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追放先の呪われた森がいつの間にか聖域認定されていた。~【浄化】スキルに目覚めた俺、神竜や大精霊たちに囲まれて一国の王になる~  作者: 戸津 秋太
第二章

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第25話 ゼスの葛藤と神殿

 洞窟温泉の開設から一月。

 すでに村の中にはいくつもの温泉施設が開設され、住民たちの間ではすっかり人気の施設となっていた。


 ドワーフは鍛冶や採掘を終えると、いの一番に温泉に向かってひとっ風呂。

 エルフたちは朝起きてすぐに湯浴み。

 種族ごとに風呂に入るタイミングが違って面白い。


 そんな中、


「うぐぬぬぬ……」


 ゼスは、いつもの定位置(クリーニング屋)で唸っていた。


「どうしたの」


 ふわりと舞い降りてきたユグシルが、ゼスの前でくるりと一回転しながら訊ねる。

 今日も新しい服を着ていた。エルフ族の衣装らしい装いだ。


 ゼスは「似合ってるな」と声をかけつつ、村の中を行き交うエルフやドワーフたちに視線を向けた。


「いや、温泉が流行ったことは嬉しいんだけど、そのせいかみんな綺麗だなって」

「いいことじゃない」

「そうなんだよ。いいことなんだよ。でもなぁ……」


 ゼスはう~んと唸りながら両手をワキワキと動かす。


「《洗浄》のしがいが、ない!」

「今も洗濯してるじゃない」

「慣れた。どんなに洗濯物が多くてもスキルだとすぐに片付くしな」

「……めんどくさい」


 ユグシルの突き放すような言葉に、ゼスはがっくしと項垂(うなだ)れる。


(いやまあみんなが綺麗でいられるのはいいことなんだけども……っ!)


 わかっていても両手が(うず)いてしまう。


 ふと空を見上げると、珍しく雨雲が近付いていた。

 灰色の雲。禁断症状からか、ゼスは思わず真っ白にしてやりたいと思い――頭を振った。


(くだらないこと考えてないで目の前の洗濯物に向き合わないと失礼だろ)


 温泉への嫉妬と戦いながら洗濯物に《洗浄》をかけ続けていると、ユグシルの下にエルフの少女が近付いてきた。

 彼女の隣には母親らしき女性の姿もある。


「あの、大精霊様。この子の職業を視てはいただけませんか」

「うん、いいよ」

「ありがとうございます!」


 ユグシルの体から光が溢れ、周囲に光の粒が溢れ出す。

 王城で、ゼスが神託の儀を受けたときの光景に似ている。


 もっともあのときは精霊の代弁者である神官がいて、周囲に漂う精霊の気配と力はユグシルほどではなかったが。


 やがてユグシルの光が収まり、少女を高みから睥睨(へいげい)するような眼差しで告げた。


「――【裁縫師】」


 大精霊が、少女に神々から授けられた職業を告げ、それと同時に少女が頭を押さえて苦悶の声を漏らす。

 少女のスキルが目覚める。【裁縫師】としての技能(スキル)が。


「ぁ、ありがとうございました……っ」


 自分のスキルを自覚した少女は、ユグシルへ感謝の言葉を口にする。




 神託の儀は、神々から職業とスキルを授かる儀式だ。

 国や土地に住まう精霊の力を借りて行う場合と、祝福系のスキルを持つ神官、あるいは神遺物の力で職業を授かる場合がある。


 成長し、自己が確立すると共に神々がその人間に与えた職業。その職業を明らかにし、職業名を告げることで、初めて人は自身の職業を自覚できる。


 そうして自覚することでそれに付随したスキルを認識できるのだ。


 だが、職業を告げる存在がいない大樹海では、職業を授かる手段が限られる。

 ドワーフ族たちはたまに訪れる外界からの交易相手と交渉し、神託の儀を受けていたらしい。

 フローラたちは集落の中の祝福持ちのエルフから同じように職業を教わったようだが、つい昨年に亡くなってからは職業を告げる者がいなくなっていた。


 そんな中、大精霊であるユグシルが神託の儀を請け負うようになったのは自然な流れだ。


 感謝を何度も口にしながら去って行くエルフの親子を見届けつつ、ゼスはぽつりと呟く。


「そういえば、ララドさんたちがユグシルのための神殿を建てようって言ってたぞ」

「……別に、いいのに」


 口調は素っ気ないが、どこか嬉しそうだ。

 いつもは自分が大精霊だと自慢げに振る舞うくせに、こういうときに照れるのは意外だった。


「それにしても、神殿に神託の儀に、温泉か……。いよいよ村っていうよりはどこかの国の首都みたいだな」


 アークライト王国の王都の町並みには流石に劣るが、人々の笑顔や活気で言えば負けていない。

 ゼスはそんなことを思うのだった。





 ◆ ◆ ◆





 ユグシルの神殿は彼女の希望でゼスの家の隣に建てられた。

 石材を掘り出して建てられた建築物。神殿、というよりは小さな祠だ。


 正倉院のようなゼスの家の両脇を、石造りの祠と東屋のような小屋が挟んでいる。

 そのためか、周囲の町並みとは一線を画した雰囲気を放っていた。


 どう見ても、ゼスの家がこの村の中心地。そう言わしめる迫力がある。


「やっぱりこの家は俺には重すぎるよなぁ」


 そんなことをぼやきながら、ゼスは神殿の中を楽しげに飛び回るユグシルを眺めていた。

 と、そこへララドが近付いてくる。


「ゼス殿、少しよろしいですかな?」

「うん? どうしたんですか」

「実はご相談がありまして。……わしらが以前に住んでいた集落からの移住が完全にすんだことで、元の集落へ交易に来ていた外界の者が訝りましてな。どこへ移住したのか紹介しろと申すのです」

「あぁ……」


 移住が住むまでは元々の集落で交易相手との物品の受け渡しをしていたが、寒村となった村内でのやりとりに交易相手が不思議がったらしい。


「まあ、大所帯になってそろそろ正式に村として交易もしていかないととは思っていたけど」

「では……」

「うん、その交易相手の人をここまで案内してください」

「わかりました。では、後のことはゼス殿にお任せしますな」

「え、なんで」


 ふわふわ漂っていたユグシルが諭すように呟く。


「いい加減、諦めて」

「ユグシル様のおっしゃるとおりですぞ」

「……あー、うん。じゃあまあ、わかりました。俺も挨拶しますよ。すればいいんでしょ」


 二人の真っ直ぐな眼差しに、ゼスはため息を零しながらどこか投げやりに応えた。

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