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アイドル〜陰キャのJKが実は超人気ソロアイドルだった件

岐阜県高山市の高校に通う女子高生たちを主人公にしたボイスドラマ

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クラスでは陰キャなイメージの栄美エイミ。実は超人気ソロアイドルだった!?

<シーン1/ドーム公演>


■SE/曲が終わったあとの大歓声(エミリコール「エミリ!」「エミリ!」「エミリ!」)


「みんな、今日はありがとう!」


45,000人の観客がペンライトを振る。

アンコール最後の曲が終わっているのに、いつまでも、いつまでも。


ソロアイドルの単独公演としては巨大過ぎるハコ。

ステージ上だけでなく、アリーナやスタンドにまで細部にわたった演出。

映像装置のせいで本来は55,000人のキャパであるドームが

45,000人の収容人数となった。


まさか満員御礼になるとは思ってもみなかった。

ファンは予想以上に行動力がある、ということなんだ。


アンコールも含めたセットリストはすでに終わっている。

私はアコースティックのギターを抱えた。

舞台監督がヒゲをさすりながらニヤリと笑う。

彼にはリハのあと、即興で弾き語ったのを見られていた。


ドラム、キーボード、ピアノ、リード&サイドギター。


楽器だけが置かれたステージに、私はゆっくりと歩いていく。

私の登場と同時にアンコールの拍手は止み、どよめきがおこる。

やがて、割れんばかりの大歓声が私を包んでいった。


■SE/大歓声と拍手


<シーン2/学校の教室/始業のチャイム>


「ふぁ〜。もう5時限目かあ」


アイドル・EMIRIの素顔。

それは、高山市内の城山高校に通う1年生。

本名・栄美エイミという名前は、ファンの誰も知らない。

言うつもりもないけど。


だって、校則でアルバイトも課外活動も禁止なんだもん。

違反したら即退学だし。

アルバイトじゃなくてちゃんとした仕事なんだけどなあ。


クラスの中は、昨日のEMIRIのライブの話で盛り上がっていた。


私は、授業中以外は、いやたまに授業中も、机に突っ伏して寝ている。

だめだめ。先生が教室に入ってくる前に起きなくちゃ。

今日も今日とてゆ〜っくり顔をあげると、


あ。まただ。

机に置いた教科書がなくなっている。


きっといつもの女子グループによるイジメだ。


教室の隅から、”トイレに行ったら見つかるかも〜”という声があがる。

にやけた声で笑いながら。


仕方ない。

私は立ち上がり、トイレへ向かう。

廊下を歩く私を見て、みんながクスクス笑っている。

そのわけは、トイレの鏡を見て理解した。

私の背中に習字の半紙がくっついている。

そこには、下手くそな文字で差別的な言葉が書かれていた。


はあ、よくやる。

私が誰ともつるまず、女子のどのグループにも属さず、

毎日独りで登下校しているのが気に食わないみたい。


そう。

みんなが推してる人気アイドル『EMIRI』の正体をクラスの誰も知らない。

メイクもせず、三つ編みに丸メガネ。

ステージのときのオーラなど微塵もないのだから当然ね。

みんな、私のこと、コミュ症で陰キャなオタク女子だと思ってる。

あたってるけど・・・

そう。栄美はEMIRIとは別人。真逆な人間だもん。


仕事やライブが入ると学校は休まないといけない。

まあ、最近は、学校って簡単に休めるからラクだけど。


トイレの床に落ちていた教科書を拾い、教室へ戻る。

後ろの扉から入ろうとすると・・・

あーあ、鍵がかかってる。

仕方なく前の席から入っていくと、担任の教師と目が合った。


『オマエ、何回授業に遅れたら気がすむんだ?あ〜ん?』


半分笑いながら黒板を指で叩く。

もう。いじめがなくならないのは、教師にも問題があるんじゃないかなあ。


『バツとして今日は居残りで補習だ』

『あ、無理です。今日は家の用事があって』

『きいてないぞ』

『そんな・・・。

朝マネージャ・・いえ母から電話入れているはずです』

『あ〜ん?ああ、これか・・・なになに・・・叔父さんの三回忌法要?

夕方から法要?まあ、いいけど。

今度から気をつけろよ。今度遅れたら校庭10周だぞ』


ちょっと先生、昨日のライブでアリーナの最前列にいたよね。

あの席はファンクラブ会員専用シート。

しかも最前列をとろうと思ったら、

チケット発売日の午後3時にオンタイムでサイトをクリックしないと無理。

確か、その時間教室は、先生不在で自習になっていたっけ。

教室では、クラスの男子も女子もみんな必死でチケットをとっていたし。


席に戻る私を、女子グループが下卑た笑いで迎える。

私がデザインしたEMIRIアパレルグッズのカーディガンを羽織って。

ウケる。


一緒になって笑う男子グループも、机にアクリルグッズを置いている。

文房具はどうしたの?

筆箱の中もぜんぶEMIRIシーズングリーティングのアイテムじゃない。


EMIRIってこんなに人気あるんだ。

ファンは大事にしなきゃ、ってマネージャー兼保護者のママは言うけれど。


実は私がいつも気になっていたのは、一番後ろの席の男子。

誰ともしゃべらず、いつも独り。

私以上に目立たず、下を向いて本を読んでいる。

彼も丸メガネをかけていた。

同じようにコミュ症なのかしら。



<シーン3/翌日の学校の教室から音楽祭まで>


翌日。

教室に行って驚いた。


黒板に、『城山高校音楽祭実行委員』という文字に、

私の名前と一番後ろの彼の名前が大きく書かれていた。


そんな。アイドル活動があるから無理だって。


そんな事情などおかまいなく、有無を言わさぬ圧力で、

すべての雑務が私たち2人だけに押し付けられた。


仕方なく、リモートMTGを駆使して委員の役目をこなしていく。

準備期間の2か月はあっという間。

出演者とのやりとり。ポスター・看板の作成。ステージの設計・施工準備。

音響オペレーター、照明オペレーターの手配。

そのすべてを2人でこなす。

そういえばもうひとりの彼もリモートが多いなあ。

こんな2人で本当に音楽祭、大丈夫なの?


大丈夫、じゃなかった。

音楽祭当日。

メインステージのトリで出演するはずだった軽音の子たちがいなくなった。

しかも、本番30分前に!?


どうするの?

こんな大きなステージ作っちゃって。

もうひとりの実行委員、彼と顔を見合わせる。


『仕方ないから、カラオケで私、うたおうかな』


冗談で言ったつもりが、


『そうだね。そうしよう』


とマジで決まっちゃった。

なんか、ポスターをよく見たら、トリの軽音部の出演者名に

「Surprise」とだけ書かれてある。


ハメられた。


そうか。

よし、覚悟を決めよう。

もう退学になってもいいや。こんなとこ。

私は急いでママに電話した。



<シーン4/音楽祭のステージ>


■SE/会場内のざわめき


ラストのトリまですべての演奏が終わり、いったん緞帳が下がる。

やがて休憩時間が終わり、会場が暗転した。


『え?こんな演出あり?』


会場内がどよめく。

暗転している間に緞帳が上がる。


■J-POP SONG〜


ボーカルの入りと同時にトップサスがステージを貫く。

光の中には真紅の衣装でEMIRIが立っていた。

ママの手配で、バックバンドも照明と音響のオペレーターも全面協力。

次回のライブのリハに、ちょうどいい準備運動だ、だって。


最初、騒然となっていた客席から大歓声が沸き起こる。

みんな総立ちになって、ものすごい声援。

1コーラスを歌い終えたとき。

曲途中のブレイクで照明がまた暗転した。


”すごい演出。

どんだけ凝ってるの?”


次にトップサスが当たったのは、私と、私の横に立つもうひとり男の子。


なんと。

実行委員の彼は、超人気K-POPグループのメンバーだった。

グループに1人だけ参加している日本人アーティスト。


このものすごいサプライズで会場の熱気は最高潮に達した。


”ああ、気持ちいい。

まさに高校生活最後のライブね”


合計3曲歌って、ライブは幕をおろした。

終了後、私たちは早変わりのように着替えながら、

軽音部用に準備しておいた抜け道でステージをあとにする。


校庭に出たところで、私たちを同じクラスの男女たちが取り囲んだ。


『EMIRIたちはどこなの?』

『教えなさい』


彼が毅然として答える。


『裏門の方へ出ていったよ』


クラスメイトたちは、慌てて裏門へ走っていく。


彼が私に振り返ってウィンクした。


『おつかれさま。打ち上げでカラオケでもいかない?』


私も笑顔で答える。


「賛成。あなたの歌を歌ってみたい」


陽の落ちかけたグラウンドに2人の影が伸びていった。

読んでいただき、ありがとうございます!

よろしければ、ボイスドラマもお楽しみください!

https://emiri.jp/wp-content/uploads/2024/04/idol.mp3

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