元親友の弟の変態陰キャがイケメンになってた件
…人生2回目じゃね?
そう気付いたのはついさっき。
いつもと変わらない1日をいつもと変わらず過ごして…さぁ寝ようって時にふっとそう感じた。
「マジか。」
ちょっと前に女の子が転生して悪役令嬢になったって小説を読んだけど、まさか自分が小説の中のような体験するとは思わなかった。
「あー…頭痛い。」
転生してるって気付いたからか、前世の記憶が堰を切ったように溢れ出して来る。現世の記憶と前世記憶が頭の中で混じり合わずに喧嘩してるみていに不快だ。
………寝る前で良かった。
日中だったらきっとこの記憶の氾濫には耐えられなかった。
目を閉じて現世の記憶と前世記憶を探ってみる。
前世の名はエミリオ。
金持ちの商家の次男坊だった。
お調子者で無鉄砲な性格だったエミリオは、いつもその領地を治めていた領主の嫡男と遊んでいた事を思い出す。
エミリオが死んだのは13歳。
魔法とか魔物とかが存在する世界で、親友と街外れにいた時に魔物に襲われたんだった。
当時騎士の真似事をして遊ぶ事が大好きだったエミリオは、魔物を前にして「オレがこいつを食い止める!お前は逃げろっ!!」と、格好つけてあっさり殺されて今に至る。
「あいつ…ちゃんと無事に生きてっかな?」
親友が逃げる姿は確認しているがエミリオがあまりにもあっさり殺られてしまったから、親友が無事に生きているのかが心配になった。
エミリオが死んでから同じ世界にすぐに転生したらしく、今は死後13年。
「今日、エミリオが死んだ日じゃね?」
何故正確な日付を覚えているかと言うと、今日はその親友の弟の誕生日の前日だったからだ。
親友は少し年の離れた弟を溺愛していて、その日は少々……いや、かなり変わり者だった弟の為に街の外れに生えていた夜にしか花を咲かせないと言う薬草を摂りに行っていた。
どう変わり者だったかって言うと、6歳の子供がずっと家の書庫に引き籠もって魔法関連の本を読んだり、実際に怪しげな薬を作ったり。
「よく変なもん飲まされたなぁ。」
これを飲むと体が強くなるとか言われて飲んでいたが、お調子者だったエミリオは扱いやすい実験台だったんじゃないかって……今思った。
兄弟揃って明るいプラチナブロンドの美形だったのに、弟の方は6歳なのに常に目の下にクマがあって陰気な感じで、笑い方がニヤ〜って…正直不気味だった。
同じ親から産まれた兄弟でもああも違うなんてな。
そんな親友の不気味だった弟だけどエミリオには懐いてくれていて、よくエミリオの腰に抱き着いては頭をぐりぐり押し付けてはニヤ〜って笑ってたっけ。
不気味な笑い方だったけど、懐かれると可愛いなって思ってた。
「……本当に可愛かったか?」
よくよく思い出すと、興奮剤だったり、惚れ薬だったり、媚薬だったり。
エミリオは脳天気だったから疑いもせずに飲んでたけど……親友の弟が抱き着いてきたのは、大体薬を飲んだ後。
興奮剤やら媚薬やら飲まされた男の下半身事情は察するが如しなのだが、親友の弟が頭…と言うか顔をぐりぐり擦り付けて所にあるモノは………。
「マジか。」
可愛がってた親友の弟は変態だったのか。
6歳の幼い子がそんなわけないだろうと思いたいが、あのニヤ〜っとした笑顔の横にあったモノに頬擦りしてたかと思うと変態以外の言葉が出てこない。
いやいや、待て待て。
親友の弟はあの時のまだ6歳の子供だぞ?
純粋無垢な子供がそんな変態なわけないだろう。
きっと勘違いだ。
うん、勘違いだ。
「そうだ、勘違いだ。」
そうあって欲しい。
よし、前世の記憶は覚えてる。
現世の記憶もちゃんとあるか確認してみよう。
現世の名前はエミリア=フェルマータ。
偶然にもエミリオとは一文字違いの伯爵家の令嬢だ。
兄が1人いて、明日兄と一緒に辺境伯家のホームパーティに行く事になってる。
「あっ!あいつの家じゃん。」
あいつとは、そう、親友の家。
エミリアの記憶を見る限り、この間親友が辺境伯位を継いで領主となっている。
親友、生きてるじゃん。
立派な大人になってくれているようで良かった。
兄が元親友の弟と仲が良いらしく、誕生日パーティにお呼ばれしている。
何故エミリアまで?と思ったが、元親友の弟や周りの友人から華が欲しいから連れて来いと言われたらしく、エミリアの見合いも兼ねて連れて行かれるのだ。
辺境伯…クレッシェンド辺境伯家の兄弟は貴族の間でも有名な爽やか美形兄弟(独身)なだけあり、エミリアは行くのを楽しみにしていたのだが……。
「親友には会いたい。でもなぁ…。」
いやいや、だから純粋無垢な6歳の子供が変態なわけない!!
爽やかな美形兄弟って噂通り、きっと素敵な男性に成長してるはず!
よし、行こう!!
そして翌日。
「本日はお招きありがとうございます。こちらがトラン=フェルマータが妹、エミリア=フェルマータです。」
兄と共に先ず挨拶に行った先は領主である元親友(独身)だった。
「よく来たね、トラン。こちらが噂のエミリア=フェルマータ嬢か。噂通り、将来が楽しみな美姫だ。」
エミリオと同い年だった元親友は現在26歳なはず。
「私はファーゴ=クレッシェンドだ。よろしくね。」
その色気たっぷりの26歳(独身)に、流れるような自然な動作で手の甲にキスをされた。
「エミリア=フェルマータと申します。」
元親友相手にドギマギするのもおかしい話だが………そろそろ手を離してよ。
熱っぽい視線でエミリアを見つめたまま、なかなか手を離してくれない。
「おい、トラン。今日の主役も、連れてきてって言ったのもオレだろ?早くオレにも紹介しろよ。」
元親友の後ろから現れ、元親友の手からエミリアの手をすくいあげように奪ったのは、笑顔の爽やかなイケメンだ。
「リード=クレッシェンドと言います。」
エミリアの手にチュッとキスをして、笑った。
「エミリア=フェルマータです。」
おおっ!やっぱり元親友の弟は健全に!爽やかに!!成長していたんだ。
目の下のクマも綺麗サッパリなくなってるし。
変態な陰キャだと思っててごめんって心の中で謝っとく。
「今日はオレの誕生日なんだ。オレの誕生祝いに、今日のファーストダンスのお相手をお願いしたいな。」
キラキラキラーンとした爽やかイケメンのオーラが眩しい。
改めて詫びるけど、変態陰キャ嫌疑をかけてごめん。
「私で良ければ喜んで。」
エミリアが了承の返事をすると、元親友の弟の手がダンスへのエスコートの為にエミリアの腰に添えられた。
ゾワッ!
元親友の弟の手が腰に触れた途端、よくわからない悪寒が走った気がする。
「どうしたの?」
エミリアの様子に元親友の弟が顔を覗き込んできた。
ゾワゾワッ!
元親友の弟の手がエミリアの腰を撫でるように動いた……気がする。
「いえ、何でもありません。」
気がする、だけ。
こんな爽やかイケメンがゾワゾワするような触り方をするほど女に困ってない、はず。
うん、気のせいだ。
エミリアが笑顔を浮かべると、元親友の弟はエミリアの耳元へと顔を寄せた。
「待っていたよ、エミリオ。またエミリアに生まれてくれて嬉しいよ。」
「!!」
こいつ、知ってる。
エミリアがエミリオだった事を!
いつの間にか始まった軽快なワルツの演奏の音に合わせて、元親友の弟の体が動き出す。
エミリアのふわっとしたドレスの裾が綺麗に翻った。
「エミリオが13歳で死んだのは予想外だったけど……。覚えているだろう?前世の記憶は前世に死んだ年齢に達すれば思い出すようになってるんだ。」
ニヤ〜っと笑うこの笑い方には確かに覚えがある。
エミリオの下半身に顔を擦り付けていた時の顔だ。
「な、な、な…。」
こいつとは関わっちゃいけない気がする!とエミリアの中の乙女センサーが緊急事態宣言を発令している。
何の事だか…としらばっくれたいが、言葉がうまく出てくれない。
「オレは覚えてるよ。オレが作った薬を飲んだ後の、君の感触をね。」
「!!」
元親友の弟のニヤ〜ッとした笑顔に動揺したエミリア足がもつれた。
「だから、君もオレの感触を覚えてね。」
転びそうになったエミリアの腰を元親友の弟が引き寄せた反動が、エミリアの腹に元親友の下半身がぶつかる。
「!!」
エミリアのふわっとしたドレスでうまく周りから隠れているが、エミリアの腹にぐりぐりと押し付けたモノは…エミリオだった頃にはあったが、エミリアにはないものだ。
「これから先、何度でも追いかけて転生するし、転生させるよ?君が君であれば、男でも女でもどっちでも構わないからさぁ。」
元親友の弟は再び出会えたエミリアを見て、ニヤ〜っとした笑みを浮かべ続けていた。
エミリアがこの世界に誕生したのは実は2回目ではなく、4回目。
エミリアと言う名の女性であった1回目の人生でエミリアに振られたリードは、大魔導師であった力と知識を総動員して転生の魔法を根性で編み出したのである。
次の人生こそはと転生したのたが、2回目はエミリオと言う名の男だった。
2回目では男同士だった為に結ばれず、2回目の人生の晩年では同性でも愛し合える技術を磨き、3回目の人生に挑んだリードだったがエミリオは13歳で魔物に殺されてしまった。
その時リードは6歳。
共に転生するよりも転生させて成長して戻って来るのを待った方が良いと考え、エミリアを迎え入れる準備をして待っていたのだった。
だからエミリアは知らない。
元親友は、実は1回目の人生では夫であった事。
2回目も3回目同様に親友だった事。
4回目の人生ではファーゴ・リード兄弟に奪い合われて翻弄される事など。
エミリアは知る由もない。