第3話 ギルベルトの家
森を抜けると、こじんまりとした家があった。
ギルベルトの家らしく、彼は私を招き入れると、簡単な食事を用意してテーブルに着いた。
「今日はすまなかった」
持っていた林檎を袖に擦り付けながら、ギルベルトはぼそっと呟く。
湯気の上がるお茶を覗き込んでいた私は顔を上げた。
「だいぶ、歩かせた。疲れただろう? 食べたら、すぐ寝るといい」
ギルベルトはそう言うと、赤い林檎を齧った。
赤銅色の髪も、鳶色の瞳も、手元の林檎も、燭台の蠟燭に照らされて、より赤く見える。
ただ林檎を齧っているだけなのに、彼のひとつひとつの動作が男らしく、それでいて洗練されていて、とても魅力的に見えた。
(本当、かっこいいなぁ……)
目の前に、夢にまで見た人がいる。
ゲームでは声を吹き込まれなかったような、何気ない会話にも、彼の低音ボイスがもれなくついてくるのだ。
(でも、一体この夢はいつまで続くんだろう)
籠に入った丸いパンに手を伸ばして、口に運びながら考える。
確かにギルベルトとこうしていられるのは幸せの極みなのだけど、やはり私にも生活がある。
早く目覚めて、女子大生に戻らなきゃ。
そうこうしているうちに、体が温かくなってきて、頭がぼうっとしてきた。
瞼を上げるのに苦労する。
——眠い。
ふわっと体が浮く感覚。
でも、目が開けられない。どうしてこんなに眠いんだろう。
「おやすみ、ミア」
ギルベルトの低くて、優しい声が降ってきた。
きっと抱き上げてベッドまで運んでくれてるんだ。
お礼を言いたかった。
でも、意識が遠のいて、そのまま眠ってしまった。