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追放先の呪われた森がいつの間にか聖域認定されていた。~【浄化】スキルに目覚めた俺、神竜や大精霊たちに囲まれて一国の王になる~  作者: 戸津 秋太
第二章

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第37話 神々の御意志

「……妙だな」


 大樹海に送り込んだ軍を、《臣民の視座》でゼスの姿を捉えたポイントへ集結させ、西側へ進行を始めてから数時間。

 王の間でその光景を眺めていたケイラスは、その奇妙な状況に眉を寄せた。


「ここは本当に大樹海の中なのか?!」


 王の間にはバウマンの姿はなく、代わりに魔法使いが怯え腰で答える。


「ま、間違いなくそのはずです。座標では確かに大樹海南東部を示しております」


 魔法使いの足下には大陸の地図があり、大陸中央を縦断する大樹海の右下に無数の光点が浮かび上がっていた。


「しかし、行軍を始めてから一度も魔物に遭遇していないではないか!」

「お、恐れながら、この一帯はもしかすると魔物が出現しない地域なのではないかと……」

「ぬ? ……そうか、だから彼奴(きゃつ)は生きていたのか! 運良く魔物のいない地に飛ばされ、のうのうと生きながらえるとは……ッ」


 玉座の肘おきに乗せたケイラスの拳がワナワナと震える。

 森流しの刑について考え直す必要があるとケイラスが呟く中、王の間に映し出された映像に変化が現れた。


 人工物だった。

 この大樹海に侵攻を始めてからというもの、自然のものしかなかったこの場所で、それはあまりにも目立っていた。


 遠目からでもその存在を確認できる。


 大樹海にはドワーフ族やエルフ族などが息を潜めて生活をしており、その村の所在を国は当然認知している。

 だが、この地点は未開の地――のはずだ。


 いくつもの建物が建ち並ぶその光景に、ケイラスは獰猛な笑みを浮かべる。


「初めての親孝行だ。まさかこんな贈り物をしてくれるとはな」





 ◆ ◆ ◆





 ユグシル村の中心地に(そび)える大樹。

 その先端付近の枝葉に腰掛けて、ゼスは地上を眺めていた。


 活気づくユグシル村ではエルフ族やドワーフ族が忙しなく駆け巡り、……ソニアはなんだか走り回っていた。


 ちなみにハクは大樹海の西側へと飛んでいった。

 ゼスが大樹海に送り込まれる人を心配していることを察したのだろう。

《浄化》を施していない場所を重点的に巡回してくれているらしい。


 いつもと違うのは、フローラの《治癒》で快復した王国兵たちが率先して作業を手伝っているところだ。

 その王国兵の中には、昨晩家に押しかけてきた教国の遣いの姿もあった。





「……君たちは、王国に送り込まれた密偵なのか?」


 ゼスが訊ねると、彼らは傅いたまま首を横に振る。


「我々はセレスティア教を信奉する者。それ以上でもそれ以下でもございません。そしてそれゆえに、我々はどこにでも存在するのです」


 否定も肯定もしていない曖昧な物言い。

 だが、嘘をついているわけでも煙に巻こうとしているわけでもないのだろうと、ゼスは感じた。


(セレスティア教の信者はそれこそ大陸中にいるもんな)


 それこそが神聖セレスティア教国の強み。

 国土が矮小ながら、教皇の号令で数多の信者が立ち上がるだろう。


 ひとまずの納得をしつつ、ゼスは次の問いに進む。


「どうして俺のことを……いや違うな、俺を支持するというのはどういう意味なんだ」

「言葉通りの意味にございます。神聖セレスティア教国は、この地でゼス様が行われるありとあらゆる行動を支持いたします」

「ありとあらゆるって……」


 ゼスの呟きに彼らは首肯した。


「この地は聖都に並ぶ、第二の聖域。それを生み出したゼス様は、神々が地上に使わした聖者。その行いに否を突きつけられるはずもございません」


 どうして《浄化》のことを知っているのか、問うても無駄だとゼスは悟る。

 教国には予知や千里眼に近いスキルを有する者がいると聞く。

 そのスキルによるものだろう。


「過分な評価だけど、本当にいいのか? 俺はアークライト王国を追放された咎人。何をしでかすかわからないぞ」


 軽く脅すつもりで訊ねるが、返ってきたのは沈黙だった。


 このユグシル村の人たちと同じように、恭しく自分を崇める彼らに向けて、ゼスはぽつりと呟く。




「なら――――」




 ゼスの問いに、彼らは声を揃えて答えた。


「それもまた、神々の御意志ですので」





 セレスティア教徒たちとの会話を思い返していると、視界にユグシルが入り込んできた。

 地上を見下ろしていたゼスの顔を覗き込む形で下から現れたので、胸元が無防備になっている。


 ゼスは自然に目を逸らすと、ユグシルはふわふわと漂ってゼスの視線の先に入り込んだ。


「何を考えてたの? こんな場所に来たいなんて言って」


 ふわりとゼスの隣に腰を下ろしたユグシルは、不思議そうに訊ねてきた。

 ゼスの身体能力では大樹の先端まで上ることは不可能で、彼女に頼んで連れてきてもらったのだった。


「色々と整理していたんだよ。俺のやりたいこととか、みんながやりたいこととか、どうなりたいかとか」

「整理できた?」


 口元に弧を描きながら、ユグシルは問うてくる。

 その翡翠色の瞳は何もかもお見通しのようだ。


「初めて会ったとき、ユグシルは俺にこう言ったよな。俺の力があれば名誉や名声、色々なものを手に入れることができるって」

「……ゼスは、性に合わないって一蹴してた」


 ユグシルはくすりと思い出すように笑った。


「今でもそう思うけど、俺のやりたいことが前とは少し変わってさ」


 ゼスはそう言いながら地上を見下ろす。


「俺は、みんなと(・・・・)のんびり暮らしたいね」


 そう言って、ゼスはユグシルへ手を差し出す。


「騒がしくなると思うけど、手伝ってくれるか?」


 ユグシルはその手を掴まず、ふわりと浮かび上がる。

 呆気にとられるゼスの背後へ回り込むと、肩から前へと手を回して背中にぎゅっと抱きついた。


 そして彼女が耳元で何か囁きかけたとき、ピクリと、何かに反応するように東の空を見た。


「……たくさん人が来てる」

「まさか、王国の?」


 ユグシルの呟きにゼスも東を見た。

 地上が騒がしくなったのは、それから一時間後のことだった。

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