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追放先の呪われた森がいつの間にか聖域認定されていた。~【浄化】スキルに目覚めた俺、神竜や大精霊たちに囲まれて一国の王になる~  作者: 戸津 秋太
第二章

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第28話 《交易路》の完成

「いやあ、これは本当に堪りませんね! 観光資源として利用できないのが惜しいぐらいですよ!」


 シルク商会との四度目の商談を経て、いよいよ交易に向けての話が纏まった。

 その間にスターロードとは随分と親しくなり、ゼスは商談後に彼を村の温泉に招いていた。


 屋外に設置された露天風呂。

 あまり広くはないものの、周囲を木々に囲まれてどこか秘境らしさを醸し出す場所。

 大小様々な岩を組み上げて作られた湯船に浸かり、ハットの代わりに頭にタオルを載せたスターロードが楽しげに叫ぶ。


 最初に出会った時よりもなんだか若返った気がする。

 そんなことを思いながら隣に浸かるゼスは、スターロードの言葉に「それはよかったです」と笑い返した。


「いやぁ、商談関係なくこの村に居たいものですね。ここはいい。穏やかでのんびりとした空気が流れていて。外の世界は殺伐としていますからね」

「殺伐と?」

「権力のあるところ、争いあり、ですよ。私がこの村と交易を結びたかったのもそうした背景がありましてね」


 スターロードはタオルを手に取りながら、空を見上げた。

 まだ昼間。青々とした空が枝葉の合間から見え隠れしている。


「ドワーフの皆様の製造する武具はただでさえ高品質なものが多い。加えて大樹海の良質な鉱石。――この大樹海産の武具を求める方は多いのですよ」

「そうした武具の流通を独占できれば、裏から大陸の勢力図を支配できる――と?」

「はは、まったくゼス様にはかないませんね。経済的にも軍事的にも影響を持つことができれば、商会はその枠組みを超えて大陸に影響力を持てる。……まあ、今はもうそこまで大それたことは考えていませんが」

「どうしてですか?」


 ゼスの問いに、スターロードは小さく笑みを浮かべた。

 そうして何かを悟ったような表情で口を開く。


「自分がその器でないと最近思い知りましてね。強欲は身を滅ぼす――商人の鉄則ですよ」

「はぁ……」


 説明というよりも自分に言い聞かせるような物言いに、ゼスは曖昧に頷き返す。


「それよりもゼス様、《交易路》を使うにあたってゼス様に決めていただきたいことが」

「なんですか?」


 スターロードはにこやかに告げた。


「この村の名前です」





 ◆ ◆ ◆





 交易を結んだ場所へ人や物を転移させることのできるスターロードのスキル、《交易路》。

 それを使うためには、転移先の地点に特殊な陣を築いた上で、場所の名前を登録する必要がある。


(ゲームで転移先を選ぶみたいなものなんだろうな)


 スターロードの話を聞いたゼスはそう納得した上で、村人たちと相談する旨を伝えた。


 そして、


「――ということなんだけど、どう思う?」


 場所はララドたちの工房。

 鍛冶作業に勤しむドワーフたちが、ゼスの問いに手を止めて考える。


「どう、と言われましても」

「おうよ、ここは元々ゼス様が見いだした地。別に俺らに聞かなくても」

「あ、ゼス村ってのはどうですか!」

「ふむ、ゼス村。確かによいな」


 ドワーフの一人の提案にララドも乗る。

 その会話にゼスは「いやいや」と頬を引きつらせた。


 次いで、農作業に勤しむエルフたちに訊ねる。


「私どもは新参者ですので、ゼス様やドワーフの皆様がお決めになってください」


 現状、村唯一の獣人であるソニアの場合は。


「がる? 名前なんてなんでもいいっ。あたしと旦那様が一緒なら! ……あ! ゼスソニア村とかどう? あたし、天才!」

「却下」

「がう……っ」


 続いて、炊事場にいるピーターの意見を聞くと、


「わくわくのんびり村なんてどうでしょう! 村の雰囲気にあってると思いますっ」

「う~ん、ピーターらしくていいと思うよ」


 そして、診療所のフローラの下を訪ねる。


「村の名前ですか? ……ゼス村、とか、は……ダメですよね」

「わかってるなら言わないでよ」


 最後に、ハクを頭の上に乗せて神殿にいるユグシルの下を訪れた。


「ガルル!」

「ハクはゼスがいればなんでもいいって言ってる。私も同意見」

「なんでもいいって、本当になんでもいいのか?」

「村のみんなも似たような思いだと思う。そもそも村の名前なんて、本来は長い時間の流れで自然と決まっていくもの。そうでない以上、ゼスが好きに決めていいと思う」

「そうか……じゃあ、色々考えてみるよ」

「楽しみにしてる」

「ガル!」


 ユグシルの微笑みにあわせて、頭上のハクがばさりと両翼を広げた。





 ◆ ◆ ◆





 村の中心地にほど近い場所に、交易所が設けられるようになった。

 簡易的な建物だが、荷馬車を止めておくスペースも確保されている。

 スターロードの助言の下、交易所として何不自由ない設備が整っていた。


 そして、その交易所の一角。屋外になっている場所の地面に魔方陣のようなものが刻まれている。

 これが《交易路》で必要な陣。

 ここで荷の受け渡しが行われる。


「よし、完成です」


 小さなスコップで地面を削り、そこに溶かした鉱石を流し込んで冷却。

 無事に固まったのを確認し、スターロードが満足げに頷いた。


 彼は先に部下たちを陣の上へ乗せ、ゼスたちへ振り返ってくる。


「それでは、これから末永く我々シルク商会をよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 スターロードが差し出してきた手を、ゼスは村を代表して握り返す。


 部下たちに続いて陣の上に乗ったスターロードは、にこやかに告げた。


「では、《交易路》を開かせていただきます。――登録:ユグシル村」


 陣が輝き、その光がスターロードたちを覆い隠していく。

 少しの時間を経て光が収まると、そこにはシルク商会の姿は残っていなかった。


(これが《交易路》……城の魔法使いが使った《転移》に少し似てるな)


 ゼスとしては少々苦い思い出を振り返っていると、どこからともなく現れたユグシルが声をかけてくる。


「ユグシル村?」

「ああ、ほら、ここはユグシルが元々いた場所だし、あの大樹が村の中心だろ? だから相応しい名前じゃないかって思ってさ」

「……安直。ゼス村が嫌だから私に押しつけただけ」

「違う違う! ほら、精霊の名前が村の名前になるのって割と一般的だし!」


 不満そうにするユグシルに慌てて弁明するが、ジト目で睨まれる。


「がぅ、絶対あたしの考えたゼスソニア村がよかった! 旦那様、意地悪!」

「いや、それはいくらなんでもないから……」


 これまた不満げなソニアに苦笑していると、ユグシルは何かに気づいたように目を見開く。

 そうして小さく笑うと、ゼスの服の裾を掴んだ。


「ユグシル村、気に入った」

「え、突然なに」

「ふふっ、いい名前」

「え、えぇ……?」


 なぜか突然ご機嫌になったユグシルに困惑しつつも、気に入ってくれたならいいかと胸を撫で下ろす。

 そんなゼスをよそに、ユグシルはくるくると舞うように大樹の上へと飛んでいった。

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