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rupoとさるぼぼ〜さるぼぼは私の心の鏡──運命の出会いを引き寄せたピンクのお守り

皆さん、こんにちは。

この物語『rupoとさるぼぼ』は、飛騨地方に伝わる縁起物「さるぼぼ」を題材にした、高校生の少女・るぽの成長と不思議な縁を描いた作品です。


飛騨地方では「さるぼぼ」が厄除けや家族の幸せを願うお守りとして大切にされており、るぽにとっても、それはただの人形ではなく、特別な存在。

物語は、そんな彼女とさるぼぼの不思議な繋がりが、ある日思いがけない出来事を引き寄せる…という展開になっています。


本作は Hit’s Me Up! の番組公式サイト、および Spotify、Amazon Music、Apple Music ほか各種Podcastでも配信されておりますので、音声でも楽しんでいただけます。

ぜひ、目と耳で「るぽ」の物語をお楽しみください!

■教室のガヤ


「あ〜、ま〜たさるぼぼ作ったんだ?」


友だちが、私のスクールバッグにつけられたキーホルダーをみて笑う。

赤、青、白、黄色、ピンク、緑、オレンジ・・・

色とりどりの顔をした多勢のさるぼぼたちにまざって真っ黒な顔の子が揺れている。

一番上の目立つところに。。。


「なんか、黒いさるぼぼって、不気味〜。

ハロウィーンもう終わってるじゃん」


『黒い顔のさるぼぼは厄除け・・・』


私はひとりごとのように呟く。


私の名前は、るぽ。本名です。

お母さんに名前の由来きいてみたら。。。

フランス語で「ルポ」=(は)「ひとやすみ」っていう意味なんだって。

だからかなあ、私、いつもぽわーんとしててお休みモード。

みんなから、私の周りでは時間がゆっくり流れてる、って。。。


私、自分の名前が『るぽ』だからってわけじゃないけど、

なぜか子どもの頃からさるぼぼが大好きで。

あだ名は、『るぽ』じゃなくて『るぼ』。可愛くなーい。


私に初めてさるぼぼを贈ってくれたのは、おばあちゃん。

それも手作りだった。


あれは私が保育園に入る前。

3歳のお誕生日、私を手招きして、


『さあ、お誕生日のるぽに、お人形を作ってあげようね』


と言って、赤い布を真四角に切り取り、四角よすみを縫っていく。

ヒトデのようになった布切れはすっごく不思議な形だった。

私は目をまんまるにして覗き込む。


『さあ、お腹ができあがってきたよ』


ヒトデを真ん中からひっくり返し、綿わたをつめていく。

ただの布が命を吹き込まれる様子はまるで魔法のようだった。


『あとはお顔がないとね』


綿を器用に丸めてロウで固める。

すると、なんということ。

キレイなまん丸の玉ができあがった。

おばあちゃんは、まあるい玉に赤い布を貼り付けると、


『ほら、笑ってるみたいやろ』


ホントだ。さるぼぼが喜んでる。


『あとは、黒い頭巾をかぶせて』


わあ、可愛い。赤ちゃんだ。


『頭と体を縫い付けたら』


できあがり〜。


『まだまだ。腹掛け(はらがけ)を着せてあげんとね』


おばあちゃんは、腹掛けに『るぽ』と刺繍してくれた。

私にもわかるように、ひらがなで大きく。


完成したのは、身長20センチくらいのさるぼぼ。

3歳の私にとっては、大きな大きな手作りのお人形さんだった。

私が思わず抱っこすると、


『さるぼぼはね、女の子を守ってくれるんやさ』


へえ〜、そうなの?

でも、どうしてお顔がないの?


『さるぼぼの顔は、るぽの心の鏡やから』


心の鏡?


『いまはどんな顔に見える?』


う〜んと・・・楽しそうな顔。


『そうそう。るぽが楽しいときはさるぼぼも楽しい顔。

悲しいときには悲しい顔になるんやよ』


ふうん。

このときから、私はいつもさるぼぼと一緒だった。

朝起きて歯を磨くときは私の横にいて、

そのあとはずうっと一緒におままごとをして、

ごはんのときは横に座って一緒に食べる。

夜寝るときも抱っこして眠った。


保育園には持っていけなかったけど、朝おでかけするときはお見送りしてくれて

夕方帰ったら、ちゃあんと玄関でお出迎え。

いまでもその習慣は続いている。


この子は特別。私の心の鏡。


小学校に入ったとき、おばあちゃんに作り方を教えて、ってお願いした。

お裁縫はまだ早い、ってお母さんにはダメ出しされちゃったけど、

おばあちゃんは、こっそり教えてくれた。

失敗してはやり直し、また失敗して。。。

1つ作るのに、何日もかかってしまったけど、

少しずつ少しずつ小さなさるぼぼが増えていった。


一応、お父さんやお母さんには内緒でこっそり作ってたから

10年以上経っても、その数、たった15体。へへ。

でも、さるぼぼを作るとき、おばあちゃんは必ず私の横にいて、

いろんな話をしてくれたから、それも楽しくて仕方なかった。


『るぽがお母さんのお腹にいるときも、さるぼぼを作ってあげたんだ』


お母さんもさるぼぼと遊んでたの?


『いいや。さるぼぼは、安産のお守りなんやさ』


すごぉい、女の子だけじゃなくて、お母さんも守ってくれたんだ。


『お母さんが転びそうになると、さるぼぼがタンスにひっかかって

いつも守ってくれたんやよ』


さるぼぼ、えらい。でもお母さんのさるぼぼって、見たことないなあ。


『そうやなあ、役目を終えたから国分寺で供養したのかもしれんなあ』


違っていた。

それがわかったのは去年の今頃。

おばあちゃんのお通夜の席で、お母さんはさるぼぼを握りしめて泣いていた。


お守りは人に見せるものじゃないから。

おばあちゃんが、自分とるぽのために作ってくれたお守りだから

肌身離さず持っていた、と言って。


そうだったんだ。。。


私は高校に入っても、ずうっとさるぼぼと一緒。

おばあちゃんが作ってくれた大切な子はおうちでお留守番。

そのほかの子たちはキーホルダーにして一緒に学校へ行く。


スクールバッグで揺れるカラフルなさるぼぼたち。

みんな、ちゃんと役割があるんだ。

赤い子は私を守り、家族を守る。

青い子は合格祈願。だって来年受験だもん。

オレンジは友だちと仲良くなれますように。

緑は健康で過ごせるように。

黄色は宝くじが当たるように。

黒は魔除け・厄除け。

そしてピンクは・・・恋が成就するように。

って、相手もいないけれど。。。えへ。


■学校のチャイム


『おつかれ〜。また明日』


いつものように、自転車に乗り、家路を急ぐ。

秋晴れの高い空。

今日は宮川沿いに少し走って、ひとつ向こうの橋から渡ろうかな。

なんてことを考えながら、大好きなアニソンを聴きながら橋を渡ろうとしたとき。


■急ブレーキの音


『きゃあ!』


歩道ぎりぎりに走ってきたワゴン車とぶつかりそうになり、

思わず欄干の方へ体をひねる。

私はたまたま受け身の姿勢で地面に落ちたから無傷だったけど、

自転車は欄干にぶつかって止まった。

スクールバッグは自転車と欄干にはさまれている。

さるぼぼたち、苦しそうだ。

キーホルダーからはずれて、首もとれてしまった子は・・・赤いさるぼぼ。

やっぱり、私を守ってくれたんだ。

と、もうひとり?

同じように重症を負ったのは、ピンクの子。


え・・・ピンク?


そのとき、私の自転車を起こして、スクールバッグを拾い上げたのは、

通りかかった男子。

テニスラケットを持っているからソフトテニス部だ、きっと。

夕陽をシルエットにして、白い歯を見せ、私に手をさしのべる。


これってそういうこと?


いやいやいや。

そんなドラマみたいな話は・・・


『あ、ありがとうございます』

『あ、大丈夫です』

『あ、はい。いつもは手前の橋を通るんだけど』

『あ、あの・・・るぽ、って言います』

『ライン?え〜っと・・・』


ドラマみたいな話だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


「さるぼぼ」は、赤ちゃんの姿をしたお守りですが、その由来や意味を知ると、より一層魅力が増しますよね。

るぽが大切にする「心の鏡」としてのさるぼぼ、そして物語の最後に訪れるちょっとした奇跡。

みなさんの心にも、小さな幸せの種を残せたら嬉しいです。


また、この作品は Hit’s Me Up! のPodcast番組としても配信中です。

音声版では、るぽの世界をより深く感じていただけると思いますので、ぜひそちらもチェックしてみてください!


それでは、また次の物語でお会いしましょう。

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