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弱冠の副ギルドマスター  作者:


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19/19

道楽探偵と愛煙刑事






 シュピールプラッツのある街から馬車を走らせること約1時間。採石場で働く労働者と彼らを相手にする露天商で賑わう隣町ベイコーレ。その中心街にある馬車の停留所を道の向かいから望むことができるカフェテラスで独りたたずむフォギーブルーの髪の男――メイ・シャイル――は目を閉じ、思考の整理をしていた。


 今回の依頼人はこの街を管轄する警察署に所属する刑事。最近頻発している露天商が襲撃される事件で知恵を貸してほしいとのことだ。


 ギルドに流れ着いてそれなりの時間が経ち、このような探偵じみた仕事も板についてきたところだが、警察がわざわざ神術士に頼るということはそれなりの理由があるということである。


 果たして、露天商の襲撃がどんな謎に辿り着くのか。メイは疑問を抱くと同時に、ミステリ小説の冒頭を読んでいるかのような胸の高鳴りを感じていた


 「相変わらず早い到着だな」


 メイの居るテーブルの前に突如現れたスーツ姿の男は、被っていたハットを取り、メイに向かって右手を差し出した。すると、メイは顔を上げ、その手を取り握手を交わすと、にっこりと微笑む。


 「ホストを待たせるわけにはいかないのでね」


 メイはそう言うと、握手したばかりの手で向かいの椅子を差して男に座るよう促した。男は椅子にゆっくりと腰掛け、テーブルの端に置かれた呼び鈴を鳴らす。


 「一緒に送った資料は読んでくれたか?」

「勿論……と言っても、"読む"というには、些か文字が少な過ぎるように思えますがね。アレは」


 男はチクリと針で刺されたかのように顔をしかめた。だが、丁度ウェイターが注文を取りに来たことで、すぐにメイから顔を背けた。


 「ビターココアと灰皿を」


 男はジャケットの内ポケットに手を突っ込み、手のひらサイズの缶とマッチ箱、パイプを順番にテーブルの上に並べ始める。男が一服する準備を整えるのを待っている間に、メイは先に頼んで残り少なくなっていたビターココアをぐいっと飲み干した。


 薄らと茶色く染まったフォギーブルーの口ひげをハンカチで拭うと、息を吹きながらパイプにマッチを近づける男に視線を向ける。


 「話をお伺いする前に私の第一印象を述べますと、この事件は一見するとただの金目当てのコソ泥の仕業。しかし、犯人を1人捕まえても、また同じように犯行を行う別の人間が次々と現れる。そこから、バックに何者かが居ることが予想できます」


 男はそれを聞きながら大きく息を吸い込むと、ゆっくりと口から煙を吐き出して、その紫煙を浴びるように何度か頷く。


 「我々も同じ考えだ。後はその元締めをあぶり出して捕まえてしまえば一件落着。街に平和が訪れて俺の失業がまた一歩近づく」


 男は、大きく腕を広げて大げさに天を仰いで見せた。しかし、すぐに姿勢を元に戻し、メイの反応を伺うように目線を落とした。


 「だが、そう簡単にはいかない」


 男はそう言って、またパイプを口にくわえて息を吸い込む。この吸った煙を吐き出すとき、いよいよ話は本題へ進む。メイは期待を胸に抱きながら、男の肺の膨らみを注視する。


 すると、男は勿体ぶるかのようにしばらく息を止めると、今度は先ほどよりも長く、そして細い吐息と共に、香ばしさと微かな青臭さが入り交じる煙を吐き出した。


 そして、体から煙が抜けきった頃に、男はまた話し始める。


 「今までに8人の人間が逮捕されたが、そいつら全員に何の共通点も見られなかった。年齢も、性別も、職業も。唯一共通していることと言えば、存在しない貴族に雇われたと言っていることくらいか」

「存在しない貴族?」


 そんな非常に興味を惹かれる言葉が耳に入るや否や、メイは食い気味に聞き返した。すると、男はまんまと食い付いたと言わんばかりな表情を見せる。


 「フォーゲルヒンメル(クラインミア王国の西端に位置する公爵領)のシガニクヒ伯爵だとよ。そんな地名知ってるか?」

「探せばそんな名前が付いた集落くらい見付かるかも知れませんが、少なくとも伯爵が治めていないことは確かでしょうね」

「だろ?だが、誰も彼もこの街の外れにある伯爵の別荘に招かれて強盗の誘いに乗ったって言いやがるんだよ」


 役所やレストラン、カフェなどがあるこの辺りならいざ知らず、簡易宿泊所や無許可で営業している酒場が点在している街の外れに、伯爵の地位に見合うような邸宅があっただろうか?


 メイは自身の記憶を振り返ってみるが、思い起こされるのはどれも酒か煙草か炭の臭いのする、やはり伯爵に相応しくない場所ばかりだ。


 「それでその伯爵の別荘があるという場所に行ってみたんだが、そこにあったのは――」


 男は勿体ぶるように言葉を切り、メイの顔を伺った。すると、その間に割って入るようにウェイターが現れ、湯気の立ったカップと灰皿を男の前に置く。


 男はココアをひと口飲むと、そのままココアの味が残る口でパイプを咥えた。


 その様子を見て、メイはテーブルの上に置いていた手をピクリと動かし、催促するように人差し指でトントンとテーブルを叩く。


 メイのそんな様子を楽しみながら、男はまた大きく息を吸い込んだ。そして、満を持して聞かせてやろうと、男はパイプを口からゆっくりと放した。


 しかし、実際に次に言葉を発したのは、男の方ではなくメイの方だった。


 「あったのは、ボロボロの空き家でしたか?」


 男は虚をつかれた様子で硬直し、今まさに声を発しようと開きかけた口から煙草の煙を漏れ出させる。

 その様子を見て、自身の想像が正解であることを確信し、メイはフッと笑った。


 「廃屋をさも豪邸かのように見せることができる力を持つ者が今回の事件の首謀者と睨んでいる。そういうことですね」


 固まっていた男だったが、メイの言葉を聞き、それが言いたかった。と言わんばかりに手に持ったパイプでメイを差した。


 しかし、そんな男に対し、待てとでも言わんばかりにメイは手のひらを向けた。


 「あなた方は相手に幻覚を見せることができる神術(しんじゅつ)を持っている者が首謀者だと疑っているのでしょうが、そうと決めつけるにはまだ早い。首謀者の正体について、もう1つ、別の可能性もあります」

「別の可能性?」


 男は興味津々で前のめりになった。すると、今度はメイの方が勿体ぶるようにふうっと息を吐き、先ほど拭いたばかりの口の周りへ、再びハンカチをあてがう。


 すると、男はメイよりもわかりやすく表情を変える。それを見てメイはまたフッと笑うと、ゆっくりと口を開く。


 「私の考えるもう1つの可能性、それは……」


 男は唾を飲み込み、メイの口の動きに意識を集中させる。


 「誰にも気付かれないうちに豪邸を作り上げ、そして跡形もなく解体する。それを成し遂げることができる凄腕の大工。それが首謀者の正体です」


 男はそれを聞いた途端、前のめりになっていた体から力が抜けて、テーブルに顔を打ち付けそうになった。


 「あんた、それ本気で言ってるのか?」

「もちろんです。それとも、術者(じゅつしゃ)が犯人であるという確証をお持ちですか?」


 その問いに、男は痛いところを突かれた。といった具合に閉口する。少しして、男が何かを捻り出しかけたそのタイミングで、図らずもメイが次の言葉を発してかき消してしまった。


 「確証をお持ちなら、こんな道楽者に頼まずにご自分たちで探されているでしょう」


 メイはそう言うや否や我に返り、やってしまった。といった様子で右手を額に当てる。自分の口から出たことながら、些か意地悪な物言いであったと反省するが、男の方は慣れた様子で、違いねえ。とケタケタ笑う。


 「一応言っておくが、国に登録されてる神術士については既に調べたが、ミーティシャバルト(この領)にも、フォーゲヒンメル(その領)にも怪しい奴は居なかった」

「つまり、神術を有してはいるものの、国から認可を受けずに力を振るっている者。闇術者(やみじゅつしゃ)である可能性が高いと」


 またパイプを口にしていた男は、大きく息を吐いてから首肯する。そして、パイプを逆さにして灰皿にカンカンと打ち付けて燃えカスを取り出した。


 「そういうわけで、俺たちが掴めたのはここまでだ。あとは頼むぜ大・先・生」


 男はそう言うと、 ココアをグイッと飲み干す。まだ少し熱かったのか、胸のあたりをさすりながら顔をしかめた。


 ごゆっくり。と言いたいところだが、捜査真っ只中の今はそうもいかないのだろう。メイはポケットからコインを2枚取り出してテーブルの上に置くと、立ち上がって椅子に掛けてあったジャケットを手に取った。


 「それでは、3日後の同じ時間に会いましょう。それまでに、この街に出入りしている大工を全員洗っておいてください」

「本気だったのか……」


 男は何とも言えない顔なり、無言でメイを見返すが、何かを思い出した様子ですぐに口を開いた。


 「そういえば。今朝、酒場で張ってた部下(ウチのもん)を殴ってしょっ引かれた神術士が居るそうなんだが、まさかとは思うが、知り合いじゃないよな?水を操る坊主らしんだが」


 メイはシュピールプラッツの面々の顔を順に思い浮かべる。そして、すぐに該当する人物に行き着いた。


 「ええ、恐らく知り合いですね」

「身元の照会が終わったから、ギルドに連絡して引受人を寄越してもらおうとしてるんだが、知り合いなら丁度いい。迎えに行ってやってくれ」


 今から仕事に取り掛かろうというときに、なるべく面倒ごとは引き受けたくないがどうしたものか。と思考を巡らせる。


 何の気なしにその神術士がこの街に居る理由について思い返してみる。すると、思わずメイはふふっと笑い声を漏らした。


 そして、怪訝な顔を向ける男に対してメイは言う。


 「次に会うのは2日後にしましょうか」






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