新しい学校
電車で一駅、バスで30分ほど揺られればこれから通うことになる北涼高校に着く。『夢と希望でいっぱいの高校生活!』と叫びたい衝動がバスをおりた瞬間に襲ってくるが、そんな衝動は住宅街の隙間から覗かせている校舎を見た瞬間にほとんどの人が失われるだろう。
そう この北涼高校 築40年以上は建つ"ボロ校舎"である。なぜ入試前にその辺のことに全く関心を持たなかったのかは不思議だが、いわゆる、後の祭りってことだろう。もう変えることの出来ない現実に目を背けたくなったが実際まだ1日も通ってはないのだ。
「まいったな……」
「ん?けいたなんか言った?」
「いや、あのさ 大希はこの校舎のことについてなんも思わんの?」
「そうだなぁ…………」
「…………」
「うーん…」
ん?なにをそんな考えてるんだ?
「まあ、俺その辺気にしないからよくわかんないや」
あーー、こういうやつだった
変に執着しないというか、無関心というか 、こいつが気にすることといえば学校にいる女子のことぐらいだろうか。そういう奴だ。
悪く思わないで欲しい。そういう奴だ。
僕は別に嫌いではない。そういう奴だから。
「まあ、そういう奴だもんな……」
「あ?次は何?」
「いや、なんでも……行こうぜ」
「うぃ」
バス停からは歩いて3分ぐらいで生徒玄関だ。生徒玄関の掲示板に新入生のクラスの割り当てが貼られてるらしい。知り合いが1人でもいれば気持ちが楽なんだが…
「おい、けいた」
「ん?お前の名前見つけたか?」
「うん、あとけいたの名前も」
「え?何組?」
「俺と同じ1年2組」
「……」
まじか、嬉しいけど 嬉しいけども。なんというかしんどい1年になりそうな気がしてならない。何せ親友ではあるが、同じクラスになったことは1度もない。果たしてあのテンションに耐えきれるんだろうか……?自信は……ない。
指定されたロッカーに外靴をしまい、新しい上靴に履き替える。実は中学と同じデザイン、同じ色なので新鮮味も何も湧いてこない。校舎内も清々しいぐらいのボロボロ具合で気持ちいいぐらいだ。
教室は4階、校舎の中央にある階段を昇ってすぐ目の前に僕達が過ごす1年2組の教室があった。トイレも目の前だ。トイレが近い僕にとってそれはとても嬉しいことである。
教室に入るともう既に新しいクラスメイトが何名か座っていた。黒板に座席表が貼ってある。どうやら出席番号順に座るようだ。
僕の出席番号は18番 3列目の後ろから2番目の席である。なかなかにいい席で満足だ。だが、大希の席は2列目の前から3番目。
正直かなり離れている。僕は友達を作るのは苦手だ。と言うより自分から話すのが大の苦手だ。普段は隠してはいるが、極度の人見知りである。今までは友達の友達という経由で友達を作ってきたから、こうやって放り出されると、どうしたらいいか分からない。
そうやって悩んでるうちに、1人、また1人と新しいクラスメイトが登校してくる。既に話の弾んでる奴らがいたり、いかにもやばそうな見た目の奴がいたり、イケメンがいたり…
大体のクラスメイトが揃った時点でひとつ気づいたことがある。"美女"がいない。これは大きな問題である。1年過ごすメンバーに美女がいないというのは、これからのモチベーションや、行事に対するやる気に大いに影響してくる。というか邪魔になってくる。中学の時に冴えない生活を送っていた時は毎日夢見ていたものだ。『ぐふふ、高校に入ったらぁ 同じクラスになった絶世の美女とあんなことやこんなことをするんだぁ それが高校生なんだなぁ』と。このプランを根底から覆されると僕は今後どうやって生きていけばいいか分からなくなってくる。それほどまでに重要な問題なのだ。
数分後、全員が席についても絶世の美女など現れることは無かった。そして入ってきた我らの担任となる先生は50は超えているだろうおばさんであった。
「お、おわった……」
心の中で僕は泣いた。てか流れていたかもしれない。涙が。
結局新しいクラスメイトとも話すことはなく入学式を終え、明日からの過ごし方についてのホームルームも聞き流し、今後何をモチベーションにして過ごせばいいんだろうと絶望していると、大希が教室の扉の前で手を振っていた。あぁ もう帰る時間らしい。
「大希 お前もう友達できた?」
「いや、全然 。誰とも話してねえよ」
「へえ、お前が」
「なんだよ」
「いや、誰とでもすぐ仲良くなりそうじゃん」
「そんなわけないだろ。前の席は『クリス』とかいうバカでかいやつで、横が阿部っていうイケメンだぞ。話しかけづらいわ」
「あぁいたな クリスとか言うやつ。ハーフなのかな?てか僕周りの人の名前なんか覚えてないわ」
「相変わらずかよ。
「相変わらずだろ。高校入ったからって何も変わった感じはしないわ。むしろ中学より汚い校舎でワンランク下がった感じ。可愛い子もいないしなぁ」
「そ!れ!な!」
やはり大希もそれが気になったようだ。こういう奴だ。
「んじゃ、帰るかぁ。あ、そだ けいたバスの時間わかる?」
「知らねえよ。バス停行けばわかんだろ」
「そだな」
結局 バス停につくと2台のバスが到着していて、どっちに乗ったらいいんだろうと二人であれこれ悩んだ結果 乗ったバスは僕達が望んだ方向には進んでくれなかった。
僕達の高校生活は僕達らしい形で幕を開けたのだった。