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貘(ばく)と夢追い人の物語り  作者: カズ ナガサワ
1/1

夢追い人の思い

・・・これが運命と言うなら、僕は神様にしたがいます。でも、こんなに切ない想いは、一生に一度っきりにして下さい。どうかお願いします。・・・



《バイト終わり》

 あっ、先輩お疲れさまでした!


 おお、お疲れさま。悪いけど明後日あさってたのむわ!


 分かりました。先輩も楽しんで来てください!

 

 ああ!、でも初のデートが動物園じやなー!悪くはないけど、地味と言えば地味かな~!


 そうですけど、ゆっくり色んなこと話せますし、家族連れとかいて、僕は気取らなくていいと思います!


 分かるけどな、、ただ動物を見て、何話せばいいのか、なかなかイメージが湧かなくってさ!


 相手の方も、それでいいって言われてるんでしょ!


 ああ、二つ返事で、のりのりさ!、一応スカイツリーとかも考えたんだけど、高さも高いけど、金も高い。だから動物園にしたんだけどな!

 まっ、とりあえず、流れに任せて行くしかないか!

 文化の日で、学校も休みだし、バイトのシフト変更も店長にオッケーもらったしな!

 そんで、おまけにデートって言ったら、店長に気合い入れられて、頑張れだってさ!


 僕は、今のところバイトしかやること無いですし、未だ、先輩からお願いされてる、作品のイメージも固まっていませんから!


 そっか、分かった。何だかんだと、いつも悪りーな!


 いいんです!


 ところで、お前、明日あした学校は?


 午前中の近代技法のあとは、画材屋に行って来ます。とりあえず、そんなところです!


 そっか、おれは朝イチから製作室にこもって、仕上げに入る。個展に間に合うようにな!

 時間があったら、顔出してくれ!


 はい、そうします!それでは、明日あすまた。


 おう、じゃな!


・・・個展の前にデートかあ、いいなー。描けない時期にバイトで気を紛らわしてる、、、俺はいったい、なにしてんだか!

 あっ、先輩から(電話)だ。…もしもし!


 悪りーな、今さっき会ったばっかで、、、

 あのさー、明後日あさってのことだけど、俺に代わってデートしてくんない?お前しか、たのめる相手がいないんだ。


 ええ!どうしちゃったんですか?


 いやぁ、つまり、前の彼女から今電話があって、よりを戻したいって。だから、悪りんだけどバイトは俺が代わるから、なっ!、なんとかたのむよ!


 ええ!?、その人は先輩と知り合い、ではないんですか?


 んー!、未だ会ったことはない。ホントは作品のモデルの打合せのついでに、動物園でもって誘ったら、一緒に行くってことになって!

 だからお前が、俺の代わりに会ってくれれば、どってことない。言ってる意味わかるだろ!


 はあ、分かりますけど!


 じゃあ分かったと言うことで、後で、詳しく相手のことや、時間とか説明するから、明日あす、学校でな!…よろしくたのんだぞ!


 あっ、はい!


・・・なんか嫌な予感がするけど、久々にデートみたいな時間ができるし、まっ、いっか!




《学校》

 おお、ちょうど切りがいい!昨日のことだけど…。

 これが相手からのメールで、相手のメジルシだ。そんで待ち合わせの、場所と時間!

 この場所に着いたら、こっちが写メする。それを相手が見て、手を振ってという感じた!

 彼女の名前は『おか』、今お前に送信する。

 俺の名前は相手が知ってるし、学校に絵画モデルで来たことがあるって言ってた。


 じゃあ、僕が先輩に成りすます、ですね!


 まあ、そんな感じだ。これ少ないけど、二人でお茶でも!


 あっ、はい!分かりました。

 ちょっと先輩の作品、見ていいですか?


 おう、あとは背景のバランスと、先生に見てもらって、、てとこかな!、でも、問題はそこから先の話しだ。買っていただく方が現れるかだな!


 先輩は、絵を描くために、スポンサーを見付けるって、前に言ってたじゃないですか!


 そうだ。だからそれが、元カノ、いや彼女!

 いちおう、飯と住む場所はタダだし、バイトでそれ以外の金を稼ぐっていうのは、前の彼女のこと。今は、全部出してもらえる…[予定だ!])。

 そろそろお前も、卒業までには、なんとか考えた方がいいって、、俺はそう思うな!


 そうかも知れませんが、いやいや!とりあえず明日のデートのことで、いっぱいです!

 じゃあ僕のバイトの代わり、お願いしますよ!


 ああ、こっちこそ宜しくたのむな!


 はい!




《待ち合わせの場所》

・・・えーと、メジルシは『メガネと、シャネルのバッグ』、そろそろ時間だ!


・・・ここで写メを撮って、ここに貼り付けて、送信と!

 誰も手を振って…あっ、あの!、、、違うか!

 何だ、このドキドキ感…。


・・・もう20分も経過!、帰るに帰れない、、。


 


 あの、高林さん、ですか?


 はい!


 あ、やっぱり!、想像してた感じの人でした。


 え!?


 佐山さんから聞いてた通りの方で、本当にいいやつがいるから、お前に紹介してやるって!


 よく分かりませんが、あなたは僕のことを、知って、たん、ですね!?


 そうですよ!、佐山さんは父の絵画教室の生徒さん。今は、父と一緒に指導されています。


 あの〜、絵画モデルの打合せとか聞いてませんか?…あと、動物園とかも!


 はい、そうですね。ちゃんと聞いてます。久しぶりに動物園も、入口の近くのお団子屋さんも、この辺も懐かしいです!


 じゃあ、この辺は詳しいと言うことは!

 もしかして、先輩とお付き合いされていた、とか?!   

 あっ、いや、ごめんなさい!先輩が、元カノさんとよりを戻したって言ってたんで、つい、失礼極まりないことを聞いてしまいました。


 佐山さんの元カノですか?そっか、それで分かりました。佐山さんは、卒業したらアメリカに留学されるんです。うちの姉と婚約されていて、向こうで暮らす予定ですよ。聞いてませんか!?


 いや、聞いてません。あっ、立ち話も何ですので、さっきのお団子屋さんに行きますか!



《歩きながら》

 あそこですよ!、あの坂の上です。


 へえーこんなところに、いい感じだ!




《お団子屋》

・いらっしゃいませ、空いてるお席にとうぞ!


 こんなとこ知りませんでした。僕は、学校とアパートの往復と、バイト先以外、この辺はあんまり!

 すいません。お名前伺ってませんでした。


 そうでしたね。私は『岡絵里おかえり』です。携帯のメルアドにアルファベットであるとおりです。


 そっか!絵里さんですね。

 よく考えたら、僕があなたにメールを送った時点で、佐山さんじゃないって、分かったんですね。

 あっいえ、僕は佐山さんに成りすますつもりだったんです。本当にごめんなさい!


 私も佐山さんの説明が、何だかおかしいと思ってました。あっ、あなたを紹介してあげると言われたときではなくて、動物園に行きたいと、あなたが言われたと聞いて!


 そうですよね。たぶん僕がこの辺を、あんまり知らないと、先輩が分かってたからだと思います。だから、動物園なら落ち着いて話が出来ると。

 岡さんは、この辺は詳しいんですか?


 ええ、高校が直ぐそこの公園のわきでしたから!

 でも、友達とはあんまりいい関係じゃなくて、帰りは一人でこの辺をブラブラしてました。


 モデルのお仕事は、かなり?


 ええ!、父の関係でたのまれて何度か。でも、長い間動けないので、月に一ニ度程度です。


 失礼だと思いますが、もし僕がモデルをお願いしたら、おいくら位でやっていただけるんですか?


 ノーコメント!、本当にお描きになられるなら、何時でもご相談に応じます。


 すいませんでした。僕は今、描けないんです。なので余計なことでした!はじはかけますが…。あっ、これはもっと余計なことでした。


 佐山さんから、高林さんというポテンシャルの高い絵描きさんが、スランプであえいでいるって聞いてます。前に佐山さんは、私の絵を描かれた作品が、日展に入選されたので、ラッキーガールって言ってました。

 それに、これは余計なことですが、私の名前『OKAERI』は、お帰りなさいです。ですから、またあなたが絵を描けるようになって、あなたと語り合いたいって、言ってましたよ。


 はあ、そうでしたか。おかえりなさい、ですね!

あの〜、動物園に、行きましょうか!


 はい。行きましょう!


 この店は僕が…先輩から頂いているので!


 じゃあ、ごちそう様です。




《動物園》

 僕は子供のとき以来かなー!


 私は高校のとき、一人でよく来てました。ライオンやトラと顔なじみで、よくお互い挨拶したり、してました!


 えっ、本当に!?


 動物たちにも、ちゃんと表情があることに気付いたんです。ただ、人間には分かりにくいだけで、皆んな顔や鳴き声や、体の動きで表しているって!

 安心したときや、子供を可愛がっているときは、少し間抜けに見えたりします!


 そっか。じゃあ、あのチーターはどんなことを考えてるのかな~。


 たぶん、たぶんですが、あなたを美味しそうって思ってる!


 いや、それはないでしょ〜。どちらかと言ったら絵里さんでしょ!


・・・あれ、彼が初めて冗談と、名前を言ってくれた(笑)!


 絵里さんは、モデルをされているから、モテる!


 そのギャグセンス、修行し直しですね!

 絵画モデルの場合、あまり可愛らしいとダメだって、父が言ってました。


 そうかなー!




《別れ際》

 今日はありがとうございました。楽しかった!


 こちらこそ!


 また連絡していいですか?…あっ、いや、モデルのこととか、お願いすることがあるから。はい、あの…はい!


 いいですよ。またデートしましょ!


 はい!よろしくお願いします!!


 じゃあ、無事に終わりましたって、私から佐山さんに連絡しますね!

 よかったら、写メ撮りましょ!二人の顔を、近づけて、、それでは、はいチーター!


 ぶふっ!、チーターですか!




《学校》

 どうだった、昨日のデート?


 ありがとうございました。いろいろ気を使っていただいて!


 いい感じのだろ!


 あっ、はい。素敵な方だと思います。でも…。


 その弱気がお前の課題だな!絵里はいま、画材屋で働いてるんだけど、聞いたか?


 えっ、そうなんですか!そんなこと全く。

 先輩は彼女のお姉さんと婚約されて、アメリカに留学されるとは聞きましたが。


 そっか。絵里と姉の紗絵さえは実は双子なんだ。お前より一つか二つ歳上かな。俺も子供の頃から見てるけど、しょっちゅう間違えてた。


 それも聞いてません。お父様の絵画教室で先輩が教えてるとは聞きましたけど。


 姉の紗絵は、芸術とは全く関係ないんだ。獣医のたまごだよ!、それも大型肉食獣が専門だ。だから日本よりアメリカで、もっと経験を積みたいって言ってね!


 それで、婚約してる先輩が、アメリカに一緒に行くんですね!

 なんか、僕には別の世界みたいに聞こえます。


 俺もいろいろ悩んだんだが、まあ、結論としては、いまの日本で近代アートを中心にやっていける環境はないし、卒業のタイミングを考えて、決めたってこと!


 そうでしたか!

 そっか、絵里さんと僕が付き合うと、流れで先輩の代わりに、僕がお父様の絵画教室で、教えることもできるってことに!


 まあ、そうも思ったが、お前がもっとグイグイ押すようなタイプならな〜。スランプの画家が教えるのは、何だか生徒さんに失礼だし。


 あっ、いやあ、まあそうですけど!


 お前、彼女を描いてみないか?


 ……、やってみたいと思いますが、また途中で描けなくなると…いえ、そこまで言っていただけるのに、描かない理由はないですね。描きます!


 分かった。やってみるか!

 彼女に直ぐに連絡してくれ。彼女も画材屋のシフトの関係があるから、たのんだぞ!


 はい、分かりました!


 必要だったら、いつでもバイトは俺が代わるから!


 すみません。よろしくお願いします!


 


《初めてのデッサンの日》

 失礼します!

 ゆったりした部屋のレイアウトですね、いいな〜!

 本当に何もかもお世話になって、お父様の教室を借りて描けるなんて、恐縮です!


 ちょうど今日は教室がお休みですし、道具も照明あかりも揃っているので!


 ここでいいですか!

 じゃあ、準備ができたら、始めさせていただきます!


 はい、メガネを外しますね。髪は流したままで!

・・・もう描き始めている。集中すると何も聞こえないみたいだわ。


・・・メガネを取ると、全然違う表情が浮き上がる。髪を解くと、ホント、モデルの雰囲気に覆われる。…素敵だ!



 ふーっ!、もう4時間か!

 長い間お疲れさまでした!


 はい!じゃあ、コーヒーでも入れましょうか?


 すみません。お願いします!

 あのーちょっと、あそこに置いてある作品、見ていいですか?


 どうぞ!父の作品と、何枚か佐山さんのがあると思います。


 うわー、、迫力がハンパないな!、これが実力か。

 あっ!、、絵里さんの肖像(未完成)が、何枚かある。どうして描き上がってないのが、こんなにあるんだろう?!


 お待たせしました。コーヒー!


 はーい!

 ありがとうございます。

 あの、あそこにある作品に、何枚か絵里さんのがありますけど、どなたが描かれたんですか?


 父です。それに、あれは私ではなく母の肖像画です。

 私も姉も、あの絵を見て驚きました。3人ともうり二つ。いえ、うり三つ!


 お母様は、今どちらに?


 母は、私と姉が一歳になって直ぐに、他界しました。私たちの妊娠が分かった直後に、乳ガンと診断されて、転移して亡くなったんです。ですので、母の記憶がなくて!


 どうもすみませんでした。僕は…いえ!!なんでもありません。いつも、、大事なことに気付かない、間抜けです。ごめんなさい!


 もう前のことで、姉も私も母の思い出はありませんし、居ないのが当たり前だと感じてます。

 たぶん父は、私たちが母に、日に日に似てくるのを、色んな思いで見ていると思います。簡単には忘れられないですから!


 あっ、コーヒー頂きます!

 

 ごめんなさい。つい話し込んで!


 他の作品は迫力に圧倒されて、素晴らしいし!、もう、実力の差を見せ付けられているようです。


 あれは、全部、母が亡くなってから、その悲しみを作品にぶつけたと、父が言ってました。その前は、父も描けなくって、母のデッサンを繰り返し描いていたそうです。その一部が残っているんですよ。


 そうでしたか!

 絵を描くパワーはテクニックじゃないと思います。でも、心を切り取ったような作品に出会うと、僕は怖気おじけづくと言うか、圧倒されると言うか!


 高林さんは、きっと優しい方だからですね。その優しい心をお描きになればいいのに…。

 あっ!ごめんなさい。素人の私が言い過ぎました。そうだ、大事なことを聞き忘れてました。


 あっ、今回のお金ねことですね!


 ぶっ!!、違います。お名前です。それに、お金の無い方に頂くつもりはありません。もし、作品が売れたら考えて下さいね!


 僕はほんとにダメだな!、また失礼なこと言って!下の名前は『雄介ゆうすけ』です。高林雄介たかばやしゆうすけ

 あれ!、先輩から留守電が入ってました。なんだろう!

 あのー、僕は今日はこれからバイトです。予定通り来週も、今日と同じような感じでお願いします。


 はい、分かりました!佐山さんにも宜しくお伝え下さい。



《バイト先》

 すみませんでした。遅れちゃって!

 絵里さんが、先輩に宜しくって言ってました。


 おう!何となくあいつ、最近よそよそしいんだよな〜。

 だって、俺に宜しくって、気を使う間柄じゃないし。


 そうですか!

 僕には普通に見えましたけど。でも、2回目ですが!


 まあいい!明日、時間見付けて、絵画教室に顔出してくる。お父さんに聞きたい事もあるし!


 お父さんですかぁー、婚約すると、そう呼ぶのか!


 バーカ!子供の頃からだ!




《絵画教室》

・・・『誠に勝手ながら、暫くお休みします。』

 なんだよ〜この貼紙!電話も繋がらないし、メールも見てくれない。どうしたんだ!!お父さんも、紗絵も、絵里も!




《翌日の学校》

 高林、悪いけど、次に絵里に会うのは何時だっけ?


 来週の月曜日です。お昼の1時頃に絵画教室で2回目のデッサンですが、何かあります?


 じゃあ、俺も一緒に行ってもいいか?


 はい。できれば作品のアドバイスを頂きたいですし!


 分かった。絵里には内緒にな。驚かすつもりだ!


 はい。じゃあ現地で!




《2回目のデッサン(月曜日)》

 お疲れさま!、おじゃまします。


 ああ、先輩!わざわざ来ていただいて。今、こんな感じです。


 あれ、絵里は?


 先輩かそろそろ来るって言ったら、急に用を思い出したって。でも、直ぐに戻るそうです。


 そっか。これ差し入れ!店長からだ。店の品物で悪いって言ってたけどな!


 すみません。あそこの惣菜って家庭の味なんですよね。


 まあな、あの人が店長になってからだけどな!


 あっ、絵里さんが戻って来た!


 あれ!!、、紗絵?だよな、明日アメリカから戻って来る予定じゃなかったのか?


 そう言ったけど、、実は嘘ついてたの。本当にごめんなさい。


 どうして嘘なんか!、じゃあ、絵里は?


 その事だけと…。今、パパが来るから少し待ってて!


 あのー、これ先輩から頂いた差し入れの惣菜です。結構美味しくて、僕もファンなんです。


 高林さんにも、ちゃんと説明させていただきます。作品の製作途中で本当に申し訳ないと思いますが、どうか宜しくお願いします。


 えっ!また僕、何か失礼なことやっちゃったんでしょうか?


 とんでもありませんわ!


 あっ、紗絵!お父さんが来られた!


 すまん。突然、こんな話をする事になるとは、私も気持ちが、ちゃんと整理できないんで、心苦しいんだが、落ち着いたら君に話そうと思っていた。それが、今になるなんって!

 本当に、未だ実感がわかないんだが…、 

 実は、絵里は亡くなったんだ。君が、先月うちに来て、高林さんを紹介していただけると、言われた次の日に、自転車に乗っていて、タクシーと出会い頭に!


 えっ!まさか、嘘でしょう!!、嘘でしょう!!

 だって、僕とメールしてたし、高林と会うのを楽しみにしてるって!


 すまない!君と紗絵のアメリカ行を考え過ぎていた私の責任だ!絵里が亡くなったとを言ったら、君がやろうとすることに、わだかまりを抱くんじゃないかと!

 君には、アメリカに行って、思う存分活躍してほしい!それでどうしても話せなかった!


 じゃあ、あの後のメールや電話は、全部紗絵が?


 ごめんなさい。絵里の携帯を預かって、私があの子に成りすましていたの。それに、高林さんにも、嘘を付いてしまって!…本当にごめんなさい!


 じゃあ、僕と一緒にお話ししていたのは、全部紗絵さんだったんですか?僕は、全く違いが分かりませんが、普通に絵里さんが近くにおられたように感じてました。

 泣かないでください!僕は、紗絵さんが悪いと思っていませんから!


 高林さんと、初めてお会いしたとき、私も絵里が近くにいるような気がしていました。

 こんなに悲しいときに、双子でも、あの子に成りすますと、話しづらかったりするのかと思いました。でも、あなたが優しく接して下さり、絵里の高校時代のことや、動物園で猛獣たちと仲よくなったことを、まるであの子が私と入れ替わったみたいに話せたんです。そして『お帰り!』って、子供の頃、冗談で名前とお帰りなさいを、、、あの子が落ち込むと言ってたことを、思い出したんです。

 

 皆んな、本当にすまないと思っている。こうなったのは、全部私が至らなかったせいだ!

 どうか紗絵を責めないでほしい。どうか、私のように悲しみを引きずって、キャンバスに向かうことがないよう、君たちに本当の芸術を極めてほしい、そして幸せを掴んでくれ!



《一ケ月後》

・・・あれから一月。

 僕は、絵里さんの絵、いや紗絵さんがモデルの絵を、一旦あの時のまま絵画教室に置かせてもらうことにした。そして僕は、違う絵を描き始めた。何枚も何枚も描いた。それは、あの動物園のライオンや、トラや、チーターの絵だった。

 その絵は、絵画教室で子供たちに人気となり、僕は時々、絵を教えることになっていた。

 今は自分でも不思議なくらい、動物たちの思いが伝わってくる気がしている。たぶん、絵里さんが生きていたら、僕と一緒に動物園で動物たちのことを話して、いつも笑いながら過ごしているだろうと思っている。・・・



《動物園のチーターの前》

 あのー、高林さんですか?


 そうですけど!


 私、絵里の従姉妹いとこで、多田絵麻ただえまと言います。突然で驚かれたと思います。


 あっ、はあ〜!どうして僕がここに居ると?


 紗絵から聞きました。いつも動物園で絵を描いているって!


 ん!?でも、ここにどうして?


 絵里の思い出を探しに来ました。

 あの子が落ち込むと、この辺でチーターやライオンとお話ししてたんです。…私も一緒に、です…。


 ええ!あなたも、動物たちと話したりするんですか?


 いいえ、あの子がライオンに話しかけると、私が、ライオンに成りすましてました。岡絵里(お帰り)僕はライオンくんだよ!、今日も学校で、なんか嫌な気分になったな?とか言ってました。


 へえ~!そうなんですか、、。


 中学、高校と姉の紗絵は頭が良くて、大学の附属高校から推薦で獣医になるルートでしたが、絵里と私は、学校を休んでばっかりでした。


 じゃあ、絵里さんのこと、いろいろご存知なんですね!


 そうですけど、お知りになりたいですか?


 いいえ、そうではなく、、あの時から自分で勝手に想像してるだけです。


 なるほど!

 何か気付きませんか?


 えっ、何のことでしょう。僕、また失礼なことしたでしょうか?


 確かに、ちょっと鈍いかな!

 私と話してて、気付きませんか?


 はあ〜?!

 髪が短いとか、絵麻えまって、神社に飾ってある絵馬とか!…


 それですか(笑)!


 私の声が誰かに、似てると思いませんか?

 んー、、じゃあ、『あなたのお名前は、高林雄介さんですね!、私は岡絵里です!』…気付かれましたか?


 まさか、絵里さん、いや紗絵さんの声だ!

 モノマネが上手というか、そっくりです。スッゲー!


 そのとおり!私と紗絵と絵里は、戸籍の上では従姉妹いとこですが、三つ子なんです。実の母が癌で闘病中に、私は母の兄のところに養子に行くことになったんです。

 ですから、紗絵と、絵里と、絵麻は一卵性の三つ子!

 

 確かに、そう言われれば似てますが、髪も短いし、体型も筋肉質で、マスクされていて…。


 じゃあ、マスク外しますよ!


、、!……。

・・・そっくりだ!!


 確かに、私もそう思います。今はラクロスに夢中で、顔は黒くて、ガタイはいいですが、高校生のときは3人いると、親でも分からないくらい、そっくりでした!


 そういうことだとは、全く知りませんでした!


 これが、高林さんの、子供たちに人気のライオンの絵ですね! 

 わあー、迫力が凄いし、なんか生きているみたい!


 あっ、いやぁ〜、チーターですけど!


 また、いろいろお話ししましょう。なんだか高林さんとお話ししていると、ホッとします。不思議ですね!

 

 ええ、もっと絵里さんのお話しが聞きたいです。

とても素敵な方だったんだろうなって!

 僕は、紗絵さんを描いてましたが、あの時は絵里さんだと思って描いていました。まだ、描き上がってないけど、いつの日かあの絵を描き上げないと、ずっと夢を追い続けているみたいで!


 でも、私はモデルはしませんから!


 はい、分かってます。早く現実に目覚めないといけないと!


 それは、私も高林さんと一緒かな!




《成田空港》

・・・僕は、あの絵を描き上げる目標の日を、勝手にこの日と決めていた。でも、それはかなわなかった。


 先輩!、いろいろありがとうございました。


 いや、それを言うなら、こっちもだ!紗絵も君に悪かったって。でも楽しかったって言ってた。お前と一緒に居たときの一つ一つが、頭から離れないって!

 

 ああ、絵麻さん!先輩の見送りに来てたんですね!


 ええ!この前はありがとうございました。


 なんだ絵麻は!お前と知り合いだったんだ!そっか…。


 じゃ、俺そろそろ行くわ!

 あとは宜しくな!


 はい!お元気で、、あっ、向こうで頑張って下さい。あ、あと紗絵さんとお幸せに!

 ………、行っちゃいましたねー!、僕は、、いえ、何でもありません!


 佐山さんが、私に高林さんのことを宜しくって!、どうせあの絵は仕上がらないし、絵里みたいに動物園に行ってばっかだからって!、

 よかったら、お茶しませんか?!


 そうですね!、気付きませんでした。ホントは男の方が誘うのがスジでした!




《空港の喫茶店》

 絵麻さんは、何をお飲みになりますか?


 ホットコーヒーを!


 じゃー、僕も!

 サイズはMでいいですか?


 僕が持って行きますから、席に座ってて下さい。


 はい!


 どうぞ。お待たせです!


 ありがとうございます!

 高林さんは、もう絵を描けるようになったんですか?ライオンの絵ではなくて、他の絵とかを描けるんですか?

 

 たぶん…描けると思います。ただ、自分で描きたいと思うものに、なかなか出会えてないだけだと思います。


 そうですか。あの紗絵がモデルになった絵を、超えるような対象に、未だ出会えてないんですね!

 それが本当なら、一生描けないかも知れませんよ!だって、あの絵は好きな人を描いている絵じゃないんですか!


 僕は……、、


 高林さんは、絵里をかたった紗絵に興味を持った!それで、描けない絵が描けるようになった!違いますか?


 確かに、僕はあなた方三姉妹の関係は知らずに、目の前にいる素敵な女性を好きになり、その方が岡絵里と妹の名前を名乗られた。だから、描き始めた!…そのとおりです。


 紗絵は、あなたがいると、まるで絵里が近くにいるような気がしたと言ってました。それってどういう意味か想像してみてください。

 妹が急に亡くなって、、本当は妹が佐山さんのことが大好きで、ずっとそのこと紗絵は知ってて、あなたを紹介してやるって言われた妹が、会う直前に亡くなって……。


 それは!そのことは本当ですか?

 絵里さんが佐山さんを好きだった!じゃあ、なぜ僕を紹介してやるって言われた時に、断らなかったんですか?


 私には、私たちには分かるんです。なぜか分かるんです。紗絵がアメリカに行く前に、私に預けていった絵里の携帯に、あなたと紗絵が一緒に写った、、二人が初めてあった日の写真が、待ち受けになっていました。

 紗絵は、アメリカに行って佐山さんと結婚しても、あなたとの思い出を大切にすると思います。最初は亡くなった絵里の代わりのはずが、絵里が好きになれば良かったあなたのことを、亡くなった彼女が大好きだった佐山さんのことを思って、…。

 すみません。感情的になって!

 紗絵は、絵里が亡くなって、彼女の携帯を預かって、佐山さんの写真が全部消されて、残っていないことを知りました。きっと絵里は、佐山さんにあなたを紹介してやるって言われたので、会う前に、彼女なりに覚悟を決めたと思うんです。

 そして姉の紗絵はうすうす、絵里が佐山さんを忘れようとしていたと…、本当に好きだった人を忘れようとしていると、気付いていたと思います。

 簡単には整理できなくても、岡絵里という子は、岡絵里はいつも自分のことを我慢して、やせ我慢して、夢を諦めて生きてきたんです。

 うっうっ…、、、


 僕は、僕は、紗絵さんが「OKAERIおかえり」って言ったときに、この人からお帰りなさいと言われたら、なんて幸せだろうって、、思いました。

 でも、僕の悲しみは、あなた達から比べれば、大したことないと分かるんです。でも、悲しいし、苦しいし、忘れられないし、会いたいし!

 グシュ!…、、、

 すみません。僕まで、…。



《さらに一月》

・・・先輩の佐山さんがアメリカにたって、一ヶ月が過ぎた。僕は暫く、動物たちの絵を描くことを止めてしまっていた。

 でも毎週、絵画教室で子供たちに絵を教えている。最初はこの子たちも、僕のように描けなくならないかと気になったが、今は楽しい。絵を描くことより教えることの方が、自分らしいと考えることもある。


 今日の教室は、ここまででーす!

 皆んな薄炭うすずみを使って、竹や岩を描くのがとても上手になりました。七夕の飾り付けに是非使ってみてください。

 はい、忘れ物がないように、帰りは車に気を付けて、お家に帰りましょう!

 はい、ご一緒に!『さようなら、また来週!』


 なかなか板につているじゃないか!

 子供たちも楽しそうだし(笑)


 ああ、岡さん。ありがとうございます。


 このあと、来週から君のクラスに入りたいという子の面談だ!それが終わったら、少し話したいことがあるから、待ってて下さい!


 はい!、片付けもありますし、バイトも休みですので大丈夫です。


 

 お待たせしたね!


 いえ!とんでもありません。


 コーヒーでも入れようか!?


 ……はい!


 さあ、どうぞ。この豆はいつも、北新宿の親戚の店から特別に仕入れているんだ。古い釜で焙煎したやつをね!


 どうりで、香りも味も他ではなかなか出せないレベルですね!


 うちに来て、先ず色んな絵の具の匂いがするだろう。人がいるのに、夢中で絵を描くと『シーン』と静けさだけを感じるときがある。そんなときに、この香りが、いい感じで気持ちを解きほぐしてくれる。

 タバコもお酒もやらない僕の、こだわりかな!

むすめたちも、おかげでコーヒーにはうるさくなったよ。


 絵麻さんも、ですか?


 そうだな!

 養子と言ったって、自分とソックリだから、三つ子だと直ぐに分かってた。子供の頃、よくここに来て、そして僕にコーヒーを入れてくれたよ。


 後で君に見てほしいものがある。

 実は、描きかけだった絵を、また描き始めて、昨日完成したばかりなんだ。


 そうですか。是非見せて下さい。



 これがそうだ!


 ……。これ、三つ同時に描かれたんですか?


 そう!、そうしないと、それぞれのイメージや思いが重なるんでね!


 僕には、違いがほとんど分かりませんが、たぶんこの絵は、紗絵さん、これは絵麻さん。

 そして、これが絵里さんですか?!


 ああ!、そのとおりだ!


 20年もそのままにしていた妻のデッサンから、また少しづつ描き始めたものなんだ。私の記憶の中にある、三人のむすめのことを、何とか残しておきたいと思ってね!


 そうですか!

 僕は絵里さんと、お会いしたこともありませんし、お写真も見てませんから。


 確かに、そうだね!

 でも、私の絵を見て、直ぐに三人を見分けられるのは、あのたち三人を除き、、あっ、いや二人を除き、君と佐山君しかいないと思うよ。

 そうだ!、絵里の写真のことだけど、君は既に見たと言った方が、画家としては正しいかも知れませんよ!


 えっ、それはもしかして、あの携帯の待ち受け画面のことじゃないですか?

 あれは間違いなく紗絵さんですが、あの笑顔とピースは、紗絵さんの感じと少し違って見えました。エクボのでき方とか、口に力を入れて笑ってる感じなんか!


 そう、それそれ!

 あのは、いつも笑うと同じ顔しかしなかった。本当に嬉しかったらクシャクシャでいいのに、どこか気遣いしたり、はにかんだりして見えた。その点、紗絵と絵麻は思いっきり笑って、怒って、泣いて。エクボは君の言うとおり、三人とも微妙に違ってできる。

 いや、さすがの観察力だね!


 絵里さんは、亡くなる前はどんな感じだったんですか?…本当は、こんなこと、聞いてはいけないと思いますが!


 そうだね。君にとって気になるとこだね!

 実は、絵里に率直に聞いてみたんだ『佐山君がもし、紗絵よりも、お前のことが好きだったら、これから会う君のことをどうするかってね!』

 そうしたら何と言ったと思う?

 あのは、、絵里は『姉の紗絵に成りすまして、私がアメリカに行く!』そう言ったんだよ。驚いたが、あのが、そこまで言うかと。でも、ある意味納得もしたんだけどね!


 そうだったんですね。そう言う方なんですね!


 ああ、そう言うむすめだ!


 あのー、僕の描き上がっていない絵のことですが、暫くと言うか、僕が完成させるまで、ここに置かせてもらっていいですか?


 ああ、勿論いいが、私はそのつもりでいたよ!


 僕も、あの絵はここに置いたまま、当たり前のように描き上げるつもりでした。でも、ちょっと当たり前のことを心配するのが、僕ですので…。



・・・どうしてこうなったのかは分からない。でも、僕はあの時から夢を見ているような、不思議な感覚を毎日感じている。そして、現実が僕を夢から覚まそうとしても、未だ寝た振りをしているのだ・・・

 

 そして、あれから3年が過ぎようとしていた。

 紗絵さんから、アメリカで獣医師の資格を取ったので、日本に戻って来るとメールが入った。

 僕は、その時までに、絵画教室に置かせてもらっている絵を、必ず仕上げようとしている。・・・




〜〜おわり〜〜


             作者 カズ ナガサワ

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