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第25話 星が要るもの

 ドルンベルガー大佐はいらいらしていたし、そわそわしてもいたが、何よりも興奮していた。ヒトラーに会おうとする人間は皆そうなのかもしれないが、ブラウンにはそんなドルンベルガーの姿に思わず苦笑を漏らした。


 1942年10月、ついにA-4型ロケットは発射実験に成功した。そのフィルムを持って、陸軍戦略ロケット研究所長ドルンベルガー大佐と、主任研究者ブラウンが、予算獲得のためのプレゼンテーションに総統官邸を訪れていた。


 液体酸素とエチルアルコールを反応させたA-4型ロケットがもくもくと推進剤を吐き出し、スクリーンから飛び出さんばかりに飛翔して行く様を見せられたヒトラーとシュペーアは、部屋が明るくなっても、しばらく一言も発しなかった。やがてヒトラーが無言で拍手を始め、列席者もそれにならった。


「素晴らしい。素晴らしいが」


 ヒトラーはドルンベルガーに言った。


「費用と効果の関係が、今のところ不釣り合いだ」


 ドルンベルガーの顔から愛想笑いが消えた。ヒトラーの横で、シュペーアがどこか気の毒そうな顔でやりとりを見ている。その表情を見たブラウンは、ヒトラーの結論がプレゼンテーション前に下されていたことを感じ取った。シュペーアは今の映画に強く感銘を受けたのだが、ヒトラーが事前に下していた決断もまた知っていたのである。


 なぜヒトラーは、そんなことをしたのだろう? ブラウンが考えている間に、ヒトラーはドルンベルガーの労をねぎらって握手をし、がたがたと周囲で椅子から立ち上がる音がした。ブラウンも首を振って立ち上がり、ドアに歩み寄ったとき、後ろから肩を叩かれた。


 シュペーアであった。


「ちょっと来てくれないか」


 シュペーアは続いてドルンベルガーにも声をかけると、別の小さな部屋へとふたりを案内した。


 先にドアをくぐったドルンベルガーが、突然直立するとかかとを打ちあわせて右手を上げたので、ブラウンはドルンベルガーにぶつかりそうになった。


 ブラウンはドルンベルガーの背中越しに、右手を軽く上げて答礼するヒトラーの姿を見た。


----


「普通の兵器としては、残念ながら君たちの労作は今次の戦争では高くつき過ぎると思う。V-2、いやA-4型ロケットを1基作る予算で、4号戦車をほぼ1台作ることが出来る。ペーネミュンデ試験場と関連施設の建設にかかった、4号戦車4600台分の予算を別にしても、だ」


 ヒトラーは言った。ドルンベルガーは、人間が運命を受け入れるときに見せる、すがすがしい表情をしていた。ドルンベルガーの履歴書には、ここのところ20年分ほど、ロケット関係のこと以外は書く事項がない。


 ブラウンは、この困難を乗り切る方法をせわしく考え続けていた。


「今、今次の戦争では、とおっしゃいましたね、総統」


「そうだ。この兵器が10年後に非常に重要なものとなることは疑いない」


 ヒトラーの口調があまりに断定的なのに、ブラウンの方が当惑した。


「さて、そこでだ。ドイツを向こうに回した、アドルフ・ヒトラーの陰謀に、加わる気はないか」


 ヒトラーは声を潜めて言った。


----


 ペーネミュンデ試験場に戻ったブラウンは、スタッフたちにヒトラーとの会談の内容を伝えた。


「弾頭部を738キロから、100キロにするだと」


 飛行力学担当のガイスラー(ガイスラーもホイサーマンも、実在するサターン計画のスタッフ)が吠えた。


「星であれば、良い、というのがスポンサーのご注文だ」


 ブラウンは定食屋の注文を読み上げるように言った。


「星か」


 誘導担当のホイサーマンが言った。


「久しく忘れていた言葉だ」


「V-2号のウェットマス(推進剤込みの発射時質量)は13トンを超えるのだ。その程度では第1宇宙速度を達成できる見込みはない。推進剤と燃焼時間を増せば燃焼室の素材の耐熱性能が足かせとなりそうだし、そう、思い切って……」


 ガイスラーは黙り込んで考え続けた。


「総統は本気なのか」


 ホイサーマンが疑わしげに尋ねた。


「試されているのではあるまいな」


 ここのスタッフたちの多くは、宇宙旅行を志している。ゆるぎなく戦争への努力を続けているといえば嘘になる。そのことは、自分たちが一番良く知っていた。


 ブラウンが何か言いかけたとき、話し込んでいた研究室の扉が開いて、若いスタッフが顔を覗かせた。


「所長がお戻りになりました」


 ドルンベルガーは資材調達上の細かい点をシュペーアのスタッフと話し合うため、ベルリンに1日余計に残っていたのである。


 3人が扉を開けると、ちょうどドルンベルガーが廊下の向こうからやってくるところであった。その姿を見た3人は、申し合わせたように立ち尽くした。


「星がない」


 ホイサーマンがつぶやいた。


「よい印だ。これでも総統を疑うか」


 ブラウンが早口でささやいた。そのふたりの背中を、ガイスラーがぽんと叩いた。


「ともかく、お祝いを言わなければいかんな」


 3人は、真新しい制服を着た、照れくさそうなドルンベルガーに歩み寄った。昨日までドルンベルガーの肩にあったふたつの銀の星は消え、代わりに金の房飾りがその肩を覆っている。


 ドルンベルガーは、少将になった。


----


 ブラウンたちの作業は驚くべき速さで進んだ。開発期間を短縮するため、ブラウンたちはV-2号から弾頭と姿勢制御装置を取り除いたものを2段目とする2段ロケットを開発することにして、1段目の設計、次いで試作に取り掛かった。


 新しい1段目の燃焼試験が成功したのは、1942年12月に入ったころであった。


 燃焼試験が終わるといよいよ発射実験である。ヒトラーは発射に立ち会うようドルンベルガーから誘われたが、「見ると負ける」と奇妙なことをつぶやいて断った。


 発射試験の日、ヒトラーは空軍首脳との協議に臨んでいた。有り体に言えば、陳情を定期的に受ける日であった。


「東部戦線での稼働率低下の件だが、ソビエト軍の捕虜に尋ねることは出来ないのかね」


 ヒトラーは言った。


「同じ低温下でソビエト空軍が出動してくるとすれば、彼らは何か手段を持っているはずだ。そう、エンジンを直接火であぶるとか、凍結したオイルをのみでかき取るとか」


 ヒトラーが手振りをして見せたので、空軍のスタッフたちは笑った。


 機材の調達は順調に進んでおり、空軍の作戦機数はすでに1942年春の水準に復し、同盟国空軍へ旧式機を譲渡しつつ拡大を図れる状況であった。パイロットの供給状況はもっと悪く、訓練期間の短縮が始まっていた。ヒトラーは、訓練用機材と教官を決して戦闘任務に転用しないよう念を押した。


 ソビエト軍は12月に入って活発に攻勢を仕掛け、そのつど撃退されていた。ソビエト軍のそれには遠く及ばないものの、東部戦線全体で、ドイツ軍にも緩慢だが止まることのない出血が続いていた。


「さて、来年は新しい司令官の下での会議となろうが、これまで通り頑張って欲しい」


 ヒトラーは会議を締めくくった。シュペール元帥は心労と肥満から循環器系疾患を起こし、引退を願い出ていたので、1943年1月1日付でケッセルリンク元帥と空軍総司令官を交代することが内定していた。


 会議が終わるのを待っていたらしく、OKWの連絡武官が紙片を持って会議室に入ってきた。紙片をちらと見たヒトラーは、肩をすくめて何も言わなかった。


 発射は、失敗した。


----


 ホイサーマンは、ミーティングの結果を反芻しながら、廊下を歩いていた。第1段ロケットの燃焼が続いているうちに、ロケットの軌道がふらついて地上に落下してしまったので、第2段ロケットの点火システムを直接検証することが出来なかった。おそらく第1段ロケットの固定フィンの取付角に工作上の問題があったか、でなければ十分な加速度を得ないうちにアレスタを解除してしまったか、どちらかであろう。いや、燃焼室の出口をもう少し伸ばして、噴射の方向を絞った方がいいのかもしれない。


 ふと気がつくと、廊下の向こうから工場保安隊の兵士が数人、ひとりの外国人労働者を引き立てて来た。保安隊の顔見知りの下士官が混じっていて、ホイサーマンに声をかけた。


「第2段ロケットの配線を切ろうとしているところを捕まえました。次はきっと成功しますよ」


 労働者はポーランド語でわめいた。


「悪魔の武器を作っている小悪魔め」


 ホイサーマンは「あれは武器じゃない」と言い返そうとして、思いとどまった。あからさまにそれを口に出すことは出来ないし、言っても信じてもらえまい。


 無言で労働者の背中を見送ったホイサーマンは、誰にも聞こえないように小さくつぶやいた。


「無駄死にしやがって」


----


 ペーネミュンデに付属する生産施設では、次々にA-4型ロケットが組み立てられていた。これを少しずつ手直ししながら、実験に使って行くのである。第1段ロケットはまだまだメカとしての成熟度が低かったが、それでも前と同じ物を作るのであれば、2週間ほどで次が出来上がってきた。


 ブラウンは、ヒトラーに直接電話をかけた。


「今回はうまく行くのかね」


「うまくいく予定です」


「たいした自信だ」


 ヒトラーはからかった。


「問題点の洗い出しは予想以上に進んでいます。実際のところ、目標にミサイルを命中させるよりも、人工衛星を打ち上げる制御の方が、ずっと簡単なのです」


「ほう、そうなのか」


「円軌道でも楕円軌道でも、とにかく衛星でさえあればいい、というご注文であれば、ですが」


 ヒトラーは苦笑した。ブラウンは話を続けた。


「2段目のA-4型ロケットは十分に試験されていますから」


 ブラウンは多少の誇張があることを気取られないよう注意した。ヒトラーはそれに気がついたが黙っていた。


「空中での点火で問題がなければ、次の実験で成功すると思います。ですから以前通り…」


 ブラウンは、ヒトラーにペーネミュンデを訪問させる手はずを整えた。


----


 ブラウンは、型通りの視察を終えると、主だった技術者とヒトラーを質素な会議室に集めた。盗聴機が仕掛けてあることは十分考えられるから、ヒトラーも技術者たちも、時折他愛のない質問をして、科学者と総統のざっくばらんな歓談の体裁を整えていた。


 ヒトラーはかばんから布切れを取り出すと、ブラウンに渡した。その派手な布地はエヴァと女性秘書たちに作ってもらったもので、オリジナルとは似ても似つかない。ましてやオリジナルを知らないブラウンたちには、その布の意味するところは分からない。


 ブラウンたちは、コーティングした銅板を引っかいて、エッチングプレートを作る準備をしていた。衛星は地上から観測しやすいよう、肉薄の金属球の形をしているから、これらを中に入れるのである。


 プレートには、すでにブラウンの手になる文章が刻まれていた。


「我々は人類史上初めて、その活動の証しを大気圏外に印す機会に恵まれたことを光栄に思う。この衛星は始まりであって終わりではない。我々は我々の企てが、月世界旅行につながる第一歩であることを信じているが、その月世界旅行もまた、人類が宇宙へ乗り出していく終わりなき企ての中では、ほんの小さな里程標に過ぎない」


 ブラウンは言った。


「ドクトル・オーベルト、やはりあなたが最初に署名すべきではないかと思う」


 年長の技術者が遠慮がちに首を振った。周囲の若い技術者たちが口々にブラウンに同意したので、人望のある人物であることがヒトラーにも分かった。しかしオーベルトは署名をしようとしない。


 ヒトラーはその光景を見ていて、ひらめくものがあった。


「もしこのことが君たちの気を楽にするのであれば言うが」


 ヒトラーは言った。


「衛星を打ち上げるのは人類であって、ドイツではない」


「私はドイツ市民権を持っていますが、ジーベンビュルガー(当時のハンガリー領、現ルーマニア領トランシルバニア出身者)です、総統」


 オーベルトは穏やかに言った。


「では人類のひとりとして、署名させて頂きます」


 室内に、ほっとした空気が流れた。


----


 今日は打ち上げの日である。成功した場合のみ後から録音でラジオ放送を流すよう、ペーネミュンデに宣伝省からアナウンサーが来ていた。管制室では誰も彼もにこやかだが、口数が少ない。静かな緊張感が、無駄口を叩かせないのである。


 秒読みが始まった。すべての視線が窓の外へと伸びる。


「ドライ、ツヴァイ、アインス、ヌル」


 ロケットエンジンが点火した瞬間、白い噴射ガスがあたりを満たした。


 一呼吸置いて、最初はゆっくりと、そして次第に力強く、ロケットはほぼ真上に向かって飛び立って行く。休みなく推進剤がノズルから噴き出し、やがてそれが白い帯となってロケットに続くようになる。


 ブラウンも、技術者たちも、じっとその行方を見守る。歓声はない。何が問題なのか、スタッフたちは知っている。


 すでにロケット本体は点のようになって細部が見えない。白い筋だけが高く高く上っていく。その筋がふたつに割れ、半秒遅れて衝撃音が響いてくる。歓声と拍手が起こり、技術者たちが抱き合う。無事第2段ロケットが点火したのである。


 それを呆然と見送っていたアナウンサーは、自分がすっかり実況放送を忘れていたことに気づいた。


----


「我々は今日、星をひとつ作った。それが今、我々が最も必要としているものだからである」


 ヒトラーは演説をこう切り出した。


「このロケット技術が、平和的な目的を持って開発されたと私が言っても、誰も信じないであろう。そう、それは事実ではない。我々はこの技術をもって、様々な目標を攻撃できると信じている」


 勝利万歳、の掛け声をかけるものがいて、しばらく観衆は騒然となったが、やがてヒトラーの身振りに制された。


「しかしながら、同じ技術を持って、多くの民族に属する、多くの人々の夢を実現することも出来るのである。人の目は近くを見ながら、遠い地平線の彼方まで視野に収めている」


 観衆には熱狂した様子はなかった。


「星からは地球の様子がどのように見えるか、まだ見たものはいない。きっと海の色をした、青く美しい星ではないかと思う。我々がそれを目にするときには、いまドイツの若者たちと銃を向け合っている若者たちと、一緒にその喜びを分かち合うことを願っている。私は世界のすべての指導者が、これを機会として、星の目から見た新たな視点によって状況を検討するよう、切に求めるものである」


 演説は終わった。あまりにも短い演説であった。観衆は戸惑った。やがて、拍手が起こった。歓呼するにはふさわしくない内容であった。


「諸君」


 ヒトラーがまた口を開いた。演説草稿にはないアドリブである。拍手は静まった。


「私は諸君への約束通り、諸君の家族をクリスマスまでに諸君のもとに帰すことが出来なかった。私は諸君と諸君の家族に、まだ戦えと言わねばならん。罪は私にある。だが今しばらく、私の下で、戦争に耐えて欲しい」


 無言の拍手が起こった。掛け声がいくつかかかったが、唱和するものがいなかった。録音室では、ディレクターが蓄音機のスイッチを入れ、足りない拍手と歓声を補った。


----


 ロンドン駐在のCBSラジオ(アメリカ)特派員エド・マローは、アメリカへの放送原稿を読みながら、ディレクターに言った。


「ボブ、人手不足なのは分かっているが、新しいタイピストを雇った方がいいんじゃないか」


「どうしてだ」


「衛星の名前みたいな大事な単語を打ち間違えるようじゃ困るよ」


「3人目だ」


 ボブはにやっと笑ってエド・マローに3本指を突き出した。


「そいつを指摘したのは、おまえさんで3人目だ。ひとり目は俺だがな。マドリード支局に電報を打って、フェルキッシャー・ベオバハター(NSDAP機関紙)を買いに行かせた。最後にnがつく。間違いない」


「ティーゲルン? なんだそりゃ」


「複数形だ」


 ボブは言った。


「なぜかは聞くな。俺だって知りたいくらいだ」


----


 総統官邸の屋上で、ヒトラーは星を見ていた。護衛の親衛隊員がはらはらと、周囲のビルの窓に目を配っている。狙撃者がいたら大変である。


 この星空のどこかに、ヒトラーの打ち上げた衛星がいる。エッチングプレートとペナントを載せた衛星が。


「彗星なんか待っとられへんから、衛星打ち上げたったからな。毎年優勝せいよ」


 ヒトラーはつぶやくと、階段に通じるドアをくぐった。


 日本人は捨てても、阪神ファンは捨てられない、おっちゃんがここにいる。

ヒストリカル・ノート


 いまや、執筆当時の状況そのものに注釈が必要でしょう。


 1985年、21年ぶりに阪神タイガースが優勝したのとテンポをあわせるように、ハレー彗星が接近しました(最接近は1986年)。当時、阪神ファンは「次にハレー彗星が来るまで阪神は優勝できない?」などと冗談を言ったものですし、1991年にハレー彗星が謎の増光を見せ核の分裂が疑われたときは「もう優勝できないのか」と心配したものです。


 そこでおっちゃんは、阪神の優勝を願って人工衛星を打ち上げようとするわけです。


 ちなみにいわゆる「おっちゃんの人工衛星」計画、東大阪の宇宙開発協同組合SOHLAが関わった人工衛星「まいど1号」が話題を呼んだのは執筆後(2009年打ち上げ)でした。


 1942年10月、A-4型ロケット(のちV-2号と命名)は発射実験に成功しました。V-2号は放物線軌道を描いて遠くの目標に命中させるため、フィンによる姿勢制御という技術的な難関を抱えており、1943年7月から8月にかけてペーネミュンデが連合軍の爆撃を受けてスタッフや熟練工が死傷したこともあって、1943年中にはミサイルとしての実用大量配備は実現しませんでした。この間1943年5月、ドルンベルガーは少将に昇進しています。


 ペーネミュンデが爆撃を受けた後、ドイツ西部のノルトハウゼンにあった強制収容所に隣接した地下工場が作られ、地下工場労働者の2/3は強制収容所の囚人でした。囚人は東欧諸国民やドイツの政治犯など雑多な構成でした。第12話でも触れましたが、当時の工場が(囚人でない)外国人を雇うことは自由でしたが、雇う場合には一種の税を収めねばならず、当人たちにはドイツ人労働者より低い賃金を払うことが義務づけられていました。特にポーランドからは意図的に労働者がドイツに送られました。


 ヒトラーが示唆しているエンジンの乱暴な暖め方は、実際にソビエト空軍で取られていました。ドイツ空軍は1942年の冬から、自分たちもこの方法を取り入れました。


 オーベルトはどちらかというと理論家で、彼の宇宙ロケットに関する理論書は当時宇宙を目指す者のバイブルでした。1940年にドイツ市民権を獲得すると、彼は1941年から1943年までブラウンの下でアドバイザーをつとめました。戦後は一時アメリカに渡って、再びブラウンの下でロケット開発に協力した時期もありますが、結局ドイツに戻って講義と著述に余生を費やしました。


 田草川 弘 『ニュースキャスター―エド・マローが報道した現代史』によれば、エド・マローの放送人としての後半生は不遇でした。マッカーシズムと命がけで戦ったエド・マローでしたが、彼に打撃を与えたのはマッカーシー上院議員よりも、西部劇ブームと報道番組への冷遇だったのです。


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