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復活のゲースク

歓声と騒めきを撒き散らしながらトラックは教会の前に到着した。ここで結婚式が執り行われる。僕は軽トラに乗りながら式が終わるのを待っている。そして二人が出てきたらまた荷台に乗せてメッサジェント邸にパレードしながら送り届けて僕の仕事はお終いだ。

 披露宴では豪華な食事が出るに違いない。僕はそれが楽しみでならない。僕がまだ見ぬご馳走を楽しみにしているとアスカさんがデコトラから降りてきて僕に話しかけた。

「ひとまずお疲れさん」

「そうですねアスカさん。デコトラの方はいいんですか?」

「ゴドウィンに鍵を渡した。野次馬がウロウロしてて落ち着かない」

「ですよねー。あれじゃあねぇ」

 デコトラ周りにはそれは多くの人が集ってデコトラを見ている。アカンサスさんの新作だからなのか、それともデコトラを見た事ないからなのか。僕もデコトラ停まっていたら見に行くだろう。

「ヒカルは結婚願望はあるのか?」

「僕ですか?いやーまだ高校生ですしそこまで考えてないですね」

「だよなー」

「アスカさんはあるんですか?」

「いや、そんな事考えてなかったけど、ビアンカが嬉しそうにしてたからさ。そういう選択もあるかなって」

「そうですね、幸せそうでしたね」

 アスカさんは何だか似合わない事を言っている。もしかしてこれは遠回しな告白!僕は告白されているのか!僕が幸せにしてみせますと言えばいいのか。どうするヒカル、一世一代の大勝負だぞこれは。

 いや待て、結婚式で結婚の話題を出すのは普通のことではないか。病院に行ったら健康の話をする様に、ファミレスに行ったら飯の話をするのが普通の事だ。

 でもアスカさんは穏やかな顔で教会を見ている。これはあるのか?あるんじゃないか!行くのか?行ってしまうか!

「あ、あのアスカさん」

 僕が告白の言葉を出しかけたその時、教会の鐘がなった。これは二人の結婚式が終わった合図だ。

「終わったみたいだな」

「そうみたいですね」

「それで?何だ?」

「いえ、何でも……結婚式って長いなーって」

「でも後は屋敷に送り届けるだけだ。その後は飯!気合い入れよーぜ」

「はい」

 残念な様な救われた様な複雑な気持ちだがとりあえず今は仕事に集中しよう。

 教会からビアンカさんとメッサジェントが出てきた。ビアンカさんの首には大きなネックレスが掛かっている。何だろあれがこちらの結婚指輪みたいな物なのか。

 二人は笑顔で教会の前に集まった人達に手を振っている。その姿は本当に幸せそうで辺り一体は暖かな空気な包まれていた。

 そんな中人集りの奥から悲鳴が聞こえた。そして大きな影が人集りを飛び越えてビアンカさんの前に着地した。その大きな影は以前僕を追いかけてきた走竜と呼ばれたデカい二足歩行のトカゲだ。その走竜の上にはフードを被った何者かが跨っている。

 そのフードの人間はビアンカさんの首に掛かっていたネックレスを力任せに引っ張り強奪した。

「きゃあ!」

 ビアンカさんは痛そうな悲鳴をあげた。

 ネックレスを奪うとフードの何者かは走竜を操り人混みに向かって駆け出した。人混みは混乱しながらも道を空けて泥棒を逃してしまう。

 やばい、これは予想外の展開だ。メッサジェントもビアンカさんも動けないでいる。どうしよう。

「ヒカル!奥詰めろ!」

 アスカさんは運転席の扉を開けてグイグイと乗り込んできた。僕は言われるがまま助手席に移動した。アスカさんが扉を閉めるとエンジンかけて勢いそのまま軽トラを急発進させた。

 軽トラは泥棒を追っていく。軽トラに追いかけられている事に気付いた泥棒は更に加速していく。その時フードが風圧によって捲れ上がった。その顔は見覚えがある。

「ゲースクだ!」

 僕は思わず叫んだ。

「ゲースク様だ!下民が!」

 ゲースクは僕に向かって叫んだ。

「お前捕まったんじゃ!」

「そんな事金の力でどうとでもなるわい!」

 嘘だろ。こいつ出所してきたのかよ。

「じゃあ何でネックレスを盗むんだよ!金に困ってるのか!」

「そんな訳あるか!ワシをコケにした報いだ!ワシのメンツを潰されたからな、お返しに結婚式を台無しにして奴らのメンツを潰すのだ!」

「子供か!」

「うるさい!こうでもしないと腹の虫が収まらんのだ!」

「そういう時は深呼吸するといいぞ!だからネックレスを返せ!」

「うるさい!うるさい!さっきからワシを馬鹿にしおって!」

 ゲースクは聞く耳を持たない。いくらアスカさんが運転しているとはいえ街中だとスピードを出せない。それなのにゲースクはお構いなしに走っている。それにあの走竜は俊敏で人混みを上手く避けている。

 追い付きそうになると離されるその繰り返し。これでは埒があかない。そのうち見失ってしまう。

「ヒカル君!」

「え?この声はメッサジェント様?何処から?」

「こっちだ!ヒカル君!」

 僕が横を見ると一羽の鳥が軽トラの横を飛んでいた。

「動き出せずにすまない。僕と協力してゲースクを追い詰めよう」

 ……え?

「鳥が喋ったーーー!!!」

 嘘何で?そして何でメッサジェントの声が?こいつがメッサジェントなのか?

「これは僕のユニークスキル、「鷹の目」だ。今はこの鳥を介して君と喋っているんだ」

 え?ユニークスキル?何それ怖っ!初めて聞いたんだけどそれ。そういう世界観なのかこの異世界は。

「このままゲースクを追ってくれ。こちらも捕まえる為に動き出している」

「だそうです、アスカさん」

「分かった!」

 アスカさんは大きく返事をした。

 鳥からの指示の下、出来る限りゲースクを誘導していく。と言っても追い付けないのでわざと右に寄ったりして何となく圧を掛けて左折してもらう程度だ。それにしてもゲースクの奴、

「なんか操るの上手くないか!」

「当たり前だ!騎乗は貴族の嗜みだ!ワシみたいな誇り高き貴族はできて当然なのだ!」

「ひったくりの為に貴族の嗜みを使うなよ!」

 僕の言うことなんてお構いなしにゲースクは逃げていく。

 すると交差点で馬車がゆったりと横切ろうとしているのが見えた。ゲースクは走竜を巧みに操りその馬車を飛び越えっていった。この速度で突っ込んだら確実に馬車に激突する。

「アスカさん!引き返しましょう!」

 僕が叫ぶと一緒に追っている鳥が話しかけてきた。

「後始末は僕がする。そのまま突っ込んでくれ」

 おい、マジかよメッサジェント。

「オッケー」

 アスカさんもオッケーじゃない。アスカさんは少しハンドルを動かし馬を避けて馬車に突っ込んでいく。僕は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 外の様子は分からない。明らかにぶつかった衝撃と凄まじい音がした。

 顔を上げると窓ガラスはヒビが入り車体が歪んでいた。後ろは振り返らない。ただチラッとバックミラーで馬は見えた。元気に暴れている。怪我も無いみたいで本当に良かった。

 ゲースクは化け物でも見つけたのようにこちらを見ている。その反応は正しい。

「まあいい!このまま行けば街から出られる!」

 ゲースクは大きな独り言を言っている。どうやら逃げ切りを図る様だ。

「逃げ切る様ですけど大丈夫ですか?」

 鳥に聞いてみると。

「大丈夫!このまま真っ直ぐ!」

 何を考えているか分からないがこれでいいらしい。

 目の前の建物の合間から草原が見えてきた。この直線を抜ければお終いだ。どうするんだメッサジェント。

 ゲースクも勝ちを確信した様でこちらを煽ってきている。

「馬鹿どもめ!ワシに勝とうなんざ身の程を知れ!」

 ゲースクが前を向き一気に駆け抜けようとすると、突然デコトラが道を塞ぐ様に横断してきた。

「うお!うお!」

 突然の事にゲースクも走っている走竜も慌ててバランスを崩している。上手く言う事を聞いてくれないらしい。

「こら!大人しくしろ!こら!」

 そりゃそうだ、目の前にいきなりデコトラ、それも龍が描かれたのが出てきたんだ。僕もビビる。

 デコトラは停まり道を塞ぐと荷台からワラワラと兵士が降りてきた。その兵士はゲースクを逃げられないように囲んだ。

「何とか間に合った」

 デコトラの助手席からメッサジェントが降りてきた。そのメッサジェントの下に軽トラについてきてくれた鳥が飛んでいく。運転席にはゴドウィンがいた。

「さあ、そのネックレスを返して貰うぞゲースク!」

「小僧が調子に乗りおって!」

 ゲースクはやいやい騒いでいるがメッサジェントはお構いなく連行していく。

「これで一件落着ってやつだな」

 アスカさんも満足そうだ。

 そこにゴドウィンがドスドスやって来た。

「お前らメッサジェント様に変な事言ってないだろうな?街の物とか壊してないだろうな?」

「多分大丈夫じゃね?メッサジェントもいいって言ってたし」

「本当なんだな!」

 ゴドウィンは何度も何度もしつこく確認してきた。

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