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5.洒落てこそ姫

戦国コーデの巻

数えで5歳になった私は、書物を読み書きすることに明け暮れていた。

(こと)と歌の先生である四辻忠順(よつじただまさ)様と冷泉為益(れいぜいためます)様が京に帰っているからだ。


「…なんて書いてあるか…よめぬぅ…。」


和歌を習っている時に思ったことだが、まず字が読めない。ミミズが這ったような崩された字で一文字一文字が理解しにくい。

見た事ない漢字ばかり使われている。

言い回しが難しくてよく分からない。


学生の時に軽く古典をやっただけでは到底理解できないと悟った。

日本語ではなく外国語だと思うことにして、私は読み書きを始めた。


子曰(しいわく)(ひとの)患人(おのれを)之不(しらざる)己知(をうれえず)(ひとを)己不(しらざる)知人(をうれう)(なり)

人に自分のことを知られなくてもこまらぬが、自分が人を知らないのはこまる…か。」


父が持っている本を片っ端から写本をしていく。横には侍女の摩耶(まや)がついて読み方や意味を教えてくれた。

摩耶が分からないところは正長兄様(まさながにいさま)に。兄に分からないところは父に聞いて覚えまくった。


その頼りの父と兄が(きょう)近江(おうみ)駿河(するが)を忙しなく行き来し、持船(もちぶね)城に帰ってくることが殆どなくなったので、自習を余儀なくされた。


「早くいくさが終わればいいのに…。」


京では争いが絶えず続いており、今の将軍である足利義晴(あしかがよしはる)様や家臣の細川晴元(ほそかわはるもと)様が御所(ごしょ)から追いやられたり、細川晴元様と組んでいた将軍が敵の細川氏綱(ほそかわうじつな)と手を組もうとしたり、そして三好(みよし)率いる細川晴元様と負けて近江に逃げたり…。


名前が似過ぎてややこしいことこの上ない。


駿府は正直そんな京とは関係がないと言いたい所だが、父は室町幕府の奉公衆(ほうこうしゅう)という武官の官僚に選ばれているため、足利将軍様に何かあれば京に行かなければならない。

外交と都の情報収集のために太守(たいしゅ)様からの命とのことだった。


「父上や兄上の何か力になれないかなぁ…。」


雨が屋根を叩く音が響く昼前、雨雲で外は暗いので部屋着のままだ。『論語(ろんご)』を読み終えた私は『大学(だいがく)』に手をだす。


(てん)天子(しよりもっ)以至(てしょに)於庶人(んにいたるまで)壱是(いっしにし)皆以(ゅうしんを)修身(もってほ)為本(んとなす)。えー…天子からしょみんまで、しゅうしんが基本っと。とくをつめってことか。」


父や兄に早く追いつけるように、四書五経(ししょごきょう)をひたすら読む日々。

無心で筆を取り、写しを続けていたら後ろから声をかけられた。


「瀬名姫様、もうお昼ですよ。お食事前に着替えましょうね。」


ずっと控えていた摩耶(まや)が私の手元の書物や(すずり)をサッと片付けていく。


「今日はどんな衣装にされますか?」


「うーん…きなりのさらさらの、あの小そで。細おびついてるやつが良い。」


私は黄色の麻の小袖を指定した。

これは袖丈が短く、袂も丸いのでとても動きやすいのだ。

幼児用に細帯も縫いとめてあるため、多少激しくしても解けにくい。


「!!それはお外遊び用の汚れても良い衣装ではありませんか。雨なのですからせめて着るものぐらい華やかにしなくてはなりませんよ。」


私を嗜めながら摩耶が持ってきたのは、襟元(えりもと)に刺繍が施された下着(したぎ)、白く綺麗な間着(まぎ)、そして朱色の花々が描かれた華やかな打掛(うちかけ)だった。


「うちかけ!?…まやがえらぶの、重くていや。」


「瀬名姫様、これから年齢を増すごとにもっと重くて華やかな衣装を着ることになるのですよ?綺麗な格好に慣れるのも大事な花嫁修行です。」


「……。はーい…。」


言い返したい言葉をぐっと飲み込んで、諦めて両手をあげると摩耶が素早く着付けていく。


「まやはすごいね。早くて、とてもきれい。型くずれもしないし。」


「幼い頃からやらされますからね。姫様の身の回りのお世話が私の仕事ですから当然です。」


摩耶は誇らしそうに笑いながら、私の帯をキュッときつくしめた。


「せなも出来るようになりたい。お昼から教えてくれる?」


「え?姫様には私や使いの者が付きますし必要ないかと思いますが……。」


「だってまやみたいに洒落たい…かわいくなりたい…!」


モテる女性はいつの時代も皆オシャレだ。普段は適当な格好でも、殿方のいる所では誰よりも綺麗でいないと生き残れないだろう。そう思った私はこの時代のファッションを学ぶ為に摩耶に願い出た。


「姫様はそのままでも十分愛らしいですが…。」


「もっとあいらしくならなきゃだめなの。」


「…承知致しました。女として美に関心があるのは分かりますし、自分自身で着物を選ぶ楽しさも知っていますからね。」


「…本当!?うれしいっ!」


私は手を叩いて喜んだ。摩耶は麻の小袖(こそで)を毎日アレンジしながら着こなしている。

オシャレ番長の摩耶に手取り足取り教えて貰えば、きっと将来は大丈夫だろう。


安堵した私は摩耶と食事の間へと向かった。



ーーーー



食事を終えてさっそく摩耶先生の服飾講義が始まった。


「まず、小袖の下に着る下着ですが、襟元が見えますので刺繍や染めなどが入った華やかなものを合わせるのがよろしゅうございます。」


「はだぎをきてるのに、その上からまたしたぎをつけるんだ…。」


「ええ。肌着、下着、その上に間着をきます。小袖のことですね。その上に打掛です。」


四枚重ね着がスタンダードらしい。なんとも暑く重い装いだろう。


「打掛が華やかな染めや織のものを羽織るので、間着は白が主流です。」


「なるほど。今、わたしがきせてもらってるやつだ。」


摩耶が私の間着の白い小袖に触れながらニコリと笑った。


「ただ、最近は間着も色をつけたり、華やかにするのも流行り始めたそうです。庶民の間でも煌びやかな小袖が人気ですから。」


中も外も派手にいくのがこれからの主流になりそうとのことだった。

これは余計にセンスが必要になってきそうだ。


「これは辻ヶ花染(つじがはなぞめ)の小袖ですね。打掛は何色が良いと思いますか?」


「小そでがむらさきだから、上は白や青が合いそうかな。」


竜胆(りんどう)の花が描かれた紫色の小袖を見ながら私は答えた。

なるべく同系色だったり、邪魔をしない白が無難ではないだろうか。


「とても合いそうですね。では帯は何色に致しますか?」


「うーん、ふじ色とか?」


「藤色ですね。確かに似たような色だとまとまりが良いですが、少し無難ですね。せっかくならこの黄色や山吹色を使うと引き締まって華やかにまえますよ。」


摩耶が紫の小袖に白の打掛を重ねてその上から黄色の帯を置いた。

確かに目を引くコーディネートだ。


「はんたいの色のほうがひきたつんだね。」


摩耶に答えた時に補色という言葉を思い出した。美術の授業で習ったことがある。


「ええ。時には大胆に色を持ってくるのも素敵な装いになります。」


「たしかに!色だけじゃなくて、そざいをかえるのもお洒落になりそう。」


疋田絞(ひったしぼ)りや西陣織(にしじんおり)を合わせたりなど、違う染めや織を組み合わせてみるのも面白いかもしれませんね。」


話がとても弾んだ私たちはそれから時々、摩耶とコーディネートとファッションの勉強会を度々開くようになった。

センスも少しずつ上昇中である。

読んで頂きありがとうございました。


四書五経は麒麟がくるで明智光秀が手に持ってましたね。

今は主人公が戦国の世界を学ぶパートですが、早く現代知識を生かすパートに移りたいです。


漢文がルビの関係で段落が飛び、読みにくかったらごめんなさい。


ブクマありがとうございます。

励みになります。

次話は明日の20時投稿します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 足利義晴のルビが『あしかがやしはる』になっています。
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