分は何度になるのだろう。この水星を過ぎれば、次は太陽になるはずだ。太陽に近づきすぎれば、いくら宇宙船といえども、溶けてしまわないだろうか。太陽の表面温度は、何千度ではなかったか。春斗は考えもなしに、怖くなって咄嗟に声を出していた。


「水星に着陸しよう。」

すると、宇宙船は速度を落としたように思えた。水星にどんどん近づいていく。ついには、周回軌道を回り始め、着陸場所を探している。春斗は、ただ見守っているばかりだ。あの声も聞こえない。宇宙船は、平原と思われる場所を選んで、静かに着陸した。

「此処でもいいだろう?充分にエネルギーを蓄えられると思うけど。」

声が返って来た。


「充分です。時間は少し掛かります。此処で熱と光のエネルギーを蓄えます。それが終われば、あとは主人の思いのまま、船を操ってください。これはお願いではありませんが、質問です。あなたの名前をお教えください。」

「私の名前は、結城春斗です。ハルトと呼んでください。この船の名前を聞いていませんでした。何という名前ですか。」


「ここで、その名前を言っても春斗には聞き取れません。いい機会です。ハルトが改めて命名してください。」

「今までの名前の音は分からなくても、その意味は有るのでしょ?どういう意味の名前だったのですか?」

「それは、伝説の宙を飛ぶ生物の名前でした。実際に存在した生物ではありません。もっと言えば、生物と言うより、獣でした。強く大きな、空飛ぶ獣です。」

それを聞いて、春斗はある生物を思い浮かべた。


「空を飛ぶ、伝説の生物、架空の生物、それは龍のようなものですか?」

「形態は随分と違いますが、そんな感じの獣です。」

春斗はしばらく考えてから言葉に出した。

「龍というには、この船と形が違い過ぎるね。この船の形は矢尻のようだと思ったけど、矢尻か?アローヘッドか、アローにしようかな、それで構いませんか。」

「ハルトが決める事です。アローで結構です。」


こうして、宇宙船の名前は《アロー》と決まった。続けて声が、話しかけて来た。

「私はこの船です。ですから、これから私を呼ぶ時はアローと呼んでください。それとエネルギーを充分に溜める間、少し艦内を案内します。何処からご案内しましょうか。」

「それでは身近なところから、私の部屋の後方はどうなっているのですか?」


「説明するより、見て頂いた方が早いかも知れません。またエレベーターの中へ入ってください。」

そう聞こえると直ぐに、エレベーターの扉が開いた。それに乗り込むと、直ぐに又、扉が開いた。其処は、格納庫になっていた。確か、大きな格納庫は、第4層に有ったと思ったが、ここも小規模ながら格納庫なんだ、そう思った。格納庫の中には、薬のカプセルのような大きな何かが置いて有った。


形はアローと似ている。小さなアローだ。そのカプセルの大きさは、丁度マイクロバス程度だった。車輪は無いものの、バスと同様に周りにはガラス窓がある。ただ、窓はその大きさに比べて、非常に小さい。その前方だと思われる窓からは、中の様子が少し見える。まずは操縦席のような所が有り、その後ろはこれもバスと同じように座席が見えた。


「これは何ですか。」

春斗が質問した。

「これは、シャトル船です。」

答えは簡単だった。春斗がそのシャトル船に近づくと、その横にあったドアーが自動的に開いた。春斗は、その中へ足を踏み入れた。座席は、操縦席と思われる二つを除いて、全部で6つ有った。8人は乗りこめる。でも、今は一人しか居ない。


「このシャトルは、どの程度の飛行が出来るのですか。」

春斗は聞いてみた。

「惑星の周回軌道から、その地上程度は飛行できます。惑星間飛行には向いていません。」

「アローの下のほうにも、大きな格納庫が有ったと思いますが、其処にもこれと同じシャトルが格納されているのですか?」

「はい、これと同様な、ただ大小さまざまですが、シャトルが格納されています。小さなものは4人乗り、大きなものは50人乗りも有ります。それらは、全部で50機ほどです。大きなシャトルは、太陽系の範囲程度は飛行できます。」


このアローには、318人もの乗組員が居たのだ。その位のシャトルが必要だったのかも知れない。

「アロー、私はこれに乗り込んでから、誰とも会った事が無い。一人は寂しいし、アローと話が出来る事は有難いと思っているけど、誰かと面と向かって話をしたい、と思う事も有る。何とかならないものだろうか。」


「先ほど、七海美玖が欲しい、と言われた事は、それと関係が有るのですか?七海美玖とはどんなものか分かりませんでしたので、時間をくださいと答えました。それが人型のドロイドでよろしければ、もうすぐ造る事は出来ようになります。エネルギーが溜まって来ましたし、材料も揃っています。もしよろしければ、私を人型に具象化しましょうか。声だけでは寂しいと仰っておりましたので。そうすれば、近くで見ている事も出来ますし、いつでも目を見て、話が出来ると思います。」


「あの、ドロイドってロボットみたいなもの?」

「そうです。私はこのままでも構いませんが、目に見えれば何かと便利になるかも知れません。」

「そうすると、そのドロイドがアローのアバターになるって事かな。」

「そう思って頂いて構いません。」

「じぁあ、準備ができ次第、そうしてくれるかな?」

「了解しました。1日程お待ちください。」


続きは明日。


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