光源氏計画
小さい女の子は、正義だ。
僕がその結論に至ったのはつい最近の事である。
もっと早く気付けよとか、そんな当たり前の事に今まで気付かなかったのかと言われればそれまでかもしれないが、僕は大きい女の子への希望を捨てきれずにいた。
でも、それももう限界だ。大きい女の子は、怖い。
一応言っておくと僕は決してロリコンではないはずだ。
だって今まで大きい女の子に興味もあったし、もちろん胸には夢が一杯詰まっている方が大好きだ。
でも、やっぱり大きい女の子は、どこか怖い。
昔の偉い人は性善説と言うものを唱えていたそうだ。僕もその説に賛同する者の一人である。
人は生まれた時はとても綺麗だ。赤ちゃんの目なんかまさしくけがれ無き瞳。
でも、人間は成長する度にこの世界に溢れた人、あるいは物に触れて段々と汚れていってしまうのだ。
そうでなければ小さい時に「わたし、大きくなったらひかるくんのおよめさんになる!」って言っていた子が、
『ごめ~ん、手が滑った~』
とか言いながら、背中を押して池に突き落してきたり。
お腹が痛くなってトイレにこもっていたら、
『光~早く出てこないと今度からあだ名はウンコマンよ~!』
とか言ってきたり。
急に思い立ってノートの切れ端に書いてみた格好良い物語を、
『これは痛いよね~。うん、痛すぎる』
とか言って学校の掲示板に張り出したりとかする訳が無い!
今思うと一度は本気で怒っておけば良かったと思う。
それくらい葵の僕に対する仕打ちは酷かった。いくら幼馴染と言えど限度がある。しかも家が隣だから学校でなくともいつも僕はいじられていた。
でも、僕は一度たりとも葵を怒ったりしなかった。
何故かって?
葵の方が一つ年上と言うのが大きかったのかもしれない。
成長してからは感じないが、小さい頃の歳の違いはたった一つでも大きい。
それこそミジンコとクジラ並みの違いだ。
そして、最大の理由は……認めたくはないけど葵は可愛かった。
それこそアニメとかゲームとか、そういう媒体でしか見たことないくらいの可愛さだ。
髪は長くてサラサラ。最近は何を色気づいたのか茶色に染めちゃったけど、それでも十分美しい髪だ。瞳はぱっちり。少女漫画の女の子程ではないが、二重瞼で線がしっかりしておりアイライナー要らず。鼻は高いし、肌も綺麗だし、言葉で挙げれば語りつくせない。
彼女が制服を着て歩いているだけで、擦れ違った人達は僕の統計で性別問わず八十パーセント近く振り返るし、もはやアイドルも顔負けだ。
そんな幼馴染がいる僕は、恐らく人生において勝ち組みなのだろう。そう、勝ち組だったんだ。
『葵の性格が良い』という条件を神様が付けていてくれたなら。
だが、どうやら神様は僕を不憫に思ったらしい。葵の性格を代償にして、僕に素敵なプレゼントをくれた。
「どーしたですか、おにーちゃん?」
さっきから無言で『市立桐壺小学校』と書かれた門の前に立ちつくしていた僕に、まだ舌足らずな声がかかる。いつの間にか授業は終わっていたらしい。チャイムの音と少女の接近に気付けなかった。
視線を落とすと僕よりも三十五センチ程小さい、幼き日の葵に瓜二つの女の子が立っていた。
「お疲れ様、紫ちゃん。じゃあ、帰ろっか」
「うん!」
彼女こそ神様が僕にくれた最大のプレゼント。藤壺 紫ちゃん、小学四年生十歳。
葵の妹にして、僕が密かに立てた『光源氏計画』における将来のお嫁さん候補だ!