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それまで

前世の二人です。性格は全く違います。コメディ風味、短いです。


「平太。あんた、チョコレート嫌いでしょ」


 唐突な発言に、平太は瞬きをした。


「……?なんで?別に好きだけど」

「ふうん」


 

 美麗は興味なさげに視線を前に向けたまま、しばらく黙った。

 平太はそんな美麗に首を傾げていた。

 が、遅れて、もうすぐバレンタインだということに気づく。

 平太がそれを指摘する前に、再び美麗が口を開いた。


「あんたのことだから、どうせ寂しいバレンタインになるでしょ。私が作ってあげる。……それとも、どこか好きなブランドでもあるの?」


 美麗の言葉は失礼かつ上から目線だったが、それに慣れている平太はただ首を傾げるだけだった。


「ブランド?……明◯とかのこと?」

「違うわよ!この私がプレゼントするのよ?最高級のものに決まってるじゃない」

「て言ってもな……チョコのブランドとかよく知らないし……俺は美麗が作ってくれた方が嬉しいけど」


 平太の言葉に、美麗は少し嬉しそうに頬を緩めたが、直ぐに沈んだ顔になる。

 それを見て、平太は彼女が何を考えているのかなんとなく察した。

 平太は美麗と付き合うまで別の女子に片思いしていた。美麗はそれを気にしているのだろう。


 平太は今だ、と思った。照れ臭さが勝って中々言い出せなかったが、もう自分の気持ちは美麗にあるのだと、それを伝えるチャンスだと思った。



「美麗、俺は美麗が作ってくれるチョコレートが食べたい。……俺は……」

「……」


 美麗は平太をちらりと見た。

 少し苦しそうに眉を下げた後、ふんと鼻を鳴らす。


「良いのよ余計な気遣いをしなくても。あなたがそう簡単に違う女に靡くほど浮気な人間(・・・・・)だなんて思ってないわ。せいぜい一途にうじうじと想っていなさいな」


 浮気な人間。

 美麗の言葉の矢が容赦なく平太に刺さった。気持ちがあっさり変わった自分の軽薄さを後ろめたく感じていただけに、美麗の言葉に正に痛いところを突かれた体である。

 平太はなんとか胸に深々と刺さった矢を引き抜いて、表面上は爽やかに笑った。胸から見えない血がどくどくと垂れていたが、もちろん見えないので気にする人はいない。


「あ、ああ……まあな?」


 明らかに声が震えていたが、美麗は気づかなかった。

 自分で言っておいて、あっさり肯定されたことがやはり辛かったのだ。

 完全にブーメランだった。


「……で、アーモンドでいいの」

「ん?アーモンドチョコ?好きだけど……そんなの作れるのか」

「当たり前でしょ。私に出来ないことなんてないわ」


 誇らしげに胸を張る美麗。

 これ以上ないドヤ顔を沈黙で受け止めてから、平太は静かにリクエストした。


「……美麗、ちょっといつものアレやって」

「は?何よ突然……これで良いの?」


 美麗は眉を下げ、潤んだ瞳で小首を傾げて……鼻から下を手のひらで覆った。


「……よし。安心した」

「は!?安心ってなんなの、いきなり人にやらせといて!キュンとしなさいよ!」

「キュンときたキュンときた」


 実際美麗の意図とは違う意味で平太の心の琴線に触れていたが、平太にそれを言うつもりはなかった。定期的に見たくなる癒しである。


 平太の適当すぎる返事に、美麗は照れと怒りでむっとする。

 けれど、頭の隅に大人しくて可愛いあの子の顔が浮かんで、美麗は結局文句を言うのをやめた。



 お互いをちらりと見て、目を逸らす。




(はぁ……好きなのに、上手くいかない……)



 二人が同時にそんなことを思っているなんて、この時の二人には想像もついていなかったのだった。










この反動で、来世ではものすごくいちゃつきます。


これで完結です。お読み頂きありがとうございました!

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