シナプス〜人の心が読めるJKが恋をしたら大変なことになった話
岐阜県高山市の高校に通う女子高生たちを主人公にしたボイスドラマ
◾️設定
高山市内の進学校に通う3年生エミリには特殊能力があった。それは”人の心が読める”ということ。目を合わせれば、相手の考えていることがすべてわかってしまうのだ・・
[シーン1:高山市内の高校/5時限目の終了時間]
■SE/学校のチャイム〜教室の雑踏
「ふわ〜」※大きなあくび
やっと終わったぁ。
6時限目まで授業うけるのってきっついなぁ。
誰とも目を合わさずに1日過ごすのって大変なんだよ。
え?私?
私はエミリ。
高山市内の進学校に通う3年生。
あ、誰とも目を合わさずに、って言うのは個人的な事情があるんだ。
それはね・・・
・・・ここだけの秘密にしてくれる?
実は私、人の心が読めるの。
ちょっと、しぃ〜っ!大声だしておどろかないで。
誰かに聞かれたらどうすんのよ。
人の心が読める、っていっても、それは相手の目を見つめたときだけ。
視線を合わせるとね、その人の考えていることがわかるの。
う〜ん。
テレパシー・・・じゃないんだなあ。
もっとリアルな感じ。
なんか独り言言っているように、頭の中に直接聞こえてくる。
口は動いてないのに、言葉だけが響くの。
それも、普通の会話と違って、間髪入れずに喋り続けるんだ。
例えばあそこ。黒板の前でじいっと私を見ている学級委員長。
ほら、目が合った。
”なんでこいつ、目を合わせないの”
”人と話すときは目を見て話しなさいって言われなかった?”
”ま、どーでもいいわ”
”腹減ったな”
”早く帰って推しのアニメ見よっと”
そう言って目を逸らした瞬間、心の音声がシャットダウンされた。
クラスでは品行方正な淑女なのに、心の中は全然違うのね。ウケる。
ね、聞いてるだけで、疲れちゃうでしょ。
だから私、誰とも目を合わせないんだ。
さ、誰かから声をかけられる前に、さっさと帰ろうっと。
[シーン2:自宅の食卓/夕食風景]
■SE/食事の音(家庭の環境音)
「ちょっとエミリ、修学旅行の準備は済んだの?」
「あ、まだ」
「もう来週でしょ。大丈夫?」
「余裕余裕〜」
そう言ってママを見る。
”大丈夫なはずないでしょうに”
”エミリの好物、芋けんぴ用意してあるんだから”
サンキュー、ママ。
心の言葉も変わらず優しいママ、大好き。
”医大に入学したら遊んでるヒマなんてないのよ”
”せめていまのうちに高校生活を楽しんで”
”パパもなんとか言ってよ、もう”
パパ、新聞読みながらチラチラこっち見てるけど。
ときどき目が合ってるよ。
”修学旅行ってそんな遠くまで出かけて、大丈夫か?”
”無事に帰ってくれよ”
”だんだん手が届かないところへ行ってしまうなあ”
”嫁に行く日を考えると・・・ああ、もうだめだ、涙が”
ちょっとちょっと、パパ。
私まだ高校生だって。
17歳なんだから。しっかりしてよ。
ふふふ。
でもこうやって、家族といると本当に落ち着くなあ。
幸せ。
[シーン3:京都・清水寺から三年坂へ/修学旅行にて]
■SE/京都・三年坂の雑踏(人混みの環境音)
さすが京都・清水寺。
すごい人混み。
周りも同級生だけじゃなくて、観光客の方が多いくらい。
修学旅行だからって、こんな人がいっぱいのとこにしなくてもいいのに。
これだけたくさん人がいると、必ず誰かの視線をとらえちゃうよー。
あ、すれ違いざまにカップルの男性と目が合っちゃった。
”わあ、可愛いJKだなあ。オレの好み。どまんなか”
こらこらこら。横に彼女いるでしょ。
ほら、彼女私を睨んでるじゃん・・・ってやばっ。
”なによ、この女。私の方が10倍はイケてるのに”
きゃ〜。こわ〜。
私は急いで産寧坂、二寧坂を下って、八坂方面へ。
その途中で外国人の男性がきょろきょろしてる。
あかん。またしても目が合っちゃった。
”Oh、ボクのSweetheartは舞妓さんを追いかけてっちゃったよ〜
彼が愛してるのはボクだけじゃないのお〜OMG”
っとっとっと。聞くんじゃなかった。
そう、言葉は日本語に翻訳されて伝わるの。便利でしょ。
なんて思いながら旅行気分にひたっていると、
鋭く刺すような視線を感じて、思わず振り向いた。
そこにいたのはいかにも、って感じの不良たち。
みんな私を睨んでる。なんで〜
”こいつ、ひとりでいるな、はぐれた修学旅行生か”
”獲物だ。逃さんぞ”
やばい。やばい。やばい。
気がついたら、クラスのみんな、誰もいなくなってるじゃん。
私は慌てて坂を駆け降りる。
振り返ると追ってくる不良たち。
心の中の言葉は、悍ましくてとても口に出せない。
曲がり角で走り抜けるとき、誰かが私の手をひっぱった。
そのまま坂の途中の料亭へ連れ込まれる。
え?え?え〜っ?だれ?
私の手をつないでいるのは、背の高い、大学生くらいの男子。
彼は自分の口に手をあてて、
「しっ。心配しないで。ここは叔母の店だから」
小さくささやいて、2階へ私を連れていった。
ほっとした途端、恐ろしさが込み上げてきて震えがとまらなくなる。
「大丈夫、大丈夫。もう大丈夫だから」
そう言って、彼は優しく私の肩を抱いた。
暖かさに包まれて、私は感情が昂ってくる。
知らず知らず頬を涙が伝っていた。
「しばらくここで休んでいくといいよ」
そんな私を見て、彼は包み込むように声をかける。
私は自分の気持ちをさらけだした恥ずかしさで彼の目が見られない。
「いま美味しいお茶入れてあげるから」
部屋を出ていこうとする彼の腕をつかむ。
そのまま彼の目を見てつぶやく。
「ありがとう」
「うん、よかったよ。なにごともなくて」
「あいつらは?」
「札付きの連中さ。警察に連絡しておいたからすぐ拘束されるよ」
「怪我はない?」
「うん」
「よかった」
あれ?
彼の目を見て話してるのに、心が読めない。
「そんな、じい〜っと見ないでよ。恥ずかしいなあ」
「え?」
「あ、そ、そんなつもりじゃないの。ただ・・・」
「ただ?」
「あなたの心が見えないの」
「ヘンなこと言うなあ。心ってのは目には見えないものだろ」
「ううん。見えるの」
「え?」
「私、心が見えるの」
「どういうこと?」
「目を合わせるとその人が考えてること、ぜんぶわかるの」
「うそ」
「ホント。だからあの不良たちが考えてることが見えて、恐ろしくて、恐ろしくて」
「じゃあ、僕がいま考えてることわかる?」
「だから、あなたの心は見えないんだってば」
「そんな・・・喜んでいいのか悲しむべきか」
「どうして?喜べばいいでしょ。個人情報なんだから」
「そうだね」
急に彼の顔が曇った。
え?なんで?
「あの・・・聞いてくれる?」
「初めて会った子に自分のこと話すなんて、思ってもみなかったけど」
彼は私の目をしっかりと見て、ゆっくりと話し始めた。
実は、自分は生まれつきシナプスに異常がある。
シナプスというのは、脳の神経をつなぐ接点のこと。
脳の神経ネットワークに異常があると、自閉症や統合失調症になることが多いという。
だが彼は、奇跡的に身体になんの異常もなく育った。
そのかわり、勘が人一倍鋭くなり、いろいろな予知予兆を感じるようになったそうだ。
私の危機を救ってくれたのも、私からの救難信号を憶えたから。
これって、何かの伏線?
だって、いまハッキリわかるもん。
彼の目を見ていると。
心は読めないけど、その素直な表情は確実に理解できる。
彼は自分のことを話したあと、少し考えて口を開いた。
私も自分の思いを伝えようと沈黙を破る。
「もう少し話さな・・・」
「もう少しお話・・・」
一瞬、顔を見合わせたあと、思わず2人で吹き出した。
私たち、きっとどこかでシンクロしてる。
すっごい急展開。
でも・・・でも・・・
これって・・・
なにか素敵な未来が始まる予感。
読んでいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ボイスドラマもお楽しみください!
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