おうじの
へミス視点です。後半はやっぱりいちゃついてます。おまけがあと二話くらいあります。
僕にはどうしても忘れられない記憶がある。
最後の最後まで、一人の少女に一途に愛された記憶だ。
そして、その子に対してしてしまった、重い十字架の記憶。
そんな僕だから、一国の王子なんて立場に生まれても、政略結婚どころか恋愛そのものについて興味なんて持てるはずがなかった。彼女の好いた「俺」と僕はもはや別人で、僕が今でも彼女を好きかといえば首を傾げてしまう。けれど、それでもあの鮮烈な記憶を思い出して仕舞えば、僕を好きだと嘯く婚約者候補たちを冷めた目で見てしまうのも仕方ないと思う。
幸い第三王子。我が兄たちも姉も妹も優秀なので、僕の立場は存外緩い。
その分命を狙われやすくはあるが、それは他の兄妹たちにも言えることだ。
僕は自由気ままに振る舞った。
お陰で、ある程度の年齢になる頃には王宮の大半の人間に諦められていた。唯一幼い頃からのお付きのものが煩いが、まぁ許容範囲内だろう。
国内で過ごすことに飽き、そろそろ諸国漫遊の旅にでも……と思った頃だった。
僕の婚約者候補に、とある少女が加わったのは。
近年、急速に力をつけ始めたある貴族の一人娘。平凡ながら良識ある貴族の一人であった彼が何故、と疑問に思ってはいたが、まさか僕の婚約者候補に娘を推薦できるほど力をつけていたとは。
父が突然乗り気になって彼女を推すのも気にかかる。恐らくは力をつけすぎたかの家の牽制と……僕が国を出ようとしているのを察して留め置こうとしているのか。
面倒さにため息が出る。
とりあえず一度面会だけして、あとはいつものように適当にあしらうか。
そう考え、渋々重い腰を上げたのだった。
そうして対面した婚約者候補、ミファレン・ドレートはとても美しい少女だった。
長く伸ばした黒い髪、透き通るように白い肌。柔らかな印象を与える垂れた瞳に泣きぼくろ。
一見して大人しそうな令嬢といった様子の彼女の瞳の奥には、単に穏やかなだけではあり得ない強かさが宿っていた。
しかし、この位の美しさも強かさも、大抵の貴族の令嬢が持っている。それでも何故か、既視感のようなものを感じ、僕は目の前の彼女をじっと見る。
どうやら彼女は僕の見た目をお好みなようだ。弱々しい表情を取り繕いつつも、うっとりとこちらを見ている。
「……ええと、ドレート嬢?」
苦笑すると、やけに緊張した様子で挨拶される。
僕はそれをなだめつつ、ソファに座るよう促した。
緊張した様子のままぎくしゃくと座る彼女。それが、演技なのか本気なのか判断がつかない。
僕は試してみることにした。
「随分緊張してるなと思って。王子と言っても、王位につくわけでもなし。普通の貴族と変わらないんだから、楽にして良いよ。それに、君は僕の婚約者なんだし」
気さくに振舞ってリラックスさせ、相手の本音を引き出すのは面接の常套手段だ。もちろんこれは面接ではないが、僕は半ば面接官のような気持ちで話しかける。
言った途端、彼女の顔つきが変わった。
「いえ、でも……私など下級貴族ですし、貴方は雲の上の方です。婚約者といっても、候補に辛うじて入っているくらいで……」
やはり、彼女は強かだ。この手には引っかからないらしい。謙虚な様子で控えめに笑う姿は見るものの庇護欲を誘う。実際に身分がそこまで高くはないからこそ、これに騙される者は多いだろう。
自信なさげに眉を下げる様子を見て僕はそう分析し……そして、あやうく素に戻りかけた。
彼女は弱々しい仕草で、口に手を当てた。それは気弱な仕草で想像するような、軽く握った拳を唇に当てるものではない。
思い切り、手のひらで口元を覆っている。
(……!?、、!、!?)
重わず吹き出しかけるのを、すんでのところで抑える。
少し不自然な間は空いたが、なんとか自然に話を続けることができた。
ついで、じわじわと湧き上がるのは喜びだ。
間違いない。彼女は……あの子だ。
そう考えると、先程から感じる既視感にも納得できた。
あの子は、美麗は「俺」の気を引くためにことあるごとに好みのタイプなどを聞いてきた。
ミファレンの長い黒髪も、優しそうな垂れ目も、弱々しい仕草も、全てがあの頃の「俺」の好みのままだ。
美麗は好みを聞いてはその通りにしようとして、つり気味の目をセロテープでとめて下がり気味にさせようとしたり、化粧の仕方を工夫したりと色々頑張っていた覚えがある。
俺は好みのタイプのことよりも、そうやって頑張ってくれる美麗が嬉しくて、あれこれ注文しては楽しんでいた。
そんな俺が一番印象に残っている仕草がある。
テレビや漫画などで気弱な女の子がする仕草、小さな拳を口元に当てて上目遣いになるあれ。美麗がやるとどんな風になるのか気になり、あの仕草が好みなんだよ、とそれとなく美麗に話してみた。
それから数日後、美麗がふっと眉を下げ、上目遣いになったとき、あ、あれが来るなと察した瞬間。
美麗は突然、自分の手のひらで顔の下半分を覆ってしまった。まるで笑うのをこらえているようなポーズに、ただただはてなマークが浮かんでいたが、やがて気づいた。
美麗はあのポーズをやっているつもりだということに。
どこがどうなってそうなったのかは全くわからないが、とにかく美麗は真剣だった。
他の何をやらせても大抵のことをそつなくこなす美麗は、その後何度やってもそのポーズだけは変わらなかった。
俺はそれをされるたび、必死になって笑うのをこらえつつ、可愛いので指摘しないでそのままにしておいたのだ。
懐かしく記憶を探りつつ、会話は彼女の家の事業の方へ向いた。
貴族の娘にしては、やけに仕事内容に詳しい。すらすらと質問に答える様子を見て、なんとなく父親ではなく彼女自身が事業に携わっているのではないかと思った。
面白い。
だとすれば、父の懸念する王宮の脅威も、僕を狙っているのも、彼女ただ一人だ。
美麗の様子を思い出して、僕は笑う。
この子は……ミファレンは、自分の全力を尽くして、僕の隣まで登ってきた。
記憶があるのかはわからない。もしかすると彼女の目的は別にあって、僕は通過点に過ぎないのかもしれない。
それでも、自らの意志で、情熱を持って登り続ける彼女は、とても美しい。
僕の求めていたものは、どこか胸の奥に空いていた穴は、彼女だ。
そうと決まれば、彼女を婚約者とし、あらゆる他の可能性を排除しよう。
勿論、諸国漫遊は中止した。
「まさか……あの殿下が……?ついに国を出ると思われたあの、殿下が……!?婚約者、何者なんだ……」
お付きのものが異様に煩かったが、まぁ許容範囲内だった。
以前の「俺」、平太と、おそらくミファレンの前世の姿である美麗は付き合っていた。
きっかけは、美麗の半ば脅しともとれる発言だった。
平太は始め、クラスメイトのかなり理想のタイプに近い穏やかな女子にほんのり恋心を抱いていた。けれど、その女子には恋人がいて、それに対するもやもやが、かえってほんのりとしていた恋心の輪郭を浮かび上がらせることになっていた。
それなりに切なかったような気もするが、ごく普通にその子の幸せも願っていたから、やはりほんのりした気持ちだったと思う。
そしてそんな平太の気持ちに唯一気づいたのが美麗だった。
「あなた、あの子のこと好きなんでしょう」
クラスメイトでろくに話したことのない美人に突然呼び出された上にそんなことを言い当てられ、平太は混乱していた。
そんな平太の様子に、ツンと顎を上げると、彼女は言ったのだ。
「そのこと、あの子にバラされたくなかったら私と付き合ってよ」
正直、混乱が深まっただけだった。
確かにバラされてあの子を困らせるのは気が進まなかったが、付き合ってというのはどういうことだろう。
彼女は俺のことが好きなのか?いや、好きだとしたら、彼女こそ俺の気持ちがあの子に伝わるのは嫌だろうに。
なんというか、平太の良心だけを頼りにした、心もとない脅しだった。
あまりに変な要求だったので逆に興味が湧いて、平太は頷いた。彼女の本当の狙いを知りたくなったのだ。
けれど、結局のところ本当の狙いなんてなかった。その言葉のまま、彼女は本当に平太と付き合いたかったのだ。
平太の好みを探ろうとあれこれ質問したり、好みに近づこうと頑張ったり、あの子のことで、切なそうな顔になったり。
上から目線で偉そうな言葉とは裏腹に、彼女の行動はどこまでも一途で、平太が彼女に落ちるのにそう時間はかからなかった。
あの子へのほんのりとした気持ちとは比べ物にならないほど、美麗の不器用な愛情は平太の深くまで染み込んだ。
だから、それを知った時には目の前が真っ暗になった。
なんと説明すれば良いのか。
世界のバランスを取る存在、神とか、御霊とか、スピリチュアルでよく分からない不思議な何かが平太に教えたのだ。
教えたという言い方には語弊があるかもしれない。
夢の中で、いつのまにか訳の分からない設定を当然のものとして理解している、あの感覚に近いかもしれない。実際それについて説明しようとするとちょっとズレる、感覚的なもの。
つまり、平太はそう経たないうちに死ぬと。
そして、ここではない世界で第三王子に生まれ変わりそれなりに歴史に名を残すと。
何故平太にそれが知らされたのかはわからない。
ただ、突然もたらされた理不尽な情報と、それが動かせない真実でしかないという感覚に平太は怯えた。
そして、真っ先に考えたのは美麗のことだった。
いつも平太を一番に考えて、愛情に溢れて、脅してまで平太を手に入れようとした美麗。
そんな彼女が平太の死に対してどうなるかなんて、想像したくもなかった。
だから、嫌われようとした。
平太が死ぬまでに、嫌われて振られてしまえばいいと本気でそう思ったのだ。
彼氏に冷めた瞬間だとか、嫌われる男の言動だとか、色々調べて片端から試した。
けれど美麗は盲目過ぎて一周回って平太に詳しかったので、ほぼ全てわざとだとバレていた。その理由が嫌われるためとまでは分かっていなかったようだけど。
こんなに自分のことを見てくれる子は、この子以外にはいない。
そう思い知らされるたびに、嬉しくて苦しくて仕方なかった。
そして追い詰められた平太は、最悪の選択をしてしまったのだ。
『ごめん、俺はお前のこと、好きじゃない。……好きになれない。だから、別れてくれ』
『……もう諦めろよ!俺は……お前のことが嫌いなんだ!』
無理矢理に別れて、酷い言葉を投げつけたあれは、何の解決にもなっていなかった。ただいたずらに美麗を傷つけただけだった。
そんな言葉くらいで、美麗はその愛情を失わなかった。
そして平太は、美麗を傷つけたまま、その目の前であっさりと死んだ。
どうせ美麗の気持ちが変わらないなら、ありったけの愛を叫べば良かった。
溢れるほどに注がれた愛情を、あの不器用で真っ直ぐな子に、最後の最後まで返してあげれば良かった。
もっともっと、大切にしてあげるべきだった。
そんな平太の後悔は、ヘミスになった今でも頭の裏にべったりと張り付いていた。
勿論、平太と僕は見た目も性格も思考回路も全く違う。美麗を今でも愛しているかと問われれば、可哀想に思うけれどそれだけ、という感じだ。そもそも、美麗は平太のものだという意識がある。ただ後悔と、あの愛情を羨ましいと思う価値観が僕の人格形成に若干の影響を与えていると思う。
同じように、ミファレンもあの子と同じようで、やはり違う。あの子にはこんなに上手く演技は出来なかった。僕に対してすら好意を仄めかしながらも外面を取り繕う態度は、もしかすると前世の記憶の影響もあるのかもしれない。
そんなミファレンを甘やかして、その外面を優しく剥がしてやりたいと思うのは、紛れもなく僕自身の気持ちだ。
表面上穏やかに笑いながらもびくびくと警戒しているミファレンに、平太では絶対に言わなかったような甘い言葉を囁くとものすごく良い反応をしてくれるところが最高に楽しい。
この頃になると、ミファレンの前世が美麗であることも、その記憶があることも既に確信していた。
だから少し、浮かれて油断していた。
漫画というたった一言の過去の要素のせいで、ミファレンは全てに気づいてしまったらしい。
多分、平太にあんなことを言われての最後だったから、ミファレンは確実に勘違いしている。自分が恨まれているとか、嫌われているとか。
だから気づかないふりをしていたのに。
ゆっくりと信頼を得ていたのに。
最後の最後で、ミファレンの警戒値を一気に上げてしまった。
どうするか。
美麗のことならば前世の知識から多少は推理できるけれど、ミファレンに関しては未知数だ。なにせ、出会ってからそう経っていない。
遠い昔に挨拶はしたけれど、その時点では何も気づいていなかったからカウントできない。
僕は、今からでも当時に戻って幼いうちから婚約を取り付けてしまいたいと半ば本気で思った。
体調が悪いと言って来なくなってしまったミファレンに、どうしてやろうかとふつふつとした気持ちを持て余していた。
そして、ミファレンが久々に王宮へとやってきた。
その顔を見た時点で不味いなとは思っていた。
思いつめて、いつもの一見柔らかな笑顔がすこし張り詰めている。
何かを企んでいるのは明らかだった。
困惑したように問いかけつつ動向を伺っていると、ミファレンは普通に近づいてきた。
そしてごく自然なしぐさで縄を出し、正面から堂々と手早く僕の両手首を戒めた。
……うん。ミファレン、馬鹿なの?
驚いた。とりあえず縛られてあげたけれど、初めから杜撰すぎる。
それから口を開けるように促された。
この状況で大人しく開ける馬鹿はいないと思う。
黙って見ている僕の前で、ミファレンは眠り薬だという丸薬を取り出し、口に含む。
僕はすぐに意図を察し、ほくそ笑んだ。
一つ分かったことがある。
パニックになったミファレンは、頭は良いはずなのに計画も頭も身体も隙だらけだ。
案の定口づけで僕に丸薬を飲ませようと侵入してきた可愛い舌を、すぐにからめとる。
予期せぬ反撃に驚いて引っ込められた舌から、丸薬がこぼれ落ちた。
この時点で完全に僕の勝利だったが、とりあえず丸薬を舌の裏の下顎の隅に隠して、ミファレンの口の中を探った。
ほら、まだ違う薬を仕込んでいるかもしれないし?
完全に適当な言い訳でしかない考えを心の中で呟きながら、ミファレンを蕩かしていく。
力が抜けたその隙に、腕で輪を作り彼女の身体を通して逆に拘束する。
正直、手首だけの拘束って何の縛りにもなっていないと思う。ちなみに、命を狙われやすい僕は縄抜けは得意だ。
それからゆっくりとソファに押し倒した。
完全に混乱しているらしいミファレンを十分に味わって、僕はとりあえず口を離す。ついでに丸薬を吐き捨てた。
「……さて、説明してくれるね?」
にっこり笑って促すと、混乱の極みに至っていたらしいミファレンが泣き出してしまった。
可愛いけど、そんなに可愛い泣き方をされて離れたくないみたいなことを言われると、色々と困る。
口づけで若干艶めいて赤くなってる唇にもう一度噛み付きたくなるのをこらえ、なんとか話を聞くことができた。
杜撰な計画の割に、準備はしっかりしていたらしい。
少なくとも後処理の方は完璧そうだ。
なんならそのまま監禁されても良かったかもしれないと思いかけて、それだと誤解は解けないままだと思い直した。
僕は、自分がかつて平太であったことを明かした。
そしてやはり、ミファレンは美麗だった。
息を詰めて怯えるミファレンに、苦しくなる。
平太は美麗をここまで傷つけた。そんな必要なかったのに。もっと上手いやり方もあっただろうに。
後悔をそのまま、ミファレンに伝える。より伝わりやすいように、僕はあえて平太として喋った。
僕の必死な様子が伝わったのか、ミファレンはゆっくりと落ち着いていった。
何をしても、平太が死ぬことが決まっている限り美麗が死ぬことは決まっていた。
そんな、どこまでも美麗で、どこまでもミファレンらしい言葉に、僕も平太もやっと救われたのかもしれない。
嫌われていないと知って嬉しそうに僕の手に頬をすり寄せるミファレンが愛おしい。
「好きなんです。愛しているんです、ヘミス様。初めて貴方が私の誕生日を祝ってくれた、あの日から」
ミファレンが言ったそのきっかけが、平太ではなく僕に対してのものだったことにこの上ない喜びを覚えた。……そこまでは、良かった。
「私は貴方の思うような女ではありません。大人しくもないし、頭も良くありません。ただ貴方のことが好きで、私の生涯を通して、貴方を裏切ることはないということだけは誓えます。だから、私と結婚してください。どうか、他の人を選ばないで」
あんなに必死で伝えた愛が、まだ信じられていない。それは間違いなく平太のせいで、自分の前世ながら切り刻みたくなった。
僕を生涯裏切らないだなんて、最高の口説き文句を言いながら、切なそうに目を細める彼女が、この時ばかりは憎らしい。
彼女は平太への執着を自覚していた。
ずっと一方通行だと思い込んでいた。
平太は最後の最後で間違えて、それが決定的になった。
だから仕方ないことだ。彼女が自信を失うのも無理はない。けれど……この可愛い一途で盲目な恋人に思い知らせてやりたくなった。
自分の前世に嫉妬してしまうほど、僕がミファレンに執着しているということを。
ーーー
というわけで、僕の可愛い婚約者は徹底的に思い知らされることになった結果、僕の膝の上で目一杯甘えている。
「ミファ、お菓子はいる?」
「ほしいです!」
穏やかな外面を捨て去ったミファレンが、元気に返事をする。
「ほら、口開けて」
「くふ、ふへへへへ」
とてもデレっとしている。貴族女性としてはアウトな笑い方だけど、可愛いので僕の前だけならば全く問題ない。
ぱく、と僕が差し出したクッキーをくわえ、さらにふやけた笑顔になる。
普段僕の婚約者として気を張っているあの姿からは想像もつかないような笑顔だ。
そして思い切り僕に抱きついて頬ずりする。
「……いー匂い……幸せ……ずっとこうやってぎゅうってしたかったんです……」
「ふ、いつでもこうしてもらって良いんだよ?」
「えへへぇ…………ね、ヘミス様」
「なんだい?」
ふとミファレンがその垂れ目を開いて、じっと見つめてきた。
「ヘミス様は、いつから私が演技してたこと……というか、美麗だってことに気づいたんですか?」
「あー……」
そういえば、教えてなかったか。
直されると勿体ないかなと思って言っていなかったが、まぁ仕方ない。
僕の楽しみよりミファレンからの信用の方が大事だということは、身に染みて知っている。
「ミファ、あれやってみて?」
「あれ?」
「平太が好きだったポーズ」
ミファレンはきょとんとしながら、そろりとその口を覆った。
く……!やっぱり可愛い。なぜ気づいてないのか不思議な点も含めて可愛い。
僕はかなり惜しく思いながら、指摘した。
「それね……黙ってたけど、だいぶ違う」
「えっ」
「……ミファはこのポーズを見てどう思う?」
ミファレンと同じように、口元を手で覆ってみる。
「…………避難訓練?」
「ぶはっ!?」
たしかに!前世を知ってるからこその内輪ネタを持ってこられてしまった。妙にツボに入ってしまった。なんとか呼吸を整える。
「く、くくく……っはー……ミファ、今そのポーズしてる」
「!?」
ばっと口元から手を離し、まじまじとその手を見るミファレン。
「え?ええ、だ、だって……こう、小首を傾げて、弱々しげに、上目遣いで、肩を縮めて……口元に、手を当てる!」
ばーんと手のひらで口を覆うミファレン。
「……多分ね、その手が開いてるのが問題かな。軽く握ってみて」
口に手を当てたまま軽く握るミファレン。
なんだかエアマイクでもしてるみたいだ。某グラサン司会者のモノ真似をするときにお馴染みのやつ。……ミファレンの発言のせいで前世的な発想に引きずられている。
「うーん、もう少し下……で、右……もっと拳の内側を顎に当てる感じで傾けて…………うん、そんな感じ」
少しぎこちないが、なんとか完成した。
ミファレンは元の手の形との違いに呆然としている。
「……!」
そして、きっと僕を見た。
「なんで……!教えてくれなかったんですか……!」
その顔は真っ赤で、瞳も潤んでいる。恥ずかしいらしい。
「可愛かったからね」
「……!なんでも可愛いと言えば済むと思わないでください……!」
そう言いつつ動揺しているけど。
拗ねて膨らみかけている頬をむにむにと弄る。
「く……腹黒王子め……!」
「腹黒姫には言われたくないな」
くすくすと笑うと、ミファレンは本格的に拗ねた。
「ごめんごめん、拗ねないで。馬鹿にして言わなかったわけじゃないから。おかげで僕も君に気づけたんだし、ね?」
「…………爽やかさが足りなくなってる……」
「……」
流石にその一言は頂けないな。
「ミファレン、もう一度思い知らされたいの?僕と平太を比べるなんて、良い度胸してるね」
「ヘミス様こそ。私がそう簡単に脅しに屈するタマだとお思いですか?」
「……ふふ、思わないけど。屈させてみたいとは思うね」
「ドS王子……!」
ギリィと歯をくいしばる負けず嫌いなこの子が愛しい。
この表情を見ていると、美麗とミファレンは違うと思ってはいても、美麗には無理をさせていたんだなと思う。
言動は上から目線だったけれど、確実に彼女は平太に遠慮していた。
「……僕はミファにありのままでいて欲しいだけだよ」
「……」
そっと囁くと、ミファレンは僕を睨んでいたその顔を僕の胸に埋めて、小さくこくりと頷いた。
「あと平太はそんなに爽やかじゃなかったと思う」
美麗の仕草に関しては完全に今の僕と同じ思考回路だったし。
そう付け足すと、彼女は
「やきもち王子……」
と小さく呟いた。
さっきと違って、どこか嬉しそうな響きがあったように感じるのは、気のせいだろうか。