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天使のような悪魔の笑顔(幼なじみ[姉])

 自転車を配達所に戻して、家に戻る。その頃になると、ようやく空が白み始めていた。


 部屋に戻るといつものように窓を開けに行く。換気と、朝の空気を吸いたい為である。そして、窓を開けるにはカーテンを開けなければならない。


 僕はカーテンを開けた。そして、過ちに気付いた。


 想像して欲しい。よく創作物、特に恋愛系の創作物に良くあることだ。


 家が二つ並んでいる。そしてたまたまその家々には同年代の息子、娘がおり、たまたま双方の窓の位置が奇跡的にも一致していたとしよう。更にオプションとして、大抵娘の方が着替えているという至極どうでもいいサービスがある。


 はっきり言おう。そういう展開は食傷気味だ。


 というか使い古され過ぎて、正直消費者は飽きてきているんだよ! それを生産者は良く理解しなければならない。僕もそんなマンネリに憤りを感じる消費者の一人である。

 

 まあ、要するにカーテンを開けたら向かいの家の部屋で(あおい)が着替えていたんだ。


 百歩譲ってこういう展開にまだニーズがあったとしよう。でも、目の前にいるのは普通の女ではない。あの葵だ。もう一度言う、あの葵だ。


 一瞬、葵と目が合った。


 普通の女の子ならここで「きゃー○○○さんのエッチー!」と叫ぶところを、事も有ろうに葵はにんまりと歪な笑みを浮かべたのだ。ゲームやアニメの中の悪役ですらもう少し綺麗な笑い方をするぞ、おい。


 そして、もう一つの過ちに気付く。窓の鍵が開いていた。


 不味い! と思った時にはもう遅かった。高速で隣家隣室の窓が開き、そこからにゅっと手が伸びてきてこっちの窓を掴むとそれを開け放った。


「は~い、(ひかる)♪ 今日も早いわね」


 目の前の葵は下着姿を隠そうともせず、にやにやしている。隠せ、馬鹿野郎!


 もちろん僕はとっさに顔を背けたさ。そして自分の浅はかな行動を呪ったよ!


 ちくしょう、こんなラッキースケベいらねぇよ! どうせなら(ゆかり)ちゃんが着替えている時にしろよ、神様の馬鹿野郎! 規制? でもそんなの関係ねぇ!


 だが、僕の顔は敢え無く再び前を向くことになった。葵の馬鹿力で。


「な、何するんだよ!」


「光こそ、何で顔背けるのよ? こういうのって普通、喜ぶんじゃないの?」


「だ、誰が葵のなんて見たがるか!」


「ふーん、じゃあなんで光くんの顔は赤くなってるのかにゃ~?」


 くそっ、赤くなんなよ顔! こんな体たらくだと、一人でえっちなDVD見ながら二十四時間耐久で顔が赤くならないように特訓した意味が無くなるじゃないか!


「え~、そんな事やってたんだ~。正直退くわ~……」


「何故分かった!?」


「だって光、顔に出やすいもん」


「あぁ、正直者な自分が恨めしい!」


「いやぁ、自分で正直者とか言うかな……」


 葵が若干呆れているが、そんなことは構わない。問題なのはこうして日々こいつに知られていく僕の恥ずかしい秘密をいつか紫ちゃんにばらされたら、と言う事だ。


 で、でも大丈夫なはずだ。僕が今まで蝶よ花よと育ててきた紫ちゃんならこの程度の事は許容してくれるはずだし、葵もそこまで覚えているはず……。


「ねぇ、見てあそこのお宅またやってるわよ?」


「本当、毎朝毎朝仲が良いわね~」


「ほら、お嬢さん下着姿じゃない」


「あら、本当。今日はお赤飯炊いておいた方がいいかもね」


 って、既にご近所で有名になってるうううぅぅぅぅーーーー!?


「知らなかったの、光? この近辺じゃ私達、結構有名人よ?」


「だ、誰のせいだと思ってるんだよ!?」


「まあいいじゃない。それより、今夜はお赤飯だよ!」


 お赤飯とかどうでもいいよ! ぶっちゃけ、僕あんまりお赤飯好きじゃないんだよ!


 くそ。もうどうでもいい。


 窓際に置いてあったカーディガンを引っ掴んで、葵の頭に被せる。


「えっ、何これ?」


「いつまで下着姿でいるんだよ。人目を引くし、その……風邪ひくだろうが!」


「あーつまり『葵の肌は、俺だけのもんだぜ!』ってこと?」


「違うよ! 自分に自信持ちすぎだよ!」


「あはは、冗談♪」


「まったく……」


「ありがとね。光のそういう所は私……好きだよ」


「なっ!?」


「ウ・ソ♪ じゃね~」


 ぴしゃりと窓が閉められ、カーテンも閉まった。


 や、やられた……。ちょっとでも可愛いと思った僕が馬鹿だった。


「あ、あんのクソアマーーーー!」


 葵に関わると、僕はどこまでも言葉汚い人間になれるから不思議だ。

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