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青と黒の狭間  作者: 島七枝
2/7

A boy in wonderland.


その次の日、点滴跡の残った腕を見ながら、俺は自室のベッドの上に寝転んでいた。


真夏、エアコンの無い部屋。でも、そこにしか俺の居場所は無かった。いや、本当はそこにも無かったのかもしれない。


母とは何も話さなくなり、姉は仕事、父は旅行から未だ帰ってきていない。



俺はとにかく気を紛らわそうとした。手始めに、溜まっていたアニメを消化しようとした。


…が全く面白くない。

観ていられないのだ。

つまらないアニメを観ているわけじゃない。昔好きだったアニメの2クール目だ。アニメは悪くない。

変わってしまったのは俺だ。


違和感を感じつつも、まだ気を紛らわそうとした。

次にゲームをやってみた。

スマホのゲームアプリを開こうとした…が、全く面白くない。というか、開く事すら苦痛だった。



今まで楽しく感じられていたものが、180度変わってしまった。

何も楽しく感じられないのだ。

そもそも何も考えられない。

思考を巡らせているような、ぼーっとしているような、その間のような。


ただ、違和感と不安だけを覚えた。



アルバイトの方は、辞退させてもらった。

テレビ局が怖くなっていたのだ。



学校の方はというと、一学期末期間だったのだが、全て休んだ。特に病名があったわけではないので、普通の病欠、という事になった。


病欠の連絡、事の説明は全部俺がやる事になった。

あまりにも気分が悪いので、本当は母にお願いしたかったのだが、その要望は受け入れられなかった。


母としても、息子にどのように接していいのかわからなかったのだろう。

ただ一言、「痩せたね。大丈夫?」と言われた事だけは覚えている。



俺は心の中で、"大丈夫ではないから痩せちゃったんじゃないか。"と憤っていた。



8月に入ると、追試験を受けられる事になった。教科は限られてしまうが、主要教科は受けることができた。

学校では友達は多くなく、だが、それなりに充実していた。

去年、今年と同じクラスの唯一の友達、山口佳子に連絡を取った。

"テスト、どんな感じ?今度追試があるんだよね。"

"学校休んでたよね。体大丈夫なの?試験の方は〜"

と、結構内容を教えてもらった。

元々ある程度勉強をしていたので、全く集中できなかったが、どうにかなった。

試験時間、机に向き合うことすら困難になっていた。



テストが終わると、家から出なくなっていた。外は暑いし…と言いたいところだが、そういう事ではない。

外が怖いのだ。

もしかしたらまた発作が起きてしまうかも。

もしかしたら熱中症になるかも。

もしかしたら外出中に家が火事になるかも。

もしかしたら自分のせいで家が崩壊するかも。


そんなことが頭の中から離れない。

お陰で、俺は外に出なくなった。



もっと困った事がある。

家の中にいるのも怖いのだ。

家にいると、動悸の音が聴こえてくる。

しかも、世の中と隔絶されたような感覚に陥る。

これが酷く憂鬱なのだ。


気づけば学校に行けなくなっていた。

電車にも乗れなくなっていた。

外出もできなくなっていた。

何も楽しく感じれなくなっていた。

自分の人生に、光を見出せなくなっていた。



そう、迷い込んでしまったのだ。うさぎに招かれたアリスのように。

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