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追放先の呪われた森がいつの間にか聖域認定されていた。~【浄化】スキルに目覚めた俺、神竜や大精霊たちに囲まれて一国の王になる~  作者: 戸津 秋太
第二章

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第24話 温泉と想定外

 村の中心地から少し離れた洞窟。第二工房の建設予定地だったその場所は、ゼスの指示で別の施設へと変貌を遂げていた。

 その施設が遂に完成を迎え、ゼスは先んじてその施設を利用することになった。


 仄暗(ほのぐら)い洞窟内。元々工房のために中は広めにくり抜かれていたが、その洞窟の中を湯気が埋め尽くしている。

 岩壁に埋められた灯篭(とうろう)の明かりが湯気で乱反射して、不思議な輝きを放っていた。


 そして、そんな空間の最奥に湯船がある。

 岩の地面をくり抜き、溢れ出る熱湯をため込んだ天然の温泉。

 壁際には出口に向けて傾斜のある溝が掘られ、空気の取り込みと排水の両方の機能を果たしていた。


 入り口近くに設けられた脱衣所で服を脱いだゼスは、自分の体に《洗浄》をかけてから、洞窟内――もとい洞窟温泉に足を踏み入れる。

 そして、これまた製作を頼んでおいた木桶で湯船のお湯を掬い、体にかける。


 そうして、足先からゆっくりと湯船に浸かった。


「うぁあ~~~最高だぁぁ……」


 肩まで浸かると共に、内側から絞り出すような声が漏れ出す。

 じんわりと足先から温まりながら、湯船の縁にもたれかかり、天井を見上げた。


「やっぱり温泉っていいよなぁ。《洗浄》で綺麗にはなるけど、湯船に浸かるのってそれとは別に気持ちいいし」


 銭湯によくある広さの浴槽に浸かっているのはゼス一人。

 ドワーフたちも誘ったが、みんな遠慮していた。


(まあ、この世界ではお湯に浸かるっていう習慣がないから仕方ないけど)


 城で暮らしていた時でさえ、お湯を張った風呂というものはなかった。

 前世でいうところのサウナのような蒸し風呂で汗と汚れを流し、水を被ってから清潔な布で体を拭く。


 それも王族であったから可能だったわけで、この世界の標準は井戸水を被るか、水に浸した布で体を拭くか、あるいは湖や池に入るかだ。


 この村では村内を歩いている時にゼスがすれ違い様によく《洗浄》をかけているので、そうしたことをする者も少なくはある。


 最初、この洞窟を風呂にしようとゼスが提案した時、ドワーフたちは「蒸し風呂にするんですね」と勘違いしていた。

 まさか熱気を発するお湯そのものに浸かるとは想定していなかったらしい。


「それでもこんな立派なお風呂を作ってくれるんだから、ドワーフのみんなには頭が上がらないなぁ」


 ゼスの大雑把すぎる構想をきちんと纏め上げてくれたドワーフたちの技術力に感心する。


 ちなみにドワーフたちが「あのゼス様からの頼み事だ! お前ら命かけろよぉ!」という勢いで温泉の建設に挑んでいたことを、ゼスは知る由もない。


 ゼスはぼんやりと天井を見つめる。

 風呂に浸かると、頭の中がリラックスする。


 何も考えないでいられる分、何でも考えられる。


「……そうだ、久しぶりにステータスを確認しよう」


 ゼスは心の中でステータスと念じた。



――――――――――――


名前:ゼス

種族:人族

職業:【洗浄屋?】

レベル:54

筋力:D

防御力:D

敏捷性:B

精神力:S

持久力:D


スキル

《洗浄》《浄化》

《精霊の眼》《???》


――――――――――――



「またレベルが上がってるな」

「当然。ゼスは多くのエルフの人生を《浄化》で変えた。その影響力はレベルをいくつか上昇させるに足るもの」

「そりゃそうか……」


 隣から飛んできた解説に頷きつつ、ゼスはステータスをさらに確認しようと目を凝らし――、


「ん?! どぅぇ、ユ、ユグシル、どうしてここに?!」


 いつの間にかしれっと隣で湯船に浸かっているユグシルの姿に、ゼスは飛び跳ねた。

 ウェーブがかった緑髪は頭の上でお団子に纏められて、肌は温泉の影響か赤みがかっている。

 そして、初対面の日と同じように、彼女は裸だった。


 ユグシルは湯船に静かに浸かったまま、ゼスを不思議そうに見上げる。


「私は大樹とゼスの近くでしか動けない。だから私がゼスの傍にいるのは当たり前」

「そ、それはそうだけど」

「それよりもこの温泉? っていうの、気持ちが良い……」


 恍惚(こうこつ)の表情で呟くユグシルに、ゼスはなんだか馬鹿らしくなり、静かに湯船に浸かり直した。


「本当は露天風呂だったらもっといいんだけどなぁ」

「露天風呂?」

「屋外のお風呂だよ。ここだと周りが岩に囲まれてるだろ? それはそれで秘密基地感があって楽しいけど、外の景色に囲まれた風呂も気持ちがいいんだ」

「……気になる。今度作って欲しい」

「頼むなら俺じゃなくてドワーフのみんなにだな」


 ユグシルの正直な反応になんだか嬉しくなりながら、ゼスは改めてステータスを視る。


(ん? この『?』ってなんだ……?)


 よく視ると、職業とスキルに文字化けしたような『?』が挿入されていた。

 見間違いだろうかと思って改めてステータスと念じてみても、やはり同じように表示される。


「なあ、ユグシル。職業の名前とスキルに、こういう文字が入ってるんだけど」


 そう言いながら、ゼスは指で『?』の形を作ってみせる。

 今まで聞いたことも視たこともない事象に戸惑うゼスに反して、ユグシルは淡々としていた。


「それは、転職の予兆」

「転職?」


 ユグシルは両手でお湯を掬い、その水面に自身の顔を映す。


「何事にも想定外というものはある。たとえそれが神々の定めたステータスであっても。そうしたイレギュラーの中で、ステータスはさらに正しいものへと変化する」


 そこで一度言葉を句切ったユグシルは、可憐な相貌をゼスへ向けた。

 思わず吸い込まれそうな翡翠色の瞳でジッと見つめてくる。


「おめでとう、ゼス。大精霊である私の予想を裏切り続けてきたあなたは、遂に神様の想定も上回った」

「……俺、何かしたか? わぷっ?!」


 首を傾げたゼスの顔に、ユグシルが手で掬っていたお湯をかけた。

 突然の攻撃に抗議しようとしたゼスだったが、洞窟の入り口から元気な声が飛んでくる。


「旦那様ぁ! あたしも入るぅ~!」


 全裸のソニアが走り込んでくる。

 池に飛び込むみたいに湯船へ向けてジャンプしたソニア。

 その姿を目で追いながら、ゼスは反射的に《洗浄》を使っていた。


 ざぷぅん! という水柱が上がり、その中心でソニアがぶるぶると全身を震わせて長い髪についたお湯を吹き飛ばす。

 情緒の欠片もないその作法に、ゼスは思わず叫んでいた。


「こら! 風呂場では走ったらいけません! それに飛び込むのもダメ! あと湯船に入る前はかけ湯絶対! いいな!」

「が、がるぅ……ご、ごめんなさい」


 珍しいゼスの激高にソニアはしゅんとして、ぶくぶくぶくと顔を湯船につける。

 その姿に、ゼスはつい反省した。


(よくよく考えたらこの世界に風呂の作法も何もないよな)


 ついこちらの都合を押しつけてしまった。


「わ、悪い、怒鳴りすぎた。でもほら、危ないし他の人にお湯がかかっちゃうから入るときは静かにな」

「がるぅ……わかった」


 こくりと頷いたソニアは、ようやく顔を上げた。

 そして、ゼスの隣にいるユグシルを見つけて毛を逆立てる。


「な、なんでお前がここにいるっ」

「私がゼスと一緒に居るのは当たり前」

「がるる! あたしたちの方が先だと思ってたのにぃ!」

「あたしたち?」


 悔しがるソニアの言葉に違和感を抱いていると、後ろから声が飛んできた。


「この木桶で、お湯を掬って体にかけるんですよね?」

「そうだよ――って、フローラさん?!」

「お、お邪魔しますね」


 反射的に振り返った先。

 湯船の傍に膝をつき、木桶を持った全裸のフローラの姿があった。

 長い髪と体勢、そして木桶のおかげで肝心なところは見えていないが――ゼスの脳裏に、川辺での一件が思い起こされた。


 慌てて俯き精神統一をしている間に、ゼスの隣でちゃぷっと水音がする。


「ふっ、はぅ……」


 フローラのやたら扇情的な声にドギマギしつつ、ゼスはなんとか疑問を絞り出す。


「ど、どうしてフローラさんまでここに」


 するとフローラは恥ずかしそうに答えた。


「ソニアさんにゼスさんの場所を訊かれたので、その案内に」

「だからって中まで入ってこなくても」

「それは、その……ソニアさんと二人きりは、心配でしたから」

「ま、まあ確かに、ソニアが暴れ回ったらせっかくのお風呂も壊れてたかもだけど」

「そういう意味では、ないのですけど……」

「え?」


 ちらりと隣を見ると、フローラの顔が真っ赤に染まっていた。

 お湯に浸かる習慣がないのだから、のぼせやすいのだろう。


「あまり無理はしないでよ。気持ちよくても、浸かりすぎると体調を崩しちゃうから」

「っ、は、はい……っ」


 期せずして混浴となってしまったゼスは、周囲を三人の異性に囲まれて目のやり場に困る。

 湯船を出ようにも三人が居る状況で立ち上がるのはなんだか恥ずかしかった。


「……お風呂、もう一つ作ってもらわないとなあ」


 ボーッとする頭の中で、ゼスはそんなことを考えた。





 その後、数日間。ハクの機嫌がなぜか悪かった。

 ユグシルの助けを借りてなんとかその理由を聞きだしたゼスは、ハクと二人きりで改めて温泉に浸かったのだった。

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