One day, in the early summer.
この文章を読んで、気分が悪くなってしまうかもしれません。一方で、孤独から解放されるかもしれません。言葉の力とは、そういうものだと思っています。
私はどちらかというと、後者になれるよう精進致します。
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"I have a dream"
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で始まるかの有名な演説は、キング牧師が黒人奴隷解放のため、アメリカ国民に向けて発したスピーチである。
僕は、この言葉が好きだ。
もしかしたら、性格診断で、この人と似ていると出たからか。
もしかしたら、自分が夢を持っているからか。
そう、僕には夢がある。
幼い頃、社会科見学で連れて行かれた新聞社のせいかもしれない。あるいは、最近流行りのYouTuberとやらのせいかも知れない。
どちらも夢がある。誰かの助けになるかもしれないという"夢"。好きな事でお金が稼げるという"夢"。
"夢"は実現可能性とともに、実現不可能性も秘めている。その"矛盾"に人々は魅了されるのではないか…。
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そんな事を考えながらつまらない授業を受けている俺は、受験を控えた高3である。一学期末の試験に向けて日々勉強中、という事になっている。
というのも、勉強の方は順調。そんなことより、明後日に控えたアルバイトの説明会の事で頭がいっぱいだ。
内容としてはイベントスタッフという言葉が当てはまるだろう。某大手テレビ局が夏休みに催すイベントのお手伝いである。
自分の夢であったテレビ局様とお近づきになれるチャンスなんてない!と意気込んでいた。
授業では、課題やらなんやらを提出しなければいけないため、連日徹夜でレポートを書いていた。
高校受験の時、大手学習塾に通っていた俺は、全く勉強にやる気が出なかったものの、塾の先生にあれやこれやと乗せられて、県内有数の進学校に入ってしまった。
最初は、周りは頭がいいからちゃんとついていくんだぞ、と先生に脅されていたが、入ってみればピンキリで、俺は真ん中ちょい上の成績を保つ事ができた。
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アルバイトの説明会当日、俺は寝坊した。案の定徹夜が響いていた。まぁ、寝坊しても間に合う程度の計算をしていたので、集合時間には余裕を持って間に合えた。最寄り駅に着いて友人と合流した際、
「西口でいいんだよね?」
「いや、東口だから。しっかりしてよ。」
というやり取りをしたくらいには疲労が溜まっていたが。
まぁ今日は説明会だし、何かする事もないだろうと思っていたので少し油断していた。
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「ではエレベーターの32階の会議室Aにて説明会を行いますのでそちらまでご案内致します。」
テレビ局の方に連れられてエレベーターに乗った。
その時だった。
エレベーターが昇る。
人、ビルが小さくなる。
脳が揺れる。
なんだこの感覚は。
今までにない感覚。
恐怖。恐怖ではある。
確かに俺は高い所は苦手である。が、飛行機とかは人一倍楽しんで乗っていた方の人間だ。
息が出来ない。なんだこれは。
"俺は、死ぬのか…?"
なんて思ったのも束の間、エレベーターは32階に着いた。
「こちらが会議室Aになります。着席して少々お待ちください。」
俺は席に着いた。相変わらず具合が悪かったが、少し酔ったのかなと思い御手洗いを借りた。
戻って席に着いた。具合は相変わらず悪い。
「では説明会を始めます。まずは皆さんの自己紹介からお願いします。一番前の人から順番にお願いします。」
参加者はざっと50人くらい。俺は後ろの方だった。何を言おうかな、と通常なら考えるがその時の俺には全く余裕が無かった。
「すみません。気分が優れないので少し休んでも良いですか?」
気がつくと、そんな言葉を口走っていた。
会議室の隣のソファーで横にならせてもらえた。
「大丈夫?たぶんちょっと酔っちゃったんだね。少し休めばきっと良くなるさ。」
案内してくれたスタッフとは別の、テレビ局のお兄さんが介抱してくれた。
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水を飲んでも、一時間経っても良くならない。むしろ、手脚に力が入らなくなってきた。呼吸もままならない。
「すみません。もう限界です。救急車を呼んでもらえませんか?」
救急車を呼んでもらって30〜40分後、俺は担架にのせられ、非常階段から降り、救急病院に連れられた。
意識ははっきりしていたが、気分は悪かった。
救急病棟では、結石で辛そうな悲鳴、急性アルコール中毒が慢性化しているご老人、それをあしらうナース達の声が聞こえてきた。
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家族に連絡しても誰とも連絡が取れず、数時間してようやく母が迎えに来てくれた。
その間にも俺はその"発作"になんども見舞われた。
あれだけヘビーユースしていたスマホもろくに動かせなかった。
なんとか帰宅し、その日は休んだ。不安に駆られながら。
次の日の朝、俺はまた"発作"に見舞われた。手脚のコントロールが出来ない。息も吸えない。
"俺、死ぬのか…?"
自宅にいたので、家族が救急車を呼んだ。
病院に着く頃には少しマシになっていた。
「俺はどんな病気なんですか?」
担当医に尋ねた。
「どこにも異常は見つからなかったよ。たぶんストレスかなんかだね。海にでも行ってみたら?」
俺には理解し難かった。
ただ、一つだけ理解できた事があった。
「俺は、これから"夢"どころか今までの生活も送れない。」