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Last Quest 風を求むもの  作者: 山原喜寛
壱章
4/8

1 The big festival of confusion ! てんやわんやの大祭り!

 神々が作り出したと言われているこの大地。人々は朝夕、神への感謝を忘れない。特に、毎年七の月には、どんな小さな村でも祭りを開き、一年の幸福と豊作を祈る。ましてや都市になると出店が道の両側を埋めつくし、人が残った道を覆い、ものすごい熱気に包まれる。

 ヘイガス賢国中央大陸首長国、大陸で一番大きいこの首都の街も明後日に迫った祭りの用意のため活気づいていた。その町の中心、大陸一堅固で美しいと言われている城、この城に祭りよりすごい大事がおきようとしていた。


「いてて、なんだよ。リュウタ、人がせっかくいい気持ちで本を読んでたのに。」

 リュウタは父のリュウキを引っ張りながら長い廊下を歩いていた。

「なんだはないだろ。それに本を読んでたんじゃなく、本を枕に寝てたんじゃなかったっけ。」

 リュウキはリュウタに(えり)を引っ張られながら考えた。

「……確かに、そうとも言う。んで、用って。」

「なんか知らないがジイヤが呼んでこいって。」

 扉の前に来てリュウタが止まった。

「ほら、早く立てよ。一王家の主がそんな格好じゃ恥ずかしいだろう。」

 リュウキは素早く立ち上がり、衣服の乱れを整えてから扉の前に立った。

「開けるよ。」

 リュウキが軽く頷くとリュウタが扉を開け先ず入った。リュウキも続いて中に入る。

「リュウキ様、少し遅うございますジャよ。」

 謁見の間にはジイヤと十人ほどの衛兵、そして見知らぬ子どもが二人いた。

「すまん、つい読書に熱中してしまってな。」

 リュウタが横から冷ややかな目線を送っているが、あえてそれを無視し、

「ところで用とは。」

 用意された椅子に腰をかけリュウキは問うた。

「はいですジャ。実は、この子どものことで、」

 リュウキはジイヤの話を聞きながらふと二人連れの子ども、特に男の子の方に目をやった。

「ほう、君、名前は。」

 急に名前を聞かれリュクは戸惑った。いつの間にか知らない場所に出て、あれよあれよという間にここに連れてこられたのだ。隣にいるキリアなどは緊張で身体を強ばらせている。

「君、名前は。」

 もう一度リュウキが優しく尋ねた。

「リュ、リュクです。」

 リュクは怖がって黙っている訳にもいかず、勇気を出して答えた。

「ほう!リュ、リュク?……ジイヤこの子らがどうした。」

 (予想違いか、このごろすべての男の子があいつに見えてくる。)リュウキは期待してた事が外れ少々がっかりしたが、ジイヤに話の続きを聞いた。

「この子らが申しますには、洞窟に入ると大きな扉があり、その扉に触れると急にここに出たと。」

「門!門と言うと、あの契約の門か。」

「多分そのようで。」

 声をこばらせたいたリュウキをなだめるよう、ジイヤはゆっくりと頷いた。

「しかしあの門は……」

「リュウキ様。」

 リュウキの声をかき消すように兵士が一人、中に入ってきた。

「何事ジャ。謁見中ジャぞ。」

 兵士はジイヤに一礼し後を続けた。

「西より敵襲、数およそ二十万。あと後、四時間ほどでここに到着の模様。」

「わかった!ジイヤ、謁見(えっけん)は一時中断する!後の指揮は作戦室で!」

 リュウキはそう言い残し部屋から急ぎ出ていった。リュウタも後に続く。

 リュクは何がどうなってるのかさっぱりわからなくなっていた。

「(こんなことなら家でいれば良かった。)」

 そう思い、ふとキリアはどうしているかと思い目をやった。

「リュク、どうなってるの?」

 彼女はこの場にきて初めて声を口にした。しかしその言葉は弱々しくおび脅えの色が色濃く出ていた。

「わからないよ。」

 話をしている間にも兵士達が忙しそうに走り回っていた。

「これからどうなるのかな?」

「わからないよ。」

「私たちどうすればいい?」

「わからないよ。」

「ここにいてもいいのかな?」

「わからないよ。」

 何を聞いても同じ返事を返すリュクに脅えていたキリアもだんだん顔色を変えていった。

「リュク!どうしてあなたはそうなの!!いつでもそう。この前のときだって……」

「あの、お取り込み中すいませんジャけど、ここにおられると危ないので付いてきてほしいのジャけど。」

「なに!!」

 キリアはジイヤをキッと(にら)み付けるのであわてて、

「キ、キリア。こ、ここにいるとじゃ、邪魔だって、あの人が……」

 リュクがそう横から小さく口をはさむ。

「なによ!」

 彼女は知らぬ間に立っていた男の方を見、

「あっ、な、なにか用ですか……」

 今までの強気はどこへやら急に声が小さくなった。

「えぇ。」

 少し逃げ腰だがジイヤが答える。

「ここにおられると危ないので付いてきてほしいのジャと。」

「わ、わかりました。」

 リュクは額の汗を手の甲で拭いながら考えていた。

「(契約の門?僕が触ったあの大きい扉のことだよね。しかしどうしてあれを触るとここにくるんだ)」

「リュク、行きましょうか。」

「う、うん。」

 曖昧(あいまい)な返事を返しリュクは後に続いた。

「気をつけてくだされ。いつ砲撃がくるともわかりませんジャからな。」


 いくつかの角を曲がり、あるいは階段を降り、ある部屋の前に着いたのはそれから5分後だった。

「ここですジャ。」

「ここですじゃって…」

 つれてこられたところは薄暗く部屋に本が山と積んである、いってみれば図書室と呼ばれるような部屋だった。

「何をしていますジャ。早く中へ。」

 驚きで目を丸くしていた二人に部屋の中から声が聞こえた。

「ほらリュク、呼んでいるわよ。」

「わかってるよ。」

 地下にあるはずなのに日の光がどこからともなく差込み、部屋は思っていたより暗くなかった。

「……どうすればこれだけ集められるのかしら。」

 キリアがそう言うのも無理はない。どこを見ても一面本棚のその部屋は、1万人は軽く入るかと思うような大きさである。

「ここですジャ。」

 そう言うとジイヤは大きな本棚を押し始めた。

「何してるんだろうね。」

 リュクがキリアに尋ねている間に、本棚はゆっくりと後ろに下がっていき、人が通れるほどの空間ができた。

「こちらですジャ。」

 ジイヤは一人中へと入っていった。

「行くしかないようね。」

 仕方なく彼女達は中へと入っていくことにした。

 本棚と壁の狭い空間を抜けと、一面真っ白の空間に出た。

「何をする部屋なんだろう。」

 あたりを見まわしても白い壁のみ、光がどこから来ているのかさえわからない。

「こんな所じゃ何もできないわよ。」

 50人程入れる空間だったが、そこには何もなかった。

「そうだよね。」

 彼女らが会話をしている間、ジイヤは壁に向かい何かを押した。すると音もなく前の壁が開いたではないか。

「なっ、なんだ。」

 リュクとキリアは驚き目を丸くしている。

「何してるのですジャか。早くしませんと敵が来てしまいますジャよ。」

 いそいそとジイヤはその中に入っていった。彼女らも急いで続く。

 中に入ってみるとそこはさっきよりももっと小さい、十人ぐらい入ればいっぱいになるような部屋だった。

「行きますジャよ。」

 ジイヤはまた何かを押すと、壁は開いたときと同じように音を立てず閉まりはじめ、完全に扉がしまると、その部屋はゆっくりと下へと降りていった。

「ねえリュク、なんだかこの部屋落ちてるような気がするんだけど。」

 最初にそのことに気づいたのはキリアだった。

「そうですジャよ。」

「!!そうですじゃよって、落ちたら死んじゃうよ!」

 別に不思議でもないように言ったジイヤに、目を丸くしてリュクは叫んだ。キリアなどは今にも倒れそうだ。

「これはエレベーターと言って、すばやく人や物を上の階や下の階に運んでくれるものですジャ。」

「エレベーター?それって魔法なの。」

 なんとか持ちこたえたキリアが、まだ青い顔を向けてたずねた。

「いいえ、機械ですジャ。」

「機械?」

「魔法は魔力を使って奇跡を起こしますジャ、それと同じように機械は電気を使って動かすものですジャ。」

「電気って?」

「電気とは……着いたようですジャな。」

 落下速度がゆっくりになり、ジイヤの声と同時に扉が開いていった。

「「!!」」

 そこは高台だった。

 そして何より……空があった。

 雲が彼女たちの上を通りすぎていく。

 暖かな日の光が彼らを包んでいる。

 眼下を臨むと、街が日の光に照らされ、遥か彼方には青い海が横たわっていた。

「ここ……どこ?」

「確か下に落ちたんだよね。」

 彼らは顔を見合わせ不思議そうにしていた。

「ようこそ、地下都市ヘイガスシティへ。」

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