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紛うことなきデコトラのそれ

アカンサスさんの創作活動は締め切りギリギリまで続いた。明日にはビアンカさんとメッサジェントがデコトラの視察に来る。それまでに完成しておかないといけない。

 アカンサスさんは最後の仕上げに取り掛かっている、と思う。その筈だがテンションは初日も今も全く一緒で、本当に進んでいるのか分からない。

 ただ「もうすぐだ!」「これで最後だ!」「完璧だ!」「すごい!すごい!すごい!」とか叫んでいるので多分そろそろ完成するんじゃないかと思っている。

 ゴドウィンも心配そうにソワソワしている。こんなゴドウィンを見るのは初めてだ。

「やり切った!」

 アカンサスさんが布の仕切りから飛び出して来た。

「おや?皆さんお揃いで。そんなに完成が楽しみだったかい?」

「そうじゃな、早く完成してくれと思っとったわ」

「我慢が出来ない坊やだ。早漏は誰も満足させる事が出来ないよ?」

「いいから早く見せい!」

 ゴドウィンに怒られるとアカンサスさんは仕切りの布を勢いよくとった。

 そこには本当にそれはそれは見事な龍が描かれていた。

 え?龍?結婚式の絵を頼まれていたよね?何で龍?それもドラゴンじゃない、あの中国の龍だ。なんて言えばいいんだろう、アジアンドラゴン?オリエンタルドラゴン?何にしてもあの龍である。

 デコトラには相応しく迫力あり見るもの全てを惹きつけるだろう。まさかここまで完成度の高いデコトラを異世界で見れるとは思っても見なかった。

 自信満々なアカンサスさんと違い、ゴドウィンはヘナヘナとその場に座り込んだ。この事はゴドウィンも知らなかったらしい。

 いくらデコトラで結婚パレードを彩ろうと考えた常識はずれなゴドウィンでさえ、荷台の絵に関してはパレードに相応しいものに変えようと思っていたらしい。

「なあ、アカンサス、その絵はなんじゃ?」

「アスカに教えてもらった伝説の魔物、龍だ!凄いカッコいいだろ!それに反対側を見てみろ!」

 デコトラの反対側に回るとそこに鯉が描かれていた。ゴドウィンは気を失いそうになり支えてもらっている。

「立派な鯉だろ?縁起物らしい。こんな絵を描いたのは初めてだ!素晴らしい経験をさせてもらった!」

 本当に立派な鯉だ。荒れる川を泳ぐ逞しくも美しい鯉だ。本当によく描けている。だが何故こんなになるまで放っておいたのか。誰か指摘するものはいなかったのか。

 全ての元凶はあの仕切りだ。好き勝手に騒ぎ全裸で徘徊するアカンサスさんの為に用意した仕切りがいけなかったのだ。そして誰も中を確認せず腫れ物を扱う様に避けていた。責任があるとすれば工房のみんなだろう。そしてその代表はゴドウィンである。

 ゴドウィンにはビアンカさんとメッサジェントに頭を下げて説明してもらおう。

「すげーな、本当にこれ結婚式に使うのか?貴族の奴ら怒らないのか?」

 アスカさんも心配そうにしている。

「本当ですよね、ゴドウィンさんも大変だ」

「いや、これ頼まれたのヒカルもだろ?大丈夫か?」

 あ、そうだった。あの手紙は僕と工房宛てであった。その事に気付いた僕は膝から崩れ落ちた。予算も貰い使い切った手前ごめんなさいじゃ済まされない。

 僕は薄れゆく意識の中で見えたのは満足そうにはしゃいでいるアカンサスさんの姿であった。

 ホウレンソウは職場の常識、それを身をもって分かる出来事であった。

 

 

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