episode 1 5×6
放課後の三十分戦争・番外編
5 minutes duon bay
episode 1
5×6
射撃場のブザーが鳴る。四つのマンターゲットがこっちを向く。
距離はランダム。あたしは拳銃を抜いて、一番近くのターゲットに銃弾を撃ち込んだ。
一点に集中して撃ち込まないこと。臓器を完全に破壊しても、すぐに再生するから。
インストラクターはそう教える。だけどこれには、続きがある。
背骨を破壊すること。その方が再生速度が遅く、長時間動きを止められる。
それが、あたしたちの敵。通称NT。
ノスフェラトゥ・トループス……不死兵。
一番左のターゲット。きれいに心臓の付近が撃ち抜かれている。
一撃必殺って感じ。でも不死兵を“止める”には、手数が足りてない。
あたしは拳銃の弾倉を交換して、そいつの腹に撃ち込んでいく。
「ミユ!電解弾!」
ターゲットの前にいる子が一歩後退し、拳銃をしまってカービンを構える。
ヨルゲンなんとかカービン。120年前の単発ライフル。
ウソか本当か、百年以上前にフィリピンで不死兵を倒したいわく付きの銃
、らしい。
ミユが装填するのは電解弾。EMPグレネードの銃弾版だ。
理屈とかはとにかく、EMPグレネードを放ってやって、致命的なダメージを与えれは、不死兵を倒すことができる。
つまり電解弾を頭に撃てば、一発で不死兵を倒せる。
その代わり効果範囲は狭く、威力も低い。弾芯の部分を見せてもらったけど、針だよ針!?
世界びっくりニュースで、鉄筋が頭に刺さっても死ななかった人とかいるよ?
だがそれを、この距離に対応したスピードで、
ばしん。
顔の中央、頭の中心、脳幹に撃ち込んでいく。一発二千円を、無駄にしない。
それがあの子の仕事だ。
特別な銃と特別な弾を任された、マークスマン(選抜射手)。ブラムL6……六郷ミユ。
一方あたしの仕事は、弾をばらまいて不死兵の頭を下げさせること。
不死兵に銃弾は効かない。だからといって平然と頭を出してくるマヌケは、EMPグレネードや電解弾の餌食になる。
ミユが電解弾を頭に撃ち込むまで、あたしが弾幕を張る。マシンガンでも拳銃でも、それは変わらない。
あたしは昭和島コノミ。機関銃手。ブラムL5。
対不死兵武装民兵ANTAMの、東京第四区ACR(武装した市民による対応)部隊、馬潟高校小隊に所属している。
高校生の、武装民兵だ。
「弾切れー。ちょっとひと休みしよっか」
あたしが拳銃の弾倉を置くと、ミユが弾の箱から詰めてくれる。
新入りを使いっ走りにしてるとがじゃないよ?ほらその、手持ちぶさたにしてるからさ。
あたしはあたしで、詰め所に行ってミユの分も一緒に夜食の準備だ。まあカップ麺のデュオン・ベイなんだけどさ。
EMPグレネードや電解弾を使う事もあるから射撃場に電子レンジは持ち込めない。もちろん火気厳禁だ。
「カップ麺食べる?」
ミユは黙々と弾倉に弾をこめている。こっちを見ると、少し考えて、うなずいた。
デュオン・ベイは他のカップ麺と比べて、お湯を入れてから五分も待たなきゃいけないのが欠点だ。
あたしは自分用の弾倉を手に取ると、リーダー愛用のクイックローダーを装着して弾をこめることにした。
「遅くまでここにいるならさ、買い置きのドゥオン・ベイならいくらでもあるから食べてっていいよ」
本当ですか、という顔でミユがこっちを見る。というか口に出している。
無愛想だがリアクションは素直だ。バカ正直と言ってもいい。
「あー、タダだからって持って帰んなよ。あんた毎食コンビニ弁当って話じゃん。そんなんじゃ体壊すよ?」
残念そうな顔。素直なリアクション。ちょっとかわいい。
ミユは小学生のころ母親と妹を不死兵に殺されて、それ以来父親と二人暮らしだったという。
DVとかネグレクトとか言うじゃん?そういうの心配してるんだけど、そういうのはないっぼい。
その代わり二人して家に引きこもって、セルフネグレクトってやつ?何もしたくない、緩慢な自殺ってやつ。
不死兵に家族を殺されてANTAMに、ってのはよくある話というけど、そういう子に実際会うのは正直あたしも初めてだ。
ミユには副隊長のナオ先輩がついててくれてるけどさ、ナオ先輩が卒業したらあたしらがこの子と組むんだし、個人的にも放っておけないよ。
「ごはんなんて無洗米買って水入れてスイッチ入れりゃ炊けるんだから。ACR任務の待機時間か終わる頃にはスーパーの見切りが始まってるって寸法よ」
ムセンマイ?きょとんとしている。そこからかよ。
「……ねえミユ、なんだかんだであたしも心配してんだよ?あたしが言うのもなんなんだけど、なんて言うか、“選ばれた”子たちって、なんか抜けてるって言うか、欠けてる気がしてさ」
それを補って余りある物がある。だからミユは“選ばれた”。
なんだろうけど。
「できることが増えれば、誰かにやってもらわなくって済むって事じゃん。お父さんとか、カウンセラーの人とか、例えばナオ先輩とかさ」
あたしの分の弾倉は、弾を詰め終わった。ミユは色々考えているのだろう、手が遅い。
「ミユの世話をしなくていい分、そういう人たちが楽できるんだよ。お父さんにごはんの炊き方、教えてやんなよ」
「そうすれば……父も……」ミユの手が止まった。考えてる。
ぱちん。
弾倉に弾がはまる。
「暗闇から抜け出せる。なくした奥さんや人生の、替わりをみつけられるかもね」
ミユがあたしを見る。なんでわかったんですかって顔をして。
「口に出して言ってたから。聞こえてたよミユ」
とたんに顔が真っ赤になる。素直なリアクションだ。
つまり自分でちゃんと答えを見つけた。安心したよ。
「できたよミユ。ちゃんとごはんを作ろうって話の締めが、ドゥオン・ベイって言うのもしまらない話だけどさ」
蓋をはがせば湯気が立ちこめる。だしの香り、ふわふわのおあげ。
しまらないけど、銃の硝煙よりは、なんぼかマシな、暖かさ。