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追放先の呪われた森がいつの間にか聖域認定されていた。~【浄化】スキルに目覚めた俺、神竜や大精霊たちに囲まれて一国の王になる~  作者: 戸津 秋太
第二章

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第40話 王都震撼

「一体どうなっている!」


 王の間。《臣民の視座》で事態を見守っていたケイラスは、怒声を撒き散らす。

 ゼスが建国宣言をした後、大樹海に送り込んだ兵士たちの視界が一瞬にして途絶えたのだ。


 状況からして、ゼスが何かしたのだ。

 しかし、何をしたのかがわからない。

 それがより一層、ケイラスの苛立ちをかき立てていた。


 そして何より、《臣民の視座》による視界を失うたびに「お前は王として相応しくない」と突きつけられているような気分になる。


「へ、陛下、どうか気をお鎮めください」


 慇懃な態度で気遣ってくる秘書官。

 しかし彼に対しても、ケイラスの《臣民の視座》は弾かれる。


 それは、この秘書官もまた自身のことを崇めていないことを雄弁に物語っていた。


「っ、黙れ!」


 苛立ちを募らせたケイラスは玉座の肘掛けに拳を下ろす。


(あの様子では、バウマンは捕虜となったか。かくなる上は大樹海を一度放置するほかない。――弟を殺すような真似はせんだろう。そんなことをすれば滅びることぐらい、わかっておろう。国などと(うそぶ)いても所詮はちっぽけな村一つ。攻め入る戦力もなかろう)


 じんじんと手に伝わる痛みで冷静さを取り戻したケイラスは、頭の中で思案する。


(そうだ、バウマンの身柄引き渡しを要求し、彼奴を王都へ呼び出せばよい。さすれば後はどうとでもなる)


 深く息を吐き出しながら、ケイラスはにやりと笑みを刻む。


「洗浄屋風情が王を名乗るなど、捨て置けるものか」


 建国宣言をしたゼスの姿を思い返しながら、忌々しげに吐き捨てる。

 そしてその瞬間、ケイラスの脳裏に一抹の疑問がよぎった。


「……なぜ、私はこんなにも彼奴のことが気に食わぬのだ」


 王族らしからぬ職業を授かり、《洗浄》などという無価値なスキルを有し、失望と落胆を抱えたのは当然のこと。

 弟のバウマンが優秀な職業に目覚め、ゼスへの興味が失せたのも自然の流れ。


 だが、ゼスを廃嫡するに至った衝動は一体なんだったのか。


「――いや、私は正しい。バウマンを取り戻し、ゼスを排せば、あの大樹海は我々のものになる」


 心の内に業火のごとく野心を燃え上がらせながら、ケイラスは今後の指針をはっきりと定めた。

 そんなときだった。


「陛下! 大変でございます!」


 突然王の間の扉が乱暴に開かれ、衛兵が現れる。


「何事だ、ここを何処と心得るか!」

「りゅ、りゅ、竜がっ!」


 ケイラスの叱責を意にも介さず、混乱状態にある衛兵は窓の外を指さした。


「竜が! 王都へ現れましたっ!」


 衛兵がそう叫ぶと共に、王の間に影が差した。

 陽光を取り込んでいる大きな窓へ視線を向けた瞬間、ケイラスは息を呑む。


 黄金の瞳が、覗き込んでいた。


 楕円形の瞳孔がジロリと王の間を睨め回し、ケイラスを捉える。

 その瞬間にケイラスは心の臓を掴まれたような畏怖を覚えた。


 竜だった。窓の外に、純白の体表を陽光に輝かせて燦然と羽ばたく、白竜がいた。


 なぜ、竜がここに。

 そんな疑問を抱くまもなく、白竜の巨大な顎が開かれる。


「――ッ」


 ケイラスの脳裏によぎったのは、竜が放つ火炎。

 すべてを焼き払う暴虐の象徴たる《竜の息吹》だった。


 王の間にいる誰もがその未来を予感し、諦観を抱く中、白竜の咆哮がビリビリと轟き、窓が粉々に砕け飛ぶ。


 空気が震え、吹き飛ばされそうになりながら逃げ場を探すケイラスは、この場にいるはずのない存在を目にした。


「お騒がせしてすみません。でもまあ、その点についてはおあいこってことで」


 白竜の背から飛び移るようにして窓際に着地したゼスは、この状況には不釣り合いなほど飄々と言葉を紡いだ。





 ◆ ◆ ◆





「ゼ、ス……?」


 ハクの咆哮で王冠を落として髪を乱し、玉座で中腰になっているケイラスが譫言(うわごと)のように名前を口にしてきた。

 その声につられる形で彼を見たゼスは、ゆっくりと目を見開く。


「私を、殺すのか……?」


 震え声で怯えきった眼差しを向けてくるケイラスを、ゼスは意外に思った。


 ――小さかった。


 以前はあまりにも大きく見えた父の姿が。

 王として絶対的な権力を有して、逆らうことは愚かそのような発想を抱くことすらできなかったあの父が。


「わ、私を殺せば、どうなるかわかっておろう! 私はアークライト王国国王、ケイラス・アークライト! 国の長を殺めたものを、世界は捨て置かん!」

「…………」


 命乞いのように言葉をまくし立てるケイラスを、ゼスはただ静かに見つめる。

 その眼差しに、ケイラスは表情を引きつらせた。


「……なんだ、その目は」

「――――」

「この私を、憐れんでいるのか……ッ」


 それは殺されることよりも屈辱だと、ケイラスはこの場に集った衛兵へ叫ぶ。


「何をしておる! さっさとこの者を捕らえぬか!」

「む、無理です……ッ」


 指示された衛兵たちはすっかり怯え腰になっていた。

 王笏を手にするゼスの輝きと、隣に並び立つユグシルの放つ雰囲気に圧倒され。

 窓の外からすべてを見届けようとする白竜の存在に畏怖し。


 この場の誰もが、逆らってはいけない、逆らえないのだと悟っていた。


「ケイラス・アークライト」


 衛兵たちが動かないことに歯ぎしりするケイラスへ、ゼスは先ほどまでの雰囲気を一転、淡々とした声音で告げる。


「俺がここに来たのはあなたを殺すためでも、ましてやこの王国を混乱に陥れるためでもない。俺からの要求はただ一つ。――建国を認め、これ以上侵略しないこと。それだけだ」

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