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僕はヴィランだけど何か?

ヒーローよりもヴィランが好きな高校生が通う学校にはヒーローを倒すのを夢見る卵がいっぱい。そんな希望を無惨に叩きのめされて憎悪に目覚める“僕”のお話です。

誰もが憧れるヒーロー。それはテレビの中でも現実でも好奇心が損なわれない存在。そう思うのは必然的だ。“かっこいい”と思うから。

でも僕はその一般常識から外れている。この世界では異常者だ。何せ僕は、ヴィランこそ“ヒーロー”だと思っているからだ。

 

 街から遠く離れた人気のない田舎にその学校はあった。峠山ヒーロー高等専門学校と書かれた校門には沢山の生徒が吸い込まれるように入っていく。空中浮遊して流れる様に校門を抜ける生徒や巨漢で地面を揺らしながら入る頭に二本角が生えた生徒。

 普通の人間として入るのは“僕”だけだ。大きめのリュックを背負い、黒いブレザーに白いネクタイをきっちり締め、両目隠れ黒髪マッシュ一年男子学生は校門を抜ける。

 ヒーロー専門学校と言えばだいぶ変わった所だ。まるで、ヒーローにしては相応しくない見た目の生徒ばかりだからだ。

 

 表向きはヒーロー育成を名乗る学校でも中身はヴィランを育てるヴィランズスクールだ。そう、街のヒーローの目の前に現れるヴィラン。とか言うけれど、僕らのヒーローはヴィランであって、皆が思うヒーローではない。

 

 下駄箱を通り教室に向かえば途中で角をぶつけたのであろう先程の巨漢が患部を抑えて震えていた。痛そう。

 それにぶつけられた壁の方は大きな穴が出来ていた。壁の方が大ダメージ食らっていた。

 僕は巨漢に話しかけることもなく教室へと入った。

 ガヤガヤと騒がしい部屋には壁を徘徊する紫のスライムの様な見た目の城島くん。クラスで一番人気だ。

 先程、ぶつけて震えていた巨漢の生徒は御井島くん。口を紡いで耐えている。のっしのっしと歩くと座った席は僕の隣。

 見て見ぬふりをした張本人が隣とは可哀想ではあるが、彼処で助けたらそれこそ一般常識なヒーローになってしまう。

 積極的に馴れ合わない。そうでなければヴィランではない。僕はそう思う。…そう思うんだ。

 

 

 地響きと共に雄叫びが空中に放たれる。振動が身体に伝って渦いた。雷が強く鳴って豪雨が降り注ぐ。

「きみ、大丈夫か?」

 手を差し伸べてきたのは一般常識のヒーローだった。僕にとってヴィラン。

 昨日まで一緒に勉強に励んでいたクラスメイトが全員輝かしい“ヴィラン”達にやられた。闇を照らす光とはこの事だろう。自然と怒りが篭もる。


その一言に、その行動に、その強さに。


 僕は無言で睨むようにして輝くヴィランを見た。

「まさか、こんな所に俺達の護らなければならない人間がいるなんてとは思ったけれど。怪我はない?」

「……ないです、有難う御座います」

 敵とは思われぬ様、僕は返事を返した。あの面の向こうは今どんな顔をしているのか。

 護らなければならない人間?巫山戯るな、と思う。でもその悔しい気持ちは今抑えなければならない。僕を囲む様に倒れたクラスメイト、先生やおびただしい量のこの学校の卒業生であるヒーロー(こいつら)と戦うヴィランの先輩達。

 僕は思わず膝をついた。生憎豪雨に照らされて僕の涙は見えない。見えなくていい。ヒーロー(こいつら)に見せる価値などあるだろうか。

 その後、ヒーローが一通り周りを見て安全を確認した後合体ロボット共に帰っていく音を感じた。クラスメイトの死体とその中心に座る僕を残して。

 背景には跡形もなくなった学校の残骸。一瞬にして崩壊した希望が絶望に変わった。

 あんなに強い存在だった担任も、この学校一の強さを誇る学園長ですらも手を出せずに終わった。皆が僕を護るようにして倒れていった。

 

 この時、何故皆が僕を護ろうとしたのかよく分からない。でも、ヒーローと同じで人型だからこそ欺けると思ったのだろうか。僕の能力がバレないように庇ってくれていたのか分からない。分からないけれど、今まで馴れ合うつもりはなかったが後悔した。

 

 そよそよと通り抜ける風に僕は顔を上げた。ゆっくりと立ち上がる。沢山息を吸って、沢山息を吐いた。

「殺す……」

 何気ない一言が僕を引き締めるように強く唸った。でもそれは今じゃなくていい。今は絶対に勝てない事がわかった。僕の能力を使っても。今、僕を護ってくれた彼らの死を無駄には出来ない。僕が死んでしまえばヴィランズスクールは全滅だ。どうやら、しらみ潰しにヒーロー達は他のヴィランズスクールも破壊しているそう。それのどこがヒーローなのだろうか。

 ヒーローにとって僕らヴィランの権利はない。ゴミとして扱われ、街の人間からも冷たい目線を浴びる。だからこんな田舎に建てたであろうヴィランズスクールに入れて僕はとても嬉しいし光栄だ。

 だからせめてと葬る様に全員を、学校を燃やし尽くした。ガソリンを撒いて火をつけるという古典的な技だが。僕の能力で皆を殺したくない。僕の能力を護ってくれたクラスメイトに使いたくない。

「ありがとう」

 あとは任せてくれ。僕が、ヒーロー(ヴィラン)を倒す。

 

―――半年後。

 僕は街からヒーローを跡形もなく全滅させた。身体には返り血が飛び散り背後で怯える人々の方を振り向いた。

 ヒーローの鮮血が刀からぽたりぽたりと落ちていく。

 逃げ惑う人間に関心はなく僕は髪をたくしあげた。光が無くなった目に紋章が浮かび上がる。僕の目は特殊だ。“魔眼”と呼ばれていて能力は“あったものを無に変えること”。いわゆるチートと呼ばれる分類だろう。クラスメイトが護りたかったのはこの能力。

 この能力で街の人間は跡形もなく消え去った。死んだヒーローだけを残して。

 ごろりと蹴飛ばした緑のヒーローと目が合った。

 いや、目が合う?とんっ、と後ずさりして離れる。むくり、と起き上がった緑のヒーローは「やぁ」と笑いかけてきた。

「ちっ…お前かよ」

 この世界にはヒーローになったヴィランがいる。潜入捜査として入った緑のヒーローはのっそり立ち上がって手を振ってきた。

「いやー、本当にヴィランが勝てちゃう日が来るとはね。俺も驚いたよ」

「……」

「あ、この格好だとまずいよね。ヒーローがヴィランと話してると思われたらスクープにされちゃう!」

「気にする所そこかよ」

 彼は緑のスーツを脱ぎ捨て破り燃やした。

 笑いながら話す彼もヴィランズスクールの“クラスメイト”だ。あの日、跡形もなくクラスメイトは死んだ。だが、彼はあの時ヒーロー側にいた為に生き残っている。

「いやー…これからどうする?」

 ぐぐっ、と背伸びした彼が問いかけた。確かにヒーローを倒した後は何も考えていなかった。世界征服とか何も。

「……何も考えてなかった」

「ノープランでやってたの?!」

「だってそうだろ?ヴィランズスクールはヒーローを倒す為の専門学校であってその先はないよ!」

「何なら、俺たちがヒーローになっちゃうとか?」

「はぁ?」

 思いがけない提案に豆鉄砲を食らった顔でみた。先程までヒーローだったやつが何を言い出すかと思えば。

「俺達のヒーローはヴィランであるなら、この街のヒーローはヴィランだ!ってことにしない?」

「…それだとヒーローになる。却下」

「いい提案だと思ったんだけどなぁ」

 確かに“僕ら”のヒーローはヴィランだ。ヴィランこそ、希望だと思う。だけれど街の人間は一般常識のヒーローを希望としている。

 この街のヒーローはヴィランだ、なんて言い出したらヒーローとヴィランの立場が逆転する。あくまで僕はヴィランだ。むしろ、僕はここの人間の命は保証したくない。

「あくまで僕達はヴィランなんだよ。ヒーローになっちゃいけないんだ。だから、この街は終わった。次の街も消滅してやろう」

「なんか……ヴィランぽい!」

「ヴィランだよ!」

 僕達はこの街のヒーローをも“無かったことにする”とその場から去り、次の街のヒーローも消す事にした。

御無沙汰しております。松居です。

長い期間空いてしまい大変申し訳ありません。

継続されてる方凄いと思います。本当に。


今回、ヴィラン目線の話を書かせて頂きました。

ヴィランってなんかいいな、から始まった短編小説。

この世はヴィランが嫌いな方が多そうですがその中にはヴィラン大好き!な方も絶対いる……と思われます。私のように。

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