98 YES! バトラーズ・エンジェル
ねぇ、皆元気?
モブのヴィランから舞台のスターに駆け上がったローズは、今、空元気。
よくない事があったんだけど、いい事もあったから半々な気分。よくない事は後で説明すると思うから、いい事の方を教えるね。いい事って言うのは、好きな人に「告白」するチャンスをもらえた事。その奇跡の舞台に選ばれたのは、眠らない都市ニューヨーク。この街はローズにとって住み慣れた思い出の場所なんだ。でね、この街に来た理由なんだけど、友達が恋愛相談にのってくれる事になったからなの。でもまぁ、半ば家出状態だから実家には戻れない。だからホテルを借りて一泊したの。
「ふわぁ、よく寝たなぁ」
ローズはベットの上で腕を上げ体を伸ばして大あくび。
寝起きのローズはワンサイズの大きいYシャツをだらしなく着こなして、目を擦って起き上がったの。これは通常運転。気が楽なのが一番ってわけ。でもね、このままではいられない。これから乙女度を磨かなくっちゃいけないの。
恋愛相談。恋の悩み。ローズの好きな相手はカーネーション。小さい頃から一緒にいて、何時の間にか「好き」という気持ちが膨れ上がったの。もしかしたら恋愛感情ではないのかもしれないけど、それを確かめる為にも、告白は必要なのね。
そんな意気込みで燃えるローズに、水が差したの。備え付けのテーブルの上に置かれた、故障中のヘッドマシーンが視界に入ったわけ。
「もうっ、本当にユキ君って乱暴なんだから、ぷんぷん!」
ローズとユキ君は犬猿の仲。
プロレスごっこの途中で、ユキ君がローズの大事なヘッドマシーンを壊しちゃったの。それでローズは落ち込んじゃたんだけど、今は友達との約束の方が大事だから、ヘッドマシーンの事は忘れなくっちゃね。
「ヘッドちゃんは、今度修理に出すから今は大人しくしててね」
ヘッドマシーンが壊れてるってことは、ローズは現在すっぴん状態。髪はボサボサで寝癖がボンバー。チャームポイントの三つ編みは、カーネーションがいつも編んでくれてたから、今日は自分でお手入れしなくっちゃね。
ちなみにローズの友達の名前はパステルって言うの。
昔はアイドルを目指していたみたいだけど、挫折しちゃったみたい。そろそろ電話をかけてくるかも。早く支度をしなくっちゃね。シャワーを浴びて、ブロンドの髪を乾かして、洋服はシャツとデニムを合わせて完了。一通りの支度が終わったら、グットなタイミングでスマホのコールが鳴りだしたの。薔薇が激しく巻きつくようなBGM。「ベルばら」のテーマソングね。
「もしもし? おはようパステル! 今支度が終わったトコ。ゴメンね、今日付き合わせちゃって」
『友達の為だもん。当然だよっ!』
本当にパステルって純粋な子。
ユキ君とは相棒関係らしいけど、どういう間柄なんだろう。
気になって夜も眠れない。
『ねぇねぇローズ聞いて』
「なぁーに?」
『ローズの恋の悩みなんだけど……私のメンバーにも手伝ってもらった方がいいと思って』
「えぇー恥ずかしいよー。顔面がパトカーのサイレンだよー」
『落ち着いて聞いて……私……バトラーズ・エンジェルなの』
「えっ!? パステルって、あの有名なバトラーズ・エンジェルなの!?」
説明しよう。
バトラーズ・エンジェルとは、テュルー・バトラー率いる、ビューティーコンサルタント集団の事である。メンバーは三人で構成されており、年齢はバラバラ。超個性的なメンバーなので、一人ずつ丁寧に紹介しよう。
まず、長女枠で最年長のフリーシア・エトワール。彼女はファッションコーディネーター専門で、様々なファッションに精通している。フランス王室の人間であり、顔が広く、膨大な資金力がある。エンジェルのリーダー的存在であり、頼れるお姉さんだ。
次に次女、枠のパステル・パレット。彼女はボイストレーナーで、声の出し方や歌の悩みに答えてくれる。元アイドルで歌唱力は抜群、そして黒歴史もありと話題の豊富さは他の姉妹に追随を許さない元気っ子だ。
そして最後、三女枠で最年少のセラ。彼女はメンタルアドバイザーで、微妙な感情の痛みを聞き入れ、ビシバシと判断してくれる。ミステリアスな雰囲気を放ち、周囲の空気を和ませるという特技を持っている。エンジェル内では影の支配者という位置付けっぽいぞ。
このスペシャリスト達を集めたのが、オーナーのテュルー・バトラーだ。設立のきっかけは「恋心」や「愛」を知りたかったから。恋のお悩み相談を引き受けて解決していけば、その気持ちがわかるんじゃないかという魂胆だ。
『驚かせて、ゴメンね』
パステルったら、アイドルをやめてバトラーズ・エンジェルになっていたなんて……恐ろしい子。
「本当だよぅ」
『本当にゴメンゴメン。私、BAH本社のロビーで待ってるから、待ち合わせ場所はそこでいい?』
「場所がわかりません。何処ですか?」
『メタイことを言えば、SWHとシンクロしてるトコだよ」
「ありがとう! 今から向かうね!」
「持つべきものは友達ね」と思いながら、ローズはBAHに向かったの。ロビー空間は華やかなレディ達が可憐な仕草で働いているものだから、ウブな子は目移りしちゃう危険地帯。だからローズは、パニックになりかけたの。
「ローズ、大丈夫?」
流れるように現れたパステル。
「はわわ、パステルー! 会いたかったよぅ」
「私も会いたかった! それじゃぁ案内するね、ついて来て!」
ローズが連れてこられた場所は、名前のない部屋。無機質でだだっ広い場所にテーブルと椅子がポツンと置かれていたの。ローズが椅子に座ると、パステルのお仲間であるファッションコーディネーターのフリーシアと、メンタルアドバイザーのセラが颯爽と入室。只者ではないオーラを放っていたの。
「初めましてローズ。君に似合うファッションが見つかるといいね」
「初めましてフリーシアさん!」
フリーシアはとても大人びた女性で、余裕のある感じがとても魅力的だったの。思わず「お姉様!」と叫びたくなる感じ。
そのフリーシアの傍に周囲の空気を和ませるという噂のセラがいたの。
「お久しぶりです、ローズさん!」
「はわわ。会ったことありましたっけ。もしかしてエスパーさん?」
「そういう設定なんですね……わかりました。さっそくですが、カーネーションさんの心を射止める為に、ローズさんの気持ちを深堀したいと思います!」
「ちょっと、待ったー!」
セラの話に、突然パステルが割って入ったの。
「どうしたの? パステルさん」
「そもそもの疑問なんだけど、ローズはカーネーションの何処が好きなの? 私、ここがわからないと協力するのが難しい」
パステルはカーネーションにトラウマがあったの。ストーキング被害に遭った過去があるんだけど、友達が好きな相手を悪くは言えない。そんな経験もあって、好意を持つポイントが知りたかったわけ。
「その……小さい頃から髪を編んでくれたり優しかったんです。それで……」
恥ずかしそうなローズ。
パステルは付き合いが長いなら……と、取り敢えず納得したのね。
「では恋愛関係図を見てみましょう」
セラの声と共に電子パネルボードが(フリーシアが引っ張って来て)出現。
そのボードにローズとカーネーションとリリーの顔写真が映し出されて三角形を描いていたの。
「また質問いいですか?」
「またまた何ですか、パステルさん!」
「こないだカーネーションを割と近場で見る機会があって……気がついたことがあるんです。カーネーションって……ヴィーナ社長に似てない?」
パステルはカーネーションとの接近経験はあっても、顔を直視したことがなかったの。ローズとユキ君のプロレスごっこの戦闘時、リリーに抱えられていたヴィーナとカーネーションの距離が近かった為、比較することが出来て似ていることに気がついたってわけ。
似てるという発言の衝撃は、撮影スタッフ陣にも広がったのね。だから、ローズとバトラーズ・エンジェルを捉えたカメラがブルブルと揺れてしまったの。
「LLLの公式サイトを見れば、わかると思う」
ローズの情報を元に、パステルはネット検索でLLL公式サイトの幹部紹介ページを観覧。尊敬する人物に「リリー」と「ヴィーナ」が表記されていて、フリースペースを読んでみると「常にお慕えしているのはリリー様ですが、メイクに関してはヴィーナさんを参考にしています。彼女、美しいですよね。憎らしいほどに」と書かれていたの。それを見たパステルは豪く驚愕したわけ。雷に撃たれた気分でさぁ大変。ドゴーンって感じ。何故かって言うと、ネコ生主時代の尊敬する人物が被っていたのね。
「それとなんだけど……リリー様はヴィーナ社長の事が好きだと思う……」
「えっ!? それじゃ四角関係?」
「多分……。カーネーションはリリー様の気を引く為に、ヴィーナ社長の髪型やメイクを真似てるんだと……」
「いやいや待って、ヴィーナ社長の事はソフィアって子も好きなのよ。つまり五角関係……」
ローズとパステルの間に動揺が広がる中、セラが手を上げたの。
「ヴィーナ社長を好きな人は、もう一人います。……マッチョです!」
「マッチョ!?」
「そう、マッチョ! だから六角関係です!」
恋愛関係図の状態をまとめると、ヴィーナ社長を好きな人は、リリー、ソフィア、マッチョの三人。男からも女からもモテモテね。逆にカーネーションとローズは、六角関係の中では末端でライバルが少なかったの。
ラブストーリー物に、メインキャラクターのライバルがいないのは面白くないんだけど、恋愛関係図の中心はヴィーナだったってわけ。
「ライバルがいないなら……これはチャンスね」
頷くパステル。
「でも、カーネーションの好きな相手が、リリー様じゃどうしようもない……」
「落ち着いてローズ。ここはアナタの最大限の魅力を引き出すのよ!」
「アタシの魅力って何!?」
パステルは言葉に詰まってしまった。
過去に自分も同じ事を、元マネージャーに言った事があったから。
ここはメンタルアドバイザーセラの出番ね。
「カーネーションさんみたいに、好みに合わせるやり方もあるけれど、ここはローズのさんの本来の魅力を引き出しましょう!」
「アタシの本来の魅力?」
「そう。可憐で勢いがあって攻撃的な所です!」
道筋が決まった。
そんな時、バトラーズ・エンジェルのナノマシンに、テュルー・バトラーからの通信が入る。
「バトラーズ・エンジェルの諸君。コーディネートの準備は出来たかな?」
「Yes! Boss!」
フリーシア、パステル、セラの三人は息ピッタリ。
「Ready Go! バトラーズ・エンジェル!」
「Ra Ra Roger!」
こうして、バトラーズ・エンジェルによる、ローズ「G・B・U」計画が始まったのである。




