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追放先の呪われた森がいつの間にか聖域認定されていた。~【浄化】スキルに目覚めた俺、神竜や大精霊たちに囲まれて一国の王になる~  作者: 戸津 秋太
第一章 開拓編

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第14話 ドワーフの服を巡って

「うぉおお、《洗浄》《洗浄》《洗浄》《洗浄》《洗浄》《洗浄》!!!!」


 ドワーフたちの移住に向けて本格的に村の開発が始まる中、ゼスの下には泥だらけ汗だらけとなった彼らの作業着が運び込まれていく。

 日に日に人が増えていくので、それに比例するように洗濯物も増加していた。


 特に一部のドワーフは鉱石の採掘のため日夜掘削を続けているので、その汚れは前世で戦ったどの汚れよりも手強い。


 以前に寝泊まりしていた大樹の傍は今ではすっかりクリーニング屋の様相を呈していた。


「楽しそう」


 運び込まれる洗濯物に恍惚(こうこつ)の表情を浮かべてひたすら《洗浄》をかけるゼス。

 その姿を頭上の枝葉に腰を下ろして眺めていたユグシルが端的に評した。


「当たり前だ、汚れているものが綺麗になるのは最高に気分がいい! ……いやそれにしても、こんな単純なことに気づかなかったなんてなぁ」


 綺麗になった作業服を受け取って去って行くドワーフの背中を眺めながら、ゼスは思う。


「『洗濯物 人がいないと 生まれない』。……完璧な川柳だ」


 ふふふと怪しげな笑みを浮かべるゼスに「すごく浮かれてる」と呆れ混じりに呟きつつ、ユグシルは彼の前へふわりと舞い降りる。


 そして、ゼスの前でくるりと一回転し、期待に満ちた眼差しを向けた。


「どう?」

「ん、……あ、服! どうしたんだその服」


 翡翠色の瞳に見つめられて一瞬何事か思案したゼスだったが、すぐにその理由に見当がつく。

 彼女と出会ったからというもの、ユグシルはずっとゼスの上着を服代わりに纏っていた。


 しかし今は違う。


 ノースリーブの淡い緑色を基調としたワンピースは彼女の白い肌を引き立ててとても可憐だ。

 ウェーブがかった緑色の長髪がまるで蔦のように彼女の細い肩を覆い、先入観もあるだろうが大樹のような神聖な雰囲気を醸し出してもいる。


「ドワーフの人たちにもらった」

「そうか。そういえば衣服を作ることを得意にするドワーフもいるんだっけ」


 ドワーフは鍛冶を本職にすると思われがちだが、家造りや畑作りなど、物作り全般においてその才能を遺憾なく発揮している。


「……どう?」


 地面に胡座をかいて衣類を洗浄していたゼスを見下ろす形で、ユグシルが再度訊ねる。

 ゼスはじっくりと彼女の装いを眺め、こくりと頷いた。


「どんな服でも、俺の《洗浄》なら綺麗にできる。安心してくれ」

「……!」

「いだっ」


 サムズアップするゼスの後頭部を、大樹から伸びた枝がぱしんと叩く。

 頭を押さえながら振り返るゼスだが、そのときにはすでに枝は元の場所に戻っていた。


 不思議がるゼスを、ユグシルはつんとした眼差しで見つめる。


「いでで、なんだったんだ今の……」


 頭をさすりつつ、ユグシルへ向き直ったゼスは「それにしても」と呟く。


「その服は新しく作ってもらったのか?」

「ううん。適当に見繕ってもらった。どうして?」

「いや、ユグシルにすごく似合ってるからさ」

「……そう」

「ん、おぉ?」


 大樹の枝がまた伸びて、ゼスの頭をさすさすと撫で回す。

 なすすべもなく受け入れながら、ゼスはふと思い出した。


「服をもらったなら、そろそろ俺の上着を返してくれよ」

「むり」

「なんで?!」


 突っ込むゼスへ、ユグシルは頭上を指さした。

 顔を上げて指の先を追うと、空を覆い隠すほどに伸びた大樹の枝葉の先ではためくゼスの上着があった。


「飾ってるから」

「いやだからなんで?!」





 ◆ ◆ ◆





 大樹の傍の開けた平地にはすでに家の骨組みができ始めていた。

 近くには井戸も掘られていて、村として必要な設備が徐々に整ってきている。


 ドワーフたちの威勢のいいかけ声と木を叩く音が木霊し、実に賑やかだ。


「あ、ゼス様! お疲れ様です!」

「服、おかげさまで綺麗です! 快適に作業できますぜ!」


 そんな村の中を見て回っているだけで、ゼスに気づいたドワーフたちが頭を下げてくる。

 ゼスは「よかったよ」と曖昧な笑みを返しつつ、足早に立ち去る。


 彼の後ろではドワーフたちが「しっかし、ゼス様は本当に懐が広い方だよな。俺たちなんかの服を綺麗にしてくださるなんて」などと話していた。


「ゼス様、だって」

「からかうなよ……やめてくれって言っても聞いてくれないんだし」


 隣で面白そうに口元を押さえて呟いたユグシルをジト目で睨みつつ、ゼスは肩を竦める。

 ドワーフの年長者が様付けで呼ぶものだから、すっっかり若者たちの中でも定着してしまった。


「しかたがない。『神権の王笏』に選ばれたんだから」

「王笏ねぇ……」


 ひとまず大樹の中にしまってある神遺物のことを思い返し、ゼスはげんなりする。


 ユグシルの話によれば、『神権の王笏』は神々が地上を去る際、下界にもたらした神遺物の中でも最高位に位置するものだそうだ。

 そしてその力は、王笏の所持者が統治する場所をまさに神の視座から俯瞰できるというもの。


 その説明を受けたゼスはいまいちピンと来なかったが、物は試しということで使ってみることにした。

 だが、『神権の王笏』はうんともすんとも言わなかった。


 ユグシル曰く、「ゼスに統治者としての意志がないから」ということらしい。


「統治者としての意志、ねぇ。だったらなんで俺を選んだんだよ。俺はそういう意志持ってないって」


 村内を歩きながらぶつぶつと文句を呟くゼスに、ユグシルは淡々と答える。


「神遺物にも意志がある。王笏はゼスが相応しいと選んだ。それだけのこと」

「相応しいって何に」

「王様に」


 冗談のような物言いにユグシルの顔を覗き込む。

 だが、彼女はいたって真面目な表情を浮かべていた。


 目をぱちくりとさせるゼスに、ユグシルは淡く微笑む。


「でもゼスって偉い人って感じがしない。王冠とか……ふふ、似合わなそう」

「最初からそう言ってるだろ。たくっ」


 一人で想像して笑うユグシルにむっとしながら、ゼスは近くに新しく建てられたドワーフの工房へ向かった。

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