1. 新婚旅行
場内は華やかな雰囲気に包まれている。その会場は、それほど広い場所ではないが、ホテルの最上階に有り、北側の窓は全てフィックスになっている。外から都会の景色と、隣接している公園の緑が目に入って来る。公園の一角には天守が聳えていて、その回りは堀が張り巡らされていた。窓の手前には広く白いテーブルクロスに覆われたひな壇が拵えて在り、その向かって左側に結城春斗が、右側には真っ白なウエディングドレスから、お色直しの赤いドレスに着替えた七海美玖が座っている。今日は、二人の結婚披露宴が執り行われているのだ。明日、二人は役所に結婚届を出した後で、オーストラリアへ新婚旅行に出かける予定である。
ひな壇の前には、五、六人が座っている円卓が10テーブル並べられている。ひな壇やその円卓のテーブルには、白のテーブルクロスの上に華やかさを演出している沢山の花が飾られていた。親族や友人など、50人程が出席している事になる。
披露宴はもう佳境である。予定されていた料理は全て出揃った。結城春斗の友人の中には既に酒に酔い、七海美玖の友人が集うテーブルへ足を運び、しきりと目当ての子にアピールしている者も居る。そうかと思うと、ひな壇の二人に酒を勧めている親族も居る。この後は、美玖が二組の両親に向けてお礼のメッセージを送り、春斗が出席者に対して挨拶を執り行う段取りになっている。
暫く後、司会者に促されて、美玖がマイクの前に立った。二組の両親は礼服に身を包み、その対面に並んでいる。司会者が、そっと美玖に予め用意されていた、あいさつ文が書かれたメモを渡した。一瞬に、会場のざわめきが消えて、美玖の発する声を待っている。
「おとうさん、おかあさん、私達は今日、結婚する事が出来ました。」
既に美玖は涙声になっている。
「この二十五年の間、私を包み込むように大事に育ててくれて、本当に有難うございます。何のお礼も出来ずに、私は春斗さんの元へと嫁ぎます。これからは春斗さんのために、一生懸命尽くして、幸せな家庭を作ろうと思っています。」
そこまでは何とか挨拶が出来たが、その後は声が震えて涙が溢れ、何を話したか覚えていない。気付いたら春斗が既に挨拶を終えていた。それまで美玖はハンカチで零れて来る涙を抑え、溢れて来る感情と戦っていた。春斗はそんな美玖の背中に手を添えて、マイクの前に立っていた。宴の締めくくりは、春斗の父親が担った。春斗と美玖が両親四人の傍へ並ぶと、父親の挨拶が始まりそして宴はお開きとなった。時間は既に午後四時を回っている。
春斗と美玖は宴会場の出入り口付近に並んで立ち、招待客に心尽くしのキャンディーを配りながら送り出している。中には二人に握手を求める者や、丁寧に頭を下げてくれている人も居る。全ての招待客を送り出し終えた後で、二人はそれぞれに控室へと戻ると、平服に着替えをした。オーストラリアへの便は明日の午前だ。新婚初夜は、このホテルの部屋になる。旅行バッグは既に用意してある。明日の朝になったら、予約してあるレンタカーで、空港へ向かうだけだ。出発は午前11時の予定だから、10時前に空港へ着けばいい。ホテルから空港までは1時間位だ。二人はその後、それぞれに打ち合わせの通りロビーへ出向くと、両家の両親が其処で待っていた。
六人はロビーの椅子へ車座になって座ると、コーヒーや飲み物を注文した。
「それじぁ、結婚届は明日、空港へ行く途中で出すんだな。」
春斗の父親が言った。
「ああ、そうするつもりだよ。」
「気持ちが高ぶっているから、忘れるんじぁないぞ。美玖さん、こいつはおっちょこちょいの所が有るから、気を付けてやっていて。」
「はい、お義父さん、任せてください。」
美玖は笑って答えている。
「美玖、オーストラリアなんて遠い所ね。大丈夫だよね。」
美玖の母親が、心配そうに言う。
「大丈夫よ、お母さん。飛行機は世界一安全な乗り物なんだから。それよりもお母さんもお父さんも、今日帰るんでしょ。そっちこそ気を付けてね。」
「春斗君、美玖の事をよろしくお願いします。」
美玖の父親が、春斗に向かって頭を下げた。
「はい、任せてください。お義父さん。」
春斗も、美玖と同じ返事をして、美玖の父親が出した手と握手をした。
コーヒーを飲み終わっても、両家の両親はその場を立ち去りがたい様子を見せている。でも七海家は此処から電車でも二時間以上は掛かる。
「美玖、もう行くよ。体に気を付けるんだよ。海外は水が悪いというから、特にお腹に気を付けて。」
「分かってるわよ。もう子供じぁないんだから。」
美玖は、また笑いながら答えている。それを切掛けに四人は立ち上がった。
春斗と美玖もそれに倣う。
「じぁ、帰るね。」
四人はそれぞれに手を振り、玄関へと向う。その後ろ姿は、何となく寂しそうだ。その四人の後姿を見送って、春斗と美玖はエレベーターへと向かった。エレベーターの中には、二人のほかは誰も居ない。エレベーターの扉が閉まると、急に寂しさが込み上げて来たのだろう。美玖がひくひくと泣き始めた。
「大丈夫か。色々有って疲れただろう。せっかくの花嫁が、泣くと台無しだぞ。これから僕と人生を歩いて行くんだ。よろしくお願いします。さあ、涙を拭いて。」
春斗はハンカチを取り出すと、美玖に渡した。
「ありがとう、それにゴメンね。泣いたりして。大好きな春斗とずっと一緒に居られるんだもの。もう泣かないわ。ホントにゴメン。」
「いいんだよ。でも早く何時もの美玖に戻って。僕は美玖の笑顔が大好きなんだから。」
そう言っている間に、エレベーターは部屋の有る8階に付いた。エレベーターを降りて左へ進むと、二人の部屋である808号室へ着いた。春斗は廊下の左右を確認した。誰も歩いていない。春斗は美玖の背中に右手を添えて、左手で両足の膝の下を支えた。そうして、美玖の体を軽々と持ち上げてしまった。
「えっ、どうするの。」
「最初は、花嫁を抱き上げて部屋に入ると幸せになれる、って言わなかった?」
「えっ、そうなの?それじぁ、鍵は私が開けるね。」
美玖は春斗に抱き上げられたまま、部屋のカードキーを出して、それをドアーに挿し込んだ。鍵が開いて、取手も美玖が押した。
二人が部屋に入ると、ドアーは自然と閉まり自動的に鍵が掛かる。
春斗は美玖を抱き上げたまま、美玖の上半身を起こすとその唇に口を付けた。
美玖は黙って目を閉じて、それを受けている。春斗は唇を吸ったまま、美玖の体を床へそっと降ろした。体を抱きしめると、美玖も両手を春斗の首に回して来た。
お互いに目を閉じて唇を吸い合い、舌を絡み合っていく。不意に美玖が言った。
「あれっ、下ろすのは床で良かったの?ベッドの上じぁなかった?」
「えっ、そうなの。良く分からない。やり直す?」
「えーっ、いいわよ、もう。同じ事だもの。」
美玖に笑顔が戻って居た。その部屋は南向きになっていて、レースの白いカーテンが掛かっている。窓の外には、相変わらず都会の高層ビルが見えるが、もう外は暗くなり始めていてビルの窓には所々灯りが点いている。
「美玖、夕食はどうする?殆ど料理は食べなかっただろう。お腹減ってない?」
「うん、次から次へと式が続いて殆ど料理には口を付けられなかったわ。それと花嫁が、がつがつ食べていたらみっともないと思っていたから。春斗は食べたの?」
「ああ、飲まされたし、食べさせられた。僕はもういいけど、何かルームサービスでも頼もうか?」
「うん、そうしてくれる?何が有るのかな?」
「サンドウィッチとかパスタとか。」
春斗はメニューを見て言う。
「だったら、パスタがいいかな、ドリンクは紅茶で。春斗も少し食べたら?」
「うん、そうする。僕はサンドウィッチがいいかな、半分食べてくれる?」
「ええ、いいわよ。そうしよう。」
春斗はルームサービスを注文して、それが運ばれてくる間にも美知と何回もキスをした。二人はベッドの端へ並んで座っている。舌を絡ませている内に、感情が高まり美玖の体をベッドの上へ倒して、その胸を触りに行く。
「うん、だめよっ、ルームサービスが来るわよ。」
「それまでの間、ねっ、おねがいっ。」
春斗は美玖の胸のボタンを二つ外すと、その開いた場所から手を入れていく。ブラの上からふくよかな乳房を触ると、ブラを上げて露になった乳首に口を付けた。その時に、チャイムが鳴った。
「残念でした。続きは後でね。」
美玖はベッドから起き上がると、胸元のボタンを掛け直す。春斗はゆっくりとドアーへ向い、それを内側から開けた。股間の膨らみが気になったが、何とかごまかした。
ルームサービスの食事が運ばれ、二人はベッド脇のテーブルで軽食を食べ、紅茶とコーヒーを飲み一息ついた。後は、風呂へ入り体の汗を取ってベッドへ入るだけだ。




