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追放先の呪われた森がいつの間にか聖域認定されていた。~【浄化】スキルに目覚めた俺、神竜や大精霊たちに囲まれて一国の王になる~  作者: 戸津 秋太
第一章 開拓編

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第16話 ステータスSSSの先

「ほんっとうに申し訳ございませんでした!!」


 大樹の傍に運び込まれ、フローラの《治癒》による治療のおかげで意識を取り戻したゼスは、主にフローラへ向けて頭を下げていた。


「いえいえ、お役に立ててよかったです」


 顔の前で両手をひらひらと振りながら、苦笑交じりにそう返すフローラに反して、ユグシルはお冠。


「ゼスがお馬鹿さんなのはわかってた。だけどまさかここまでとは思わなかった」

「いや、流石に言い過ぎでは」

「そんなことない。大樹海全域に《浄化》をかけようとするなんて、無謀にもほどがある。そんなことをしたら精神力が尽きて倒れるに決まってる」

「……おっしゃるとおりです」


 スキルにはクールタイムが存在する技能スキルと精神力を消費する魔法スキルの二種類が存在するが、《浄化》は後者。

 使えば使うほど、精神力は消耗する。


 そして精神力が尽きれば、ゼスが気を失ったように、意識を保つことが不可能になってしまう。


(確かに最近はスキルを使ってもまったく疲労している感じがしないから、調子に乗ったのは否めない……)


 しょんぼりしていると、ユグシルが「だけど」とフォローするように口を開いた。


「ゼスの《浄化》は成功していた。大樹を中心に、清浄な領域が押し広げられてる。これに私の《精霊の加護》を合わせれば、人が安心して暮らせる場所になる」

「それはよかったけど、押し広げたってどれぐらい?」

「大樹海全域で考えれば、今は5パーセントほど」

「5パーセント、あんな思いをしてたった5パーセントか……」


 がっくしと項垂れるゼスだが、ユグシルは呆れた調子で言う。


「神代の時代から続く呪いを祓えている事実を誇るべき。ゼスの力は間違いなく邪神に匹敵する。そもそもゼスの力がなければ、今の空間の呪いを祓うのに十年はかかっていた」

「そうか……ならやった意味はあったんだな」


 ユグシルの言葉が世辞ではないと感じ取り、ゼスは少しだけホッとする。


「……ええと、今のお話ですと、ゼスさんが大樹海を魔物が生まれない場所に変えている……という風に聞こえたんですけど」


 脇で話を聞いていたフローラが、おずおずと手を上げて訊ねてくる。

 それは質問というよりも、否定を前提とした確認の声音だった。


 その問いに、ユグシルは返す。


「そう。ゼスの《浄化》はそれができる」

「――な、なんだか混乱してきました」


 額を押さえるフローラに、ユグシルもうんうんと頷いた。


「あなたが普通の反応。ゼスがおかしい」

「わかった、わかったから。……いや俺もなんとなく気づいていたんだよ。もしかして俺の《浄化》スキルってとんでもない力なんじゃないかって」

「気づくのが遅い」

「いやだって、俺の職業は【洗浄屋】だぞ? そんな邪神の呪いとか言われてもピンと来ないっていうか……」


 ゼスは不満げに文句を言う。

 その呟きを、ユグシルは考え込むように反芻(はんすう)した。


「……【洗浄屋】」

「ん?」

「……とにかく、精神力のステータスが伸びるまで、ゼスは無茶なスキルの使用は控えて」

「伸びるまでって?」

「最低でもSSS。大樹海全域の呪いを祓うには、それでもまだ足りない」

「SSS……いや、ちょっと待て」


 ふと、ゼスはユグシルの言い方に違和感を覚えた。


最低でも(・・・・)って、まるでさらに上があるみたいな言い方じゃないか?」


 ステータスはFからSSSまでとされている。

 そのSSSでさえ、実在は確認されていない。


 そもそも【神竜】であるハクのステータスも、最高はSSだった。


 ゼスの問いに、ユグシルは小さく頷く。


「上はある。SSSのその先は、神の領域。でも、ゼスならいずれたどり着けるかもしれない」


 ユグシルの期待に満ちた言葉に、ゼスは改めて自身のステータスが人知を超えていることを思い知った。





 ◆ ◆ ◆





 空がすっかり茜色に染まる中、ゼスたちはピーターが運んできたシチューの入ったお椀を手に、四人で囲うように向かい合っていた。


 手を合わせてから、ゼスはスプーンでシチューをすくい上げ、口に運ぶ。


「んむぅ、んまい!」


 とろりとした粘度のあるシチューが舌先に纏わり付き、クリームに溶け込んだ野菜の甘みと肉の旨味が、そしてミルクのコクが口内を満たしていく。

 気を失う直前、あれだけ悲鳴を上げていった臓腑が今度は喜びの雄叫びをあげていた。


「よかったです」


 ゼスの反応を確認してからピーターもシチューを食べる。

 満足のいく出来だったようで、小さく頷いていた。


「包丁の使い心地はどうだった?」

「すごく使いやすかったですよっ。固い野菜にもすっと刃が入って、料理してて楽しかったなぁ……」

「それはよかった」


 しみじみと話すピーターの表情に親近感を覚えつつ、ゼスはシチューを食べ進める。

 フローラもユグシルも、口々に味の感想を述べていた。


「ていうか、いまさらだけど君も食べるんだな。精霊って食事する必要がないんじゃないのか」


 精霊は霊的な存在であり、物質的な食事は必要としない。

 ゼスの疑問にユグシルは小さい口をもぐもぐと動かし、飲み込んでから答える。


「必要ない。でもそれが食事をしない理由にはならない。ゼスだって、生きるのに洗濯をする必要はないけど、だからってやめるわけじゃないでしょ?」

「いやいや、洗濯は生きるために必要だろ」

「……ゼス、めんどう」

「なんで?!」


 がーんとショックを受けるゼス。

 ユグシルはそれを気にすることなくシチューを食べ進め、フローラたちは曖昧に笑っていた。


 そんな穏やかな時間が流れる中――、ゼスとユグシルは、空気の変化を感じ取った。


「ユグシル、今のって」

「……ゼスも感じたんだ」


 視線を交わす二人を、フローラたちは不思議そうに見つめる。


「彼のときと同じ。神呪の気配が、こっちに向かってきている。――すごく、速い」


 ユグシルがそう呟いた時だ。

 遠くから、爆音が轟いた。





 音のした方はちょうど昼間にゼスたちが畑を作っていた場所だった。

 ゼスとユグシル、そしてフローラが慌てて駆けつけると、現場ではすでに何人かのドワーフが事態に対応していた。


「おい! あまり近付くな! やられるぞ!」

「っ、そこ! 隊列を乱すな!!」


 武器や盾を構えるドワーフの若者たちが、何かと戦闘している。

 駆け寄りながら目を凝らすと、土煙の中から獣の影……いや、人影が浮かび上がってくる。


「……狼の、耳?」


 そこにいたのは一人の獣人の少女だった。

 四つん這いになり、背を逆立てて周囲を威嚇する彼女の口からはうなり声のようなものが漏れ出ていて、その相貌には理性がない。


 そして何より、彼女の体躯は漆黒の靄に包まれていた。


「あ、ゼス様! 離れてください、こいつはやべぇです!」


 ゼスに気づいたドワーフたちが慌て出す。


「大丈夫大丈夫」


 そんな彼らを手で制しつつ、獣人の少女の下へ歩み寄る。

 すると、彼女の憎悪の対象が無防備なゼスへと向けられた。


 そして――、


「ガルルゥァアッ!!」


 一瞬身を低くしたと思えば、獣じみた声と共に常人離れした跳躍でゼスへ飛びかかってくる。

 必死に間に入ろうとするドワーフたちを制しつつ、ゼスは少女へ向けて手をかざした。


「《浄化》」

「ガルル、ゥ、……ァ?」


 黒い靄が光に包まれ、吹き飛んでいく。

 狼の耳と尻尾、そしてボサボサの髪が茶色に染まっていく。否、元の色を取り戻していく。


 空中に跳躍していた獣人の少女は勢いを失い、そのまま地面へと落下した。


「うぎゃっ」


 なんとも間の抜けた声と共に、周囲に静寂が訪れる。

 ドワーフたちはこの光景を信じられない、といった眼差しで見つめ、ユグシルはわかりきっていたとばかりに少女を見下ろし、そしてフローラはほっと胸を撫で下ろしている。


 ゼスはといえば、地面に倒れ伏した少女に向けて《洗浄》をかけようと、さらに手を伸ばしていた。

 そのとき、少女の狼耳がぴょこんと動いた。


「……あ、ええと、大丈夫?」


 地面に倒れ伏したまま、顔だけを上げた少女のベージュの瞳と目があった。

 ひとまず声をかけると、少女の目が獰猛な光を宿し――また飛び上がった。


 そして、


「見つけた! あたしの(つがい)!」

「ぐほっ?!」


 少女は喜色に満ちた声を上げながら、ゼスを押し倒したのだった。

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