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骨3

作者: 紫音

その男、骨造正造(ほねづくりまさぞう)といった。

10年に1度の大発見を数えきれぬ程起こし、考古学兼歴史学に於いて大きな功績を残したとして紫綬褒章を貰い、その分野では理事長や会長等の権威を総ナメし、齢80にしても尚その権威に奢ること無く研究に精進し、常に第一線で化石を掘り起こす事に情熱を注いだその男は、初めてスランプに陥っていた。


しかし世間は、そんな正造のスランプなど知る由もなく、今か今かと正造の前代未聞の大発見を待っていた。何故世間がそこまで期待を込めて待っていたかと言うと、やはり前述したように10年に1度の快挙を成し遂げ続けてきたからで、前回の発表から数えてその10年が今年だったからだ。


そんな世間の期待とは裏腹に、正造が現在掘り起こしている場所には特に何も大きな発見が無かった。これ以上堀り続けても、大きな成果は出ないことは正造には分かっていた。そもそも初めの内は、化石が出ることは出たのだが、前回を上回るような、もしくは上回らずとも同程度の、10年に1度と騒がれるような化石は一向に出なかった。その時点で諦めれば良いものの、世間の熱い視線、現場のスタッフからの羨望の眼差しなど、色々期待が高まってしまい、遂に言えずに10年目を迎えてしまったのだった。


正造は、現場で自分を信じて働くスタッフに、何度も諦めの言葉をかけようか悩んでいた。しかし、スタッフ達は博士が間違う筈がないと思っているものだから、指示さえ受ければ一生懸命に働くのであった。その指示を出すのも辛く、正造は遂に現場を離れた。

病気という事にして。


入院先の大学病院では、あの、世界の正造が病気療養するということで大々的にメディア各社を呼び、騒ぎ立てた。わざわざ田舎の大学病院を選んだのに、これでは休めないと思った正造は、転院届けを出したが、転院したとなればせっかく上がった大学病院の権威を落としかねないということで受理されることはなかった。

苦慮して正造は、家に帰る手続きを取ることにした。大学病院では、常日頃からナース、医者などからも研究に関して聞かれ、その上でメディアに晒されるので、精神的にまいってしまったのだ。せめて対応はメディアだけにしようということで、大学病院を抜け家に帰ることにした。その時も大学病院側からNGを出されたが、この大学病院の主治医とナースのみで自宅へ往診するということで合意に至ったのであった。


10年目が過ぎ、世間からも忘れられると思っていたが、逆に、更に風向きは強くなった。

メディアでは、期待を膨らませるような報道や、過去の大発見の特番、研究チームの現在の様子等、あらゆる形で正造の期待値は本人の同意もないまま、ただただ膨れ上がっていった。


12年目。世間は静かになった。正造の研究チームは研究を続けていたが、どうやらこれは化石は出ないと疑う者も出始めた。

正造はこの時、BBQにハマっていた。自宅療養中の家から火事だと騒がれたこともあった。

それでも過去の栄光があまりにも大きく、正造の権威は失墜することはなかった。


13年目。正造の研究チームは解散し、メディアの露出は皆無となった。

相変わらず正造はBBQにハマっていた。その異常なハマりように、どうやらボケ始めたようだと言う者も居た。


15年目。10年に1度の大発見を見ること無く、5年が過ぎた。もはや正造の名前は忘れかけられていた。正造はBBQから釣りにハマっていた。

しかしそれでも権威は失墜すること無く、正造は考古学歴史学の権威として世界から羨望の眼差しを受けていた。


20年目。

10年に1度の大発見‼遂に骨造正造復活!

この日の新聞は飛ぶように売れた。連日メディアは正造を取り上げた。過去の映像も再編集され、現在の正造の研究と共に特番が組まれた。


え~、それでは今回、大変な大発見をされた骨造正造博士より、発表をお願いしたいと思います!どうぞ!


大々的なステージに呼ばれた正造は、実に20年ぶりに脚光を浴びる事に快感を覚えた。危なく漏らしそうになった。


え~それでは先生。今回の大発見は如何なるものだったのでしょう?


はい。私が先日庭先で発見したのは、世にも珍しい化石です。ケンタウロスペガサス人魚とでも言いましょうか...

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