3 Lowell's ambition ロウエルの野心
頭初、戦況はあまり芳しくなかった。それでもなお持ちこたえられたのは、リュウタが作戦の指揮をとり、兵たちが善戦をしてくれたからにほかない。
ただそれも時間の問題であった。ロウエル率いるカロ大帝国は、いままでにない戦い方をしてきたのだ。これまでは、馬を使った騎馬戦が得意で、この騎馬隊に前回の大戦では苦戦をしいられた。
ところが今回は騎馬隊の姿はどこにもなく、遠方攻撃が得意な魔法使いと火器を持った歩兵を配置し、徹底的な遠距離戦を行なってきたのだ。
「いったいどこからこんなものをもってきたのだ。」
リュウタがぼやいていると、リュクをつれたリュウキが入ってきた。
「戦況は?」
「よくない。相手は、前回と違って徹底的に遠距離をとって戦ている。こちらが予想していた騎馬隊は一隊も出てこない。」
リュウタは淡々と答えた。
「で。なぜ、子どもをつれて入ってきた。」
怒り気味に聞かれて少しリュウキは戸惑ったが、こちらも淡々と、
「新しい戦力を連れてきた。」
と答えた。
「子どもがか、それなりの理由があるんだろうな。」
「あのジイヤをだまらせた。と言えばわかるか。」
「とりあえずはわかったと言っておく。今は一人でも大きな戦力がほしい。つかえるんだな。」
「使える。それに私に良い考えがある。」
リュウキは、自信ありげにニヤリと笑った。
ロウエルは、本陣で祝杯をあげていた。
「はっはは。ヘイガスの者どもはさぞ驚いていることだろう。」
「殿下、我が軍の活躍により、相手は兵力が15万7千から12万になっております。一方我々は、19万。5千程の兵を失いましたが、我が軍の快勝は火を見るより明らかかと。」
ロウエルはさらに高笑いしながら嬉しそうに杯を飲み上げた。
その時、ロウエルの後ろの方で黒い影が動いた。
「首尾は上々のようだな。」
「お前たち後ろへ下がれ。」
次々と下がっていく中、一人の部下がロウエルを見ると顔がひきついているように見えた。しかしそう言われたのでなにも聞かず、本陣を立ち退くことにした。
「なにもかも、あなたさまのおかげで。」
「わかっていればよい。お前は私の言う通りにしていればいい。必ず勝利をくれてやる。」
「ありがとうございます。」
「ただ相手もばかではない。そろそろ遠距離攻撃に対応してくるころだ。そこを突いて騎馬隊を突入させろ。」
「わかりました。仰せのままに。」
ロウエルがそう言い終わると、黒い影は出てきた時同様に、“ふっ”と消え去った。
「ふぅ」
と、ロウエルが大きなため息をついた。
「(あの方と話をするのは気がつかれる。が、今に見ておれ、ああやって大きな態度をとれるのもいまのうちだけ。ヘイガスさえ落としてしまえば、こっちのものよ。)」
ロウエルは手にしていた杯を一気に飲みほした。
その時、本陣の入口がゆれ、人が入っていた。
「誰だ。人払いをしたはずだが・・・」
「そう言うことでしたか。なぜここが、一番奥にあるとはいえ周りに一人も人がいないのか、理由がわかりました。」
外套で頭をかくした男2人がそこに立っていた。男といつても一人は子どものようであるが。
「そんなことどうでもいい。おまえたちは、敵か味方か。ー体誰なんだ。そもそもどうやって入ってきた。」
ロウエルは気が動転したのか、助けを呼ぶのではなく矢継ぎ早に質問をした。
「まず、敵か味方かと聞かれると敵だと答えねばなりません。そして、誰かと聞かれると・・・」
背の高い男の方が、外套を頭からとると、ロウエルは見たことのある顔にハッとした。
「リュウキと名のればわかってもらえますかな。」
「そんなはずはない。お前はあの城の中にいる・・・」
「そう貴方の中では、私は城の中にいるはず。だが、現実にはここにいる。これは紛れもない事実。おっと誰か助けを呼ぼうとしてもだめですよ。貴方が、助けを呼ぶ前に私の呪文の詠唱が終わってしまいますからね。」
ロウエルは自分の目論みが足元から崩れていくのを、ただその場で立ちつくし感じるしかなかった。