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逃走劇は突然に

ドワーフの里には何事もなく到着した。僕がビアンカさんを連れて来ると野次馬ドワーフがワラワラ出てきて好き勝手に喋っている。

「女だ!」「ヒカルの奴、女を連れてきた!」「しかも貴族みたいだ!」「嘘だろ?あんなガキが女を口説けるわけがねえ!」「そりゃ違いねー」「ガハハ!」

 本当にコイツらは下品だ。ビアンカさんの前でもお構いなしに喋っていやがる。

 アホどもを無視して僕はゴドウィンに事情を話した。

「無理じゃろ」

「え?」

 ゴドウィンはあっさり返事をした。悩む素振りも見せない。

「何で!ビアンカさんは困ってるんですよ?」

「確かにそうじゃがそれは貴族同士の問題じゃ。平民のワシらが首を突っ込んでいい話じゃない」

 その時話を聞いていたアスカさんが話に割り込んできた。

「いいじゃねーか、ちょっと送るだけだろ?」

「いいか?アスカ、貴族が平民の問題に関与しても何も起こらないが、平民が貴族の問題に手を出したら豚箱をぶち込まれる事だってある。それがこの国の常識じゃ。もしワシが許してしまえばワシも捕まりこの工房の連中を路頭に迷わす事になる。ここの責任者としてそれは出来んのじゃ。流れのお前さん達にゃ酷な話かもしれんが分かってくれ」

 ゴドウィンの言葉はよく分かる。領主の権限は凄まじいものだと身をもって知っているからだ。アスカさんも納得のいってない顔をしている。

「だけど……」

「もういいんです、ヒカルさん。みなさん、お騒がせしました。私は自力で関所に向かいます」

「それは危険ですよ」

 僕がビアンカさんを説得しようとしたその時、

「その通りだ、ビアンカ嬢」

 やたらとねっとりして嫌らしくその上人を見下す様な声が工房の入り口からした。僕はこの人物を知っている。

「ゲースク伯爵!何故ここに!」

「何故はこちらのセリフだ。貴方との結婚は決まっているのだ。早く領都に戻り式の準備をするぞ」

 ゲースクの言葉にビアンカさんは本気で怯えている。あんなゲス野郎と結婚したらどんな事をされるか分かったもんじゃない。それはそれはエロい事をされるだろう。そんな事許されない。本当に許せない。

「私は既に婚約者います!」

「そんな約束はとっくに破棄されたわ。ワシは貴方の両親から既に了承を得ている。これは紛れもない事実である」

 二人が言い争っている隙をつき僕は工房の隅に雑に置かれているピッチングマーシンを見た。その隣の箱に特製の玉が入っている。

 僕はゲースクに話し掛けながらピッチングマーシンの下へ歩いていく。

「あのーゲースクさん?お久しぶりでーす」

「そのツラまさか二度も見る事になるとは」 「覚えてくれてたんですね!」

「当たり前だ!私を愚弄しおって!忘れる訳ないだろ!」

 僕は箱の中から球を取り出した。

「いやー本当に悪いと思っているんです。だからこれは僕からの気持ちです」

「何だそれは?」

 僕は球を思いっ切り床に投げつけた。球は衝撃を与えた事により見事に爆発した。ドカーンと工房に衝撃と煙が蔓延する。

「何をする!貴様!」

「ビアンカさん!逃げますよ!」

 ゲースクが慌てふためいている隙に僕はビアンカさんの手を取り工房の入り口に向かって走っていく。

 そして入り口に停めてあった軽トラに乗りこんだ。

「バーカ!バーカ!この軽トラは青木ヒカルが盗んでいくぞ!ゴドウィンおっさん!残念だったな!この軽トラは俺の物だ!おっさんは軽トラを盗まれたアホドワーフだ!あばよ!」

「待て!逃すか!」

 ゲースクが叫ぶが待つ訳ない。

「オメーはコレでも食いやがれ!」

「うお!」

 爆発物をゲースクに向かって投げて僕は急いでエンジンをかけて走り出した。

「ビアンカさん!どっちに行けばいいんですか!」

「えっと、この道を左に」

「分かりました!」

 僕はハンドルをきり、速度を出しながら左折した。

「あの?大丈夫なんですか?」

「大丈夫です!あの爆弾少し威力を落としているので死にはしませんよ!」

「そうじゃなくてヒカルさんです。このままではヒカルさんは投獄されてしまいます」

「大丈夫です。牢屋は一度入ってますし。元々流れって奴でこの世界には住むとこ無しの無一文で来ました。牢屋はご飯もまずいですけど一応貰えるし、雨風凌げるので安心してください」

「……本当にありがとうございます」

「それは無事に関所に着いてからです」

「はい」

 僕はこれまで出した事無い速度で軽トラを運転していく。この後の事は何も考えていない。何だかアスカみたいになってきた。でも悪い気はしない。昔の自分を置き去りにする様に僕は猛スピードで街道を走り抜けていくのだ。

 舗装されていないので時折り軽トラは大きく揺れる。

「きゃ!」

 するとビアンカさんの巨乳も揺れる。僕がどんなにスピードを出しても、僕の煩悩だけは置き去りに出来なかった。

 見たっていいじゃない、だって童貞だもの、チェリボ。

 

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