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友達の証

 まずい。これは非常にまずい。

 北涼高校最初のビッグイベント『宿泊研修』を明日に控えてるというのに、クラスでまともに話せるのは大希と齋藤くんしかいないというこの状況はどう考えてもまずい状況である。

 それに、齋藤くんとの距離感も未だに把握出来ていない。もう少し齋藤くんとも距離を近づけたいのだが、一体どうすればいいのだろうか。不安材料が多すぎるまま明日を迎えるのは恐怖でしかない。どれかひとつでも解決すればいいのだが…


「ねえ、けいた」

「え?あ、齋藤くん」

「明日の準備ってもうした?」

「いや、今日するつもりだけど…」

「ならさ、歯ブラシとか今日の放課後買いに行こうと思ってるんだけど一緒に行かない?」


 チャーーーンス!確実にこれはチャンスである!これをきっかけに齋藤くんとの距離をグググと縮めれば明日からもっと気楽にお話し出来るはずだ。断る理由など微塵もない。


「行く行く! 」

「まじ?やった!」


 ん?待てよ これは二人きりで買い物に行くことになるのか?二人きり…か…。別に悪い訳では無い、が、僕的にはかなり緊張するし、話が弾むという自信が全くない。多分このまま二人きりで行けば逆に変な感じで終わるだろう。そんな未来がはっきりとしている。誰か一緒に行ける人を探さなくては…誰だ…誰がいる…と、迷う必要も無いか。僕が誘えるやつは一人しかいない。大希だ。だが、大希を誘っても齋藤くんは大丈夫なのだろうか。聞いてみるか。


「あの、齋藤くん」

「なに?」

「もう1人誘ってもいい?」

「え、誰?」

「あの、このクラスの加藤大希ってやつなんだけど、中学一緒でさ」

「あー加藤くんか 確かにまだ喋ったことはないな。うん!大丈夫だよ。俺も友達作りたいし」


 よかった。これで大希を誘える。大希は話がうまいから気まずい雰囲気になることはなんとか避けれそうだ。


「じゃあけいた また放課後ね」

「はーい」


 よし、さっそく大希を誘おう。あいつもクラスに必死に馴染もうとしてるから、新しい友達ってことになれば絶対来るだろう。


「大希!」

「お、なに?」

「放課後一緒に買い物行かない?明日の準備で」

「え?俺もう買うもの全部買っちゃったぜ。けいたまだなの?」

「違う違う。僕のでもお前のでもなくてさ」

「は?だれの」

「齋藤くんだよ!齋藤くん!」

「あー けいたが話せるようになったって言ってた」

「そうそう!それでさっき買い物に誘われたんだけどさ、二人っきりは緊張するから一緒に来てくれない?」

「んー、齋藤くんとはまだ話したことないんだけどな…でもちょうどいい機会かもね。いいよ」

「ほんと?まじ助かる ありがとう」


 こうして大希を誘うことが出来た。大希がいるっていうだけで本当に気が楽である。こいつは良い奴だし、話も面白い。こいつに便乗して話をしていれば自然と齋藤くんとも打ち解けられるだろう。ただ、それだけじゃ何かもう1つ踏み込めてない感じもする。なんだろう。何かが足りない。大希にはあって齋藤くんには無いもの…。

 ーーー。

 ーー。

 ー。

 呼び方……。呼び方。そうだ、呼び方だ。『齋藤くん』はさすがに仰々しくないか。いつまでも『齋藤くん』と呼んでていいわけがない。名前か?名前で呼べばいいのか?そういえば、齋藤くんはいつの間に僕のことを『けいた』と呼ぶようになったんだ。自然すぎて全く気づかなかった。どうやったらあれだけ自然に名前呼びすることができるんだ。僕には恥ずかしすぎて到底出来そうにないぞ。でもやるしかないな。今日中になんとか名前で呼ばなくては…。がくと。がくと…。がくと……。がくと………。がっ…………


 放課後まで僕は何回頭の中で齋藤くんを名前で呼ぶ練習をしただろうか。授業の内容など全く頭に入らない。初めての高校の友達との買い物に不安と緊張でいっぱいでそれどころでもなかった。まだ心の整理はついていない。こんなんで今日中に僕は齋藤くんを名前で呼ぶことが出来るのだろうか。だがそんなことをいってられないのも事実。時間はもう来てしまった。齋藤くんが呼んでいる。


「けいた 行こ」

「う、うん そ、そだね」

「加藤くんも今日はよろしく」

「よろしく!」


 緊張しすぎて全然普通に話すことはおろか、目を合わせることも出来ない。そうこうしていると大希と齋藤くんが僕の前を2人で喋りながら歩いていた。初対面なはずなのに、なんか僕よりも仲良さげに話しているように見える。このままではいけない。ここで勇気を出さなくてはずっと齋藤くんと仲良くなんかなれない。いいや齋藤くんだけじゃない。他のクラスメイトとも仲良くなれるはずがない。覚悟を決めよう。ここで、今、この瞬間に男にならないでいつなるんだ。呼ばなければ。齋藤くんの名を。


「あのさ!」


 言え。言うんだ。何回も何回も練習したあの名前を。


「が、がく……がっ 」


 言うぞ。言うぞ。言うぞ。言うぞ。言うぞ。言うぞ。言うぞ。言うぞ。

 がくと。がくと。がくと。がくと。がくと。がくと。


「がく、がっ、が、」


 がくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがくとがく


「が」




「がっきー!!」



「「え?」」


「え、あれ?」


 今、僕は なんて?

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