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episode 4 4×10

放課後の三十分戦争・番外編

5 minutes duon bay


episode 4

4×10


 ターゲットの数、距離はランダム。スタート時間もランダム。二メートル先に引かれたラインを超えた奴に電解弾。

 パークバッジを起動。「デッドサイレンス」「ストーカー」「スレイトハンド」

 ターゲットが接近する音に耳をすませる……ワイヤーを巻き取る音だけでなく、ターゲットが接近する気配を感じ取れる、そんな気はする。

 クラスの高いパークバッジには、使用者の感覚や動作を向上させる効果があるらしい。

 正直言うと今でも半信半疑なんだが。

 弾倉には、近距離用のバックショット弾が詰まっている。遠距離用にスラッグ弾を使うべきか。

 とどめの電解弾をいつ使うか。弾を惜しんで死んだらシャレにならない。だが景気よく撃って、弾切れで詰むのも困る。

 よく感じて、よく考えるんだ。動き出したら、答え合わせをしている時間はない。

 俺は洗足ハルタカ。ANTAM。ACR馬潟高校小隊のショットガンナー。プラムL4。


 射撃場を出ると、入れ替わりに昭和島と六郷が入ってきた。

 ACR部隊の待機時間はもう終わっているが、その直後にチャーリーチャーリーが出現したので、新田隊長は出撃している。

 姐さんは協会の用事で今日は不在だ。六郷は怪我が治っていないので出撃禁止が解けていない。

 山王は協会の用事で書類仕事だ。サチさんはいったん帰ったが、弁当を持って戻ってくると言っていた。

 なんかじっとしていられない、そんな夜だ。

「よっ、少年。銃変えたの?」

 訓練用の弾を返却しているところで声をかけられた。

 三年の飯田ユウコ先輩。プラムL10。偵察兵だ。それとは別に、イダテンというコードネームを持っている。

 専用の大型バイク、トライチェイサー2015改に乗って、不死兵の出現したエリアに真っ先に駆けつける。

 いつもつなぎを着て詰め所にいる印象だが、実際いつもつなぎを着て、詰め所にいる。

「これは訓練用に借りただけっす。なんて言うか、通常弾を電解弾の使い分けを、もっとちゃんと考えないといけねえなって」

 馬潟駅の戦いでは弾不足に悩まされた。不死兵の銃を使ったりもしたが、ギフテッドが来なければあの場を守り切れなかった。

 それと六郷だ。古いライフルのカットオフレバーを活用して、通常弾と電解弾の使い分けを完璧にこなしている。

 六郷とあの銃がマッチドで、運命的なつながりがあるから、なんだけど、あのくらいうまい手さばきで、あれよりも早く撃てないといけない。

 あの戦いでチャーリーチャーリーに初遭遇して死にかけたのは六郷だが、タイミングが違えばそれは俺だったかもしれない。

 チャーリーチャーリーは昼に出現するかもしれない。姐さんや六郷、リーダーは大丈夫だろう。だが俺は……?

「戦いは変わっていくんだなって……負けられねえッす」

「意外に頭使ってるんだね」意外には余計っす。

「すぐ帰るんでなければ、ドゥオン・ベイでも食べてかない?出かける前に腹ごしらえしとこうと思ってさ」


 ロッカーから部隊のバイク置き場が見える。六郷も免許を取って六郷のバイクも納品されて、一層狭苦しい。

「出かけるってこれからっすか?……てかあれも持っていくんすか?」

 二台の無人バイク、アドンとサムソン。原子炉を積んでいるので、今まで封印されていた。

 だが搭載されている怪力線は、チャーリーチャーリーを倒せる貴重な戦力だ。

「もうすぐ公開されるけど、トライチェイサー2019が警察に採用されるからね。この子らもバッテリー仕様にするってさ」

 殉職者が多発して一時期世界規模で治安が悪化したため、警察の不死兵への積極的な対応は禁止されている。

「関係者は喜んでるよ。警察がPOR任務に復帰できるって。子供を戦わせなくて済むってね」

 不死兵に対し、自衛隊とANTAM、つまり民兵に任せきりの現状を歯がゆく思っているとは聞いている。

「そうなると俺たちはどうなるんすかね」

 未成年者がACR部隊にいるのは、先進国では日本だけらしい。嫌でもニュースは伝わってくる。

「どうもこうも……勉強しなよ勉強。学生の本分だよ?」

 ユウコ先輩は笑っていた。目は真剣だった。

「朝から晩まで詰め所で待機して、いざ仕事となれば被害が拡大中の現場に駆けつけて、人が死んでいますと言うしかできない。おすすめできないね」

 口調は軽い。だけどユウコ先輩が見てきたものが、のしかかってくるようだ。

 親に反対された時や、インストラクターの訓示を受けた時よりも、重い。

 だけど、

「人におすすめできないとして、先輩はどうなんすか。他の何かって、あるんすか?」

 先輩は一瞬、困ったような表情をした。……そして、笑い出した。

「……ない、ねえ。ないから、困るんだよねえ」

 困ったねえ。言いながらユウコ先輩は椅子に腰掛け、カップ麺の蓋を開けた。

「前に進むしかない。その道が、楽しくて、居心地もいいんだよね……そうだ。なんかいい道思いついたら、あたしにも教えてよ」

 ユウコ先輩は油揚げの下から麺を引き出して、油揚げの上に置いた。猫舌なんだと、小さく笑った。

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