001
どういうことだ。
これって昔漫画とかで流行ってた異世界転生ってやつ?でも、死ぬようなことなんか何も起こらなかったはずだ。
「もしかして、 何者かによって異世界に召喚されたのかな。」
辺りを見回してみるが当然見たこともないような景色が広がっている。
ここが異世界ならばさっき見たドラゴンみたいにスライムとかの定番モンスターが居てもおかしくないのだけど、運が良いことに周りにはいないみたいだ。
「相変わらず呑気なやつだな。」
ヤミはこっちに来た時と変わらず僕のお腹の上でずっと丸くなったままだ。
「とりあえず、 どこか街を見つけないとな。」
今は運良くスライムがいないがいつ現れてもおかしくない。漫画やゲームのスライムって弱いイメージがあるけど、実際に自分が戦うってなると少し怖い。不要な戦闘を避けるためにも街を一刻も早く見つけないと。
「起きて、 ヤミ。」
僕がヤミのお腹のあたりを優しくさすってやると、ヤミは喉をゴロゴロと鳴らしながら目を開けた。
こいつ、こういうとこが可愛いんだよな。
とりあえずどんな危険が潜んでいるか分からないので自分の肩に乗せて街を探すことにした。
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見つからない。
道沿いに30分ほど歩いたけど、一向に街が見つからない。
こういう転移系って近くに街があるもんじゃないのか。
とんだ欠陥召喚士も居たもんだ、と頭の中で悪口を言ってみる。
まぁ、悪口を言ったところで今の現状が変わる訳でもないけど…
30分も気を張りっぱなしだったのでさすがに疲れてしまい、ちょうど良い木陰を見つけたので少し休憩することにした。
ヤミを膝に下ろしてやりその美しい毛並みをさわさわと撫でてやる。
「可愛いやつだなあ、 お前のおかげで疲れも吹っ飛ぶよ。」
ヤミは撫でてもらえたのがよっぽど嬉しかったのかゴロゴロと喉を鳴らしてすりすりと頭を押し付けてくる。
僕がヤミと戯れているとまた一際強い風がふいた。
「畜生! またドラゴンかよ!」
いや、違う。
鳥のような生物がこちらに近付いてくるが見えた。
その生物は鷹に近いが従来のそれよりもひと周り、いや、ふた周りほど大きいものだった。その生物はヤミを目掛けて飛んでくる。
僕は咄嗟にヤミを庇った。
「異世界でこそ、 普通の生活をお前と謳歌したかったよ。 僕はここで死んでしまうけど、 1人でも強く生きてくれよ。 ヤミ。」
これが最後のお別れになってしまうのか。
召喚されて30分ほどで死んでしまう異世界人なんてありなのか。
こういう時って何かスキルが覚醒しましたって語りかけられるんじゃないのか。
けど、 何も起きなかった。
鋭い爪が僕に迫ってくるのが分かる。
ああ、僕は覚醒する素質もなかったのか。
ヤミ1人も守りきることが出来ないのか。
この目で最期までヤミの成長を見届けたかったな。
死を覚悟し、目を瞑ったその瞬間。
「セイント・セイバー!」
鈴のような声が響いたと思ったら僕のあと数センチの距離に鷹のような生物が落ちてくる。
「ひっ…」
翼、爪、首。 全てをバラバラにされた状態のそれのそれは、血を流す代わりにキラキラとした何かを出していて、やがてそのまま消滅した。
「あ、 ありがとうございます」
声がした方を見ると、そこには美少女がいた。
銀髪でうなじがちょうど見えるくらいの位置に髪をまとめている。
服はいかにも武士!って感じ。
彼女は剣を鞘に戻すと、
「どういたしまして。 君この辺では見ない顔だね。 冒険者?」
と、聞いてきた。
「い、いえ、 信じてもらえるかは分かりませんが、 僕はこの世界にこの子と召喚されてしまったみたいで。」
危ない。 コミュ障をフルに発揮するところだった。ちょっとだけどもっちゃったのは内緒。
「私はセーラ。 君の名前は?」
「セーラさん、 ですか。 僕は拓真です。」
「私の名前を聞いて驚かないなんて… ところで見たことないけどその獣は?」
「猫のヤミです。 僕の命よりも大事です。」
なんか言ってたような気もするがヤミのことを聞かれたので自分でもびっくりするくらいの速度で説明する。
「【ネコ】か。 聞いたことないな。」
どうやらこの世界に猫はいないらしい。ってことはヤミはレア生物ってことか。
「ところでこの辺に街はありませんか?」
当初の目的だった街の場所を聞いてみる。
「山の向こうに最初の街、【ミンシアの街】があるよ。 この辺は危険度Bランクの地帯だから送ってってあげる。」
よくわからないうちにやばいエリアに居たみたいだ。僕は有難く送って貰うことにした。