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料理できる男子は果たして本当にモテるのか?

「よろしくお願いします」


「頼みましたわよ」


 僕たちは六条家の使用人である女の子に背負っていた本体を預けて、辞去した。


「でも、ごめんね。葵が居ないと紫ちゃんが寂しがるから」


「えぇ、構いません。私が言い出した事ですから」


 六条さんには今夜は藤壺家に泊まってもらう事にした。紫ちゃんは根っからのお姉ちゃんっ子だし、不安がる姿は見たくないので無理言ってしまったのだ。


「でも、どうしましょう。先輩はまだ眠っていますし……」


「それは多分大丈夫。葵はいい加減だけど、紫ちゃんをとても大切にしているから。家に着いたら自然に起きるよ」


「では、家に着いたら先輩と交換ですか?」


 六条さんが葵の瞳を通してじっとこちらを見つめてくる。


 確かに六条さんとしては不本意かもしれない。僕の勘違いでなければ彼女は僕と少しでも近づくために葵の体を借りたのだから。


「うぅん、多分そのままでもいいんじゃないかな?」


 結局、そう答えることにした。葵も多分そう答えたと思うから。


「えっ!? それは……私が先輩の声で頼んだからですか?」


 あ、そういう風に取られてしまったか。六条さんは少し葵に対して劣等感のようなものを抱いているのかも知れない。それを持ち続けるのは彼女にとってマイナスだ。なら、それを取り除いてあげなければいけない。


「違うよ。他にちゃんと理由があるんだ」


「理由ですか?」


 きょとんと首をかしげる六条さん。まあ、彼女には理由は思いつかないだろう。僕もこの事を話すのには少し抵抗がある。何しろあまり普通の事ではないし、場合によっては忌み嫌われる原因にもなり得るから。でも、きっと彼女なら受け入れてくれる。


「いいかな、葵」


『いいんじゃない? 宮須(みやす)ちゃんなら大丈夫でしょ』


 僕が問いかけると、対面から葵の声が返ってくる。やっぱりもう起きていたか。


「えっ、えぇ!?」


 六条さんは自分の口が勝手に動いたのを驚いているが、とりあえず葵の了解が取れたので気にせず話を続けることにする。


「実はね、六条さん。紫ちゃんは人より霊感があるんだ」


「れ、霊感ですか?」


「そう。だから多分六条さんが葵の体に入っていても、直ぐに分かると思うんだ」


「そ、そうですか」


『まあ、なんとかなるでしょう。紫は賢い子だし、私は好きな時に喋るわよ』


 葵は相変わらずフリーダムに喋り続ける。ま、そういうやつだしね。


「だから、六条さんは気にする必要はあんまり無いんだ。友達の家に遊びに行く感じでね。僕も今日は藤壺家にお邪魔する予定だしさ」


「わ、わかりました」


 よし、これでいいかな。


 今夜は家にはお袋が居るだろうし、藤壺家の夕食で腕を振るうとしますか! 頭の中で今晩のメニューを考えつつ、三人で奇妙な会話を繰り広げて僕達は岐路についた。


『ただいまー』


「紫ちゃん、今帰ったよー!」


「あの、お、お邪魔いたします……」


 二人分の体で三様の言葉を発しつつ、藤壺家の玄関をくぐった。


 すると、その声に答える様に奥のリビングからたったったと可愛らしい足音が響いてくる。段々それが近づいてきて、やがて小さな妖精が目の前に現れた。


「あ、お兄ちゃん、お姉ちゃん、お帰りですー……?」


 紫ちゃんは僕たちの目の前まで来ると足を止め、不思議そうな顔で葵の顔を見つめた。


「お客様ですかー?」


 流石というか、紫ちゃんは一発で六条さんの存在を見破った。別に特段アニメみたいな目に見えて『不思議な力使っています』という感じはしない。その愛らしい瞳をクリックリッと動かしているだけだ。


「は、初めまして。私、源くんのクラスメイトの六条 宮須ともうすぃましゅ」


 六条さんは慌ててすごく噛んでいた。何やら今日は色んな彼女の姿を見られる日だ。対して紫ちゃんはしばらく考え込んでいたが、やがてぺこりと頭を下げた。


「ふじつぼ ゆかりです。小学四年生十歳です」


「こ、これはご丁寧に」


「いえいえ」


「いえいえいえ」


 二人はお互いに相手より深く頭を下げようと、どんどん謙虚になっていく。ちょっと面白い。


『二人とも硬すぎ~。もっと気楽に行こうよ~』


 葵はいつも通りだった。こいつはもう少し謙虚でもいいと思う。


「葵じゃないけど、もっと楽に行こう。六条さんも、紫ちゃんも」


「そ、そうですわね」


「お兄ちゃんのお友達なら、ゆかりにとってもお友達ですー」


 僕の言葉で二人はやっと力を抜いてくれた。うんうん、物事は何事も楽しくなくちゃね。


「みんな何か晩御飯の希望あるかな?」


 冷蔵庫の中身を確認しつつ、出来るだけ要望に答えたメニューにしようと考える。


『私はね~光の活け作り~』


「出されたら本当に食うんだろうな!?」


「冗談じゃない~。じゃあ源シェフの気まぐれディナーで」


 要するになんでもいいということか。


「わ、私もなんでも構いません」


 そう言いつつも六条さんは遠慮してるんだろうなー。なんか家が陰陽師(?)らしいから和食とかがいいんだろうかと考えてしまう。


「紫ちゃんは何がいい?」


「んっと、えっと……ぐらたんがいいです」


「グラタンだね」


 バター、小麦粉、牛乳があるからソースはオーケー。後はマカロニと玉葱(たまねぎ)、鶏肉……待てよ、グラタン皿四つもあったかな? 家から持ってくるか。


「じゃあ、今から作るから三人は適当に遊んでいいよー」


「でも、何もしないのは悪いですわ」


「六条さんはお客さんだからいいんだよ」


『そうそう。それに光って結構料理上手だよ?』


「わ、わかりました」


 そう言って六条さんは納得してくれた。それにしても葵め、無駄にハードルあげやがって。これでは本気を出さないといけないではないか。まあ、紫ちゃんに食べさせるものはいつでも本気だから別に関係ないのだけれど。


 僕のお手製グラタンはなかなか好評だった。葵の評価はやけに辛口だったが、食べるだけならなんとでも言える。紫ちゃんは相変わらず、六条さんは意外にも美味しそうに食べてくれた。普段はもっと良い物食べてそうなんだけどな、彼女。


 食後、こういう時には定番のトランプゲームでしばらく遊びに興じた。紫ちゃんがいたので七並べとか神経衰弱とかルールが簡単なものばかりだったが、女性陣の緻密な連携で僕は完膚なきまでに叩きのめされた。


 お風呂は女性陣が(実質二人だから)一緒に入り、僕は自宅の風呂へと派遣。別に紫ちゃんが入ったお湯を飲もうとは思っていなかったのに。


 そして、楽しい時間というのは何故か早く過ぎてしまう。もう時刻は短針と長針が重なり合う日付境界線の時間となっていた。


「そろそろ寝よっか?」


 室内で起きているのはいつの間にか僕と六条さんだけだ。


「紫さんの寝顔、可愛らしいですわね」


 六条さんは僕の膝を枕にして寝ている紫ちゃんを見て顔をほころばせている。うんうん、この可愛さは女性にも通じるところがあるんだなぁ。


『すぅ……う、うぅん……すぅ』


 葵も六条さんの中でぐっすり眠っている。相変わらず寝つきが良い姉妹だ。


「僕たちもそろそろ休もうか」


「えぇ……え、へぇあ!?」


 僕の言葉に六条さんが異常な反応を見せる。そういえば、彼女は常日頃から僕が藤壺家で寝泊まりしているのを知らなかった。そう考えるとこの反応は妥当だろう。


「み、みみみ源くんもここに泊まりますの!?」


「うん。でも、心配しないで。僕は一階で寝るからさ」


「でも、布団はどうしますの?」


「たまに泊る時があるからね、寝袋用意してるんだ」


「そう、ですか……」


 納得したような、していないような微妙な反応。


「どうかした?」


「……」


 うぅん、黙られると困ってしまう。多分、優しい六条さんのことだから僕を寝袋で寝かせるのは忍びないと思っているんだろう。でも、こればっかりは譲れないんだよなぁ。


 だから聞き逃す所だった。僕にとってはあまりにあり得ない。六条さんにとってはあまりに勇気のいる一言に。


「あの……一緒に寝ませんか?」

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