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追放先の呪われた森がいつの間にか聖域認定されていた。~【浄化】スキルに目覚めた俺、神竜や大精霊たちに囲まれて一国の王になる~  作者: 戸津 秋太
第二章

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第31話 ロバートの仕事と家族

 アークライト王国財務官、ロバート・マニメント。

 早くに亡くなった当時財務大臣だった父の跡を継ぎ、領地を持たない法衣貴族であるマニメント侯爵家の当主となった。


【分析官】である彼は、若いながらにその才覚を遺憾なく振るっていた。


 ゼスも王城で何度もすれ違ったことがある。

【洗浄屋】であった自分にも敬意を払ってくれていたのは、法衣貴族だからなのか、あるいは彼生来の気質によるものか。

 ――恐らく、その両方だろう。


(そんな彼がまさか森流し(・・・)に遭うとは)


 意識を取り戻したロバートから事情を聞いたゼスは、小さく嘆息した。


(国を思って反対意見を口にしただけなのに、俺の一件で(たが)が外れたのか)


 ロバートは最近の行き過ぎた軍事予算の増額と増税に反対しただけで森に飛ばされたという。

 彼の言葉を信じるなら酷い話だ。


 一度でも強引に国家反逆罪の汚名を着せ、極刑である森流しの刑に処したことで、目障りなやつには同じ事をすれば良いという考えに至ったのだろう。

 とはいえ、そこまで強気でいられる理由がゼスには理解できないが。


「しかし、まさかゼス殿が王族だったとは……」

「俺はわかってたぜ! ゼス様から漂う高貴な品格を!」

「俺もずっとただ者じゃねえとは思ってたんだ!」

「ゼス殿下! 万歳!」

「……やーめーろー」


 ロバートの事情を聞く過程で、ゼスの事情も村人たちに知れ渡ることとなってしまった。

 騒ぎを聞きつけ広場に集まった村人たちの歓声のような声にゼスは諦めたように呟く。


「しかしアークライト王国……ひでぇ場所だぜ」

「いやいや、そのおかげで俺たちはゼス様と会えたんだ。感謝してもしきれねえよ」

「そうだそうだ! アークライト王国万歳!」

「……もう、好きにしてくれ」


 収まることを知らない村人たちにゼスは諦める。

 フローラやララドたちもどこかキラキラとした目を向けてくるので、手に負えなかった。


「しかし、まさか大樹海にこのような場所があるとは思いも寄りませんでした」


 ひびの入った眼鏡をかけなおしながら、ロバートはぐるりと周囲を見渡す。


「それに、まさか大精霊と竜まで住み着いているとは」

「ユグシルは元々この場所で暮らしていたんだけどね。ああそれと、ハクが君を見つけてここまで運んでくれたんだよ」

「それは……感謝してもしきれません。本当にありがとうございました」

「ガルゥ!」


 深々と頭を下げたロバートに、ハクは誇らしげに唸る。

 その返事があまりにも人間らしかったからか、ロバートは引きつった笑みを零した。


「はは、いまだに夢見心地ですよ。陛下から糾弾され、森に飛ばされて半日。何度死んだと思ったことか、何度死を覚悟したことか……」

「安心してよ。ここならもう魔物が出ることもないし、家もあれば食料もある。それに」


 ゼスは改めてロバートに《洗浄》をかけた。


「綺麗にもなれるしね」

「これは……そうでした、ゼス様はよく城のメイドたちにスキルをお使いになられていましたね」

「知ってたんだ」

「渡り廊下を歩いていたときに何度か。……私はそのたびに思っていたものです。この方なら――」


 ロバートは遠い景色を眺めるような眼差しをゼスに向け、ふっと笑みを零す。


「ロバート?」

「……いえ、いまさら思っても詮無いことです」


 頭を左右に振り、何かを忘れようとするロバート。

 そんな彼に、ゼスは手を差し出した。


「まあ色々と災難だったけど、俺も君もこうして無事なわけだし、これからは一緒に頑張ろうよ。この村はみんなが頑張ってくれてるおかげで結構楽しくて良い場所だよ。俺もやりたいことができてる」

「よろしいのですか?」

「もちろん」


 ゼスの頷きに合わせるように、周囲に集った村人たちも「当たり前だ!」「あんたがダメなら俺たちも出て行かねえとな!」と口々にまくし立てる。

 そんな彼らを見つめ、ロバートは小さく笑んだ。


「――こんな私でよろしければ、喜んで」


 ロバートはゼスの手を取ることなく、その場に傅く。

 それは臣下の礼であり、その洗練された所作にこの場に集った村人たちの目は奪われ、やがて喝采がこの場を支配した。


 その日の夜に村総出でロバートの歓迎会が開かれたのは言うまでもない。

 昼間の騒動で酒を思い出してしまったのか、ララドたちは何度も「酒があれば……っ」と悔しそうにしていた。





 財務官であった経歴からロバートには村の交易の管理を任せることとなった。

 新参者の自分が……と渋っていたものの、ひとまず交易の帳簿を見せてみる。


「こ、これは……っ」


 場所はゼスの家。

 帳簿を掴んだ両手をわなわなと震わせ、ロバートが唖然とする。


 同席したララドたちが固唾を呑んで見守る中、ロバートは絞り出すように零した。


「酷すぎる……」

「そ、そんなに?」

「あ、いえ、皆様が考えになったことを軽視するつもりは……。ただ、投資や交易の観点で考えると、その……」


 恐縮しきったように肩をすぼめるロバートに、ゼスは苦笑する。


「いやいや、遠慮しないで良いから。ロバートみたいなプロの考えを聞きたくて帳簿を見せたわけだし。……それで、どうかな?」


 ゼスたちの期待に満ちた眼差しに、ロバートは小さく息を吐き出すと、ぐっと胸の前に手をやる。


「不肖ながら、このロバート、ユグシル村の長期的な発展に寄与できるよう、粉骨砕身務めさせていただきます!」





 ◆ ◆ ◆





「この時期は野菜類が高騰しています! 今月の納品分は二割ほどを貨幣とし、貯蓄に回しましょう」

「嗜好品を購入するのは大変よろしいかと思います。しかし! 最近王国産のエールは品薄になっています。帝国のワイン類を求められた方がよろしいでしょう!」

「それとエルフの皆様が作られる工芸品は、冬になるにつれて生産量も減るでしょう。その辺りを踏まえ、次回の商談ではもう少し値を引き上げねば!」


 交易所で帳簿を片手に立ち回るロバートはとても熱意に満ちていた。

 最終的な承認をゼスが行うとはいえ、交易に関する権限の大半をロバートに委譲したことはすでにシルク商会にも通達していて、今後商人との商談は彼が行うことになる。


 そんなロバートを、ゼスは交易所の外から気遣わしげに眺めていた。


「ゼス、何か心配?」

「ユグシル……」


 そんなゼスの様子に気づいたユグシルが不思議そうに訊ねてきた。


「彼、本当に優秀。【分析官】のスキル《査定》のおかげ」

「まあ、優秀だからこそ飛ばされたんだろうけどね。ロバートの財務官としての腕を心配してはいないよ」

「だったらどうしてそんなに不安そうに彼を見ているの」

「そう見える?」

「見える」


 ユグシルの翡翠色の瞳に見つめられ、ゼスはぽつりと零した。


「今の彼の熱意が、なんだか空元気に見えてね」

「空元気?」

「たしか、ロバートには妻と子どもがいたはずなんだ。彼の口から一度もそのことが出ていないのが気がかりでさ」


 幸か不幸かアークライト王国では連座制はとられていない。

 ロバートが森流しの刑に処されたからといって、その家族も同じ刑を受けることはないが、その後の生活が保障されているわけでもないのだ。


 今この瞬間も路頭に迷っている可能性は十分に考えられる。


 ユグシルもまたゼスのようにロバートを眺めた。


「……仕事に没頭して、忘れようとしてる?」


 彼女の呟きにゼスも頷く。


「俺にはそう見えただけなんだけどね。もしそうなら、なんとか家族に会わせてあげられないかなって」

「そう思うなら、連れてくればいい」

「え?」

「この村には、転移陣がある」

「! そうか、そうだよ! ユグシル、君は天才だ!」

「ふふん、ゼスはおばかさん」

「いやそこは俺を貶さなくてもいいじゃん」


 胸を張りながらしれっと馬鹿にしてきたユグシルをジト目で睨むと、彼女はつんつんと頭をつついてきた。


 そんなユグシルを振り払うようにして、ゼスはロバートの下へと駆け寄った。

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