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序章

よろしくお願い致します。




 息が切れる。

 山道を駆け上がる足に、地面を這うように伸びる草木が絡みつく。

 酸素を肺に取り入れようとする口は、絶えず荒い呼吸を繰り返し、後ろから己を追いかけてくる数人の足音を、否応もなく聴覚が捉えた。

 先日、街の宿で洗濯した衣服は泥と汗で汚れ、もはや柔らかなリネンの見る影もない。

 内心毒付いて、僅かに後方へ振り返った。

 夕方の薄暗い道で正確な人数は把握できないが、おそらく4人。この辺りをねぐらに旅人を襲う、野盗集団だろう。あと少しで山間の集落に到着するというのに、なんというタイミングだ。

 野盗に襲われたままでは、門を開けてくれるかどうかも怪しい。かといって、武芸に秀でているわけでもない身で立ち向かうのは、自殺行為だ。

 どうする、と考えを巡らせる。

 辺りは鬱蒼とした森だ。使い慣れた弓矢では、満足に射ることすらできない。

 しかし少し広い道に出られれば、あるいは。

 腰までの短いマントを翻し、視界の端に入った舗装された道へ転がり出た。土埃を上げながら片手で反動を殺し、体勢を立て直して矢筒に手を伸ばす。装飾の施された弓を構えれば、野盗の一人がすぐそこへ迫っていた。

 距離にして数歩。一か八かであったが、先制攻撃が間に合う距離ではない。

 三日月の軌道を描いて振り上げられた、長く野蛮な剣が夕陽を反射し、鈍く煌めいた。

 

 ──瞬間。


 琥珀色の美しい閃光が、目を、焼いた。

 野盗の悲鳴が周囲に木霊するが、それを掻き消すほどの地鳴りと砂嵐が、他の連中ごとその場から吹き飛ばす。まるで砂漠の嵐を思わせるそれは、己を守るように周囲の木々すら薙ぎ倒した。

 呆気にとられて瞬いたその先に、花を思わせる柔らかな赤いマントを翻す女性が居た。いつの間にか現れた彼女は、ゆっくりと振り返り、穏やかに笑ってこちらを見つめている。

 砂に似た黄金の髪がさらりと動き、僅かに地面へ零れ落ちた。

「助太刀、遅くなりまして申し訳ございません。……あなたの助けとなりに参りました。エゼキエル王子」








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