『書道半紙を背負ったロバ』
ロバは、荷物を運ぶための家畜です。人間が乗るなら馬を飼います。
そのロバは、紙を運ぶロバでした。その日はトイレットペーパーを運んでいました。ロバって、そんなに大きくありませんよね。つらいのです。よろめいてしまいます。ろくろく水も飲ませてもらえず、長距離を歩かされることもあります。
途中に川があるのです。川底の石を変な感じで踏むと、転びそうになるのです。ぬるぬるしている石もありますし、はっきりいって川は嫌いです。でも、おっかなびっくりしていると、むちで打たれます。痛いのはもっと嫌なので、渡りますが、ぬるっときました。一回くらいぬるっときても、足が四本ありますので、どうということはないのですが、ぬるっときて踏ん張った足が、もう一度ぬるっときますと、さすがにこらえ切れないのです。
もんどり打って倒れました、ロバ。荷物を背負ったまま、川にひっくり返りました。どんどん水を吸います。起き上がれません。これはまずいかもしれません。飼い主が助け起こしてくれました。おや、意外と簡単に起きられました。さっきまであんなに背中が重かったのに。
懸命な読者の皆さんはもうおわかりですね。トイレットペーパーは、水に溶けるのです。トイレットペーパーは、溶けて流れてしまい、背中が軽くなったのです。ロバは、貴重な経験をしました。
一度こういう経験をしますと、次も同じことをしたくなるものです。ロバは、次に紙束を背負わされたとき、川でわざと転びました。今度も飼い主が助け起こしてくれて、すぐに背中が軽くなるはずです。
ほら、飼い主が駆け寄ってきました。助け起こしてくれ…、おや、助け起こしてくれません。というか、重過ぎて助け起こせない、という感じです。なぜこの間は大丈夫だったのに、きょうはだめなのでしょう。
懸命な読者の皆さんはもうおわかりですね。この日の積み荷は、トイレットペーパーではなかったのです。
この日の積み荷は、書道半紙でした。書道半紙というのは、速記者が、速記を書くときに使うものです。原文帳の材料です。ほかに使い道があったような気がしますが思い出せません。書道半紙は、墨を吸っても破れないようにつくられています。川の水をたっぷり吸っても紙としての形を保ちました。ゆえに、ロバは、二度と立ち上がることができず、たっぷり水を飲むことができたのでした。
教訓:思い切ったことをするときは、状況をよく見てから判断しよう。老婆心ながら。