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9 オープニング   『〇』

 激しいドラムにリズミカルな音楽が鳴り響く。四方上部にある大型スクリーンに第一回メンズ・オークションの様子がコマ送りで流れ始めた。最初のメンズ・オークションの開催国はアメリカで、金髪の青年を巡り三人の入札者で争われた。紫のシックなドレスを着ている熟女。黄金の装飾品を体中に散りばめた体格の良い女性。清楚感溢れるフランスの第一王子。映像の最後は、紫のシックなドレスを着た熟女が、金髪の青年の頬にキスをしている内容で締めくくられた。 

 

 スカイパージに乗ってステージ中央を飛んでいるパステルにライトが当たる。


「みなさーん! こんにちはー!」


 辺りは静まり返り反応が無い。


「みんなー元気が無いぞ。こんにちはー!」


 パステルの声にちらほらと「こんにちはー!」と返ってくる。パステルは緊張の糸をふりほほどいて挨拶の声が大きくなるまで繰り返した。


「皆様元気な挨拶ありがとうございます。最初のメンズ・オークションからもう八年。時間が経つのは早いですね」

 

 第二回メンズ・オークションは公式でも黒歴史と化している為、話題には出せない。前回の黒歴史イベントの当事者の一人でもあるパステルは、汚名返上すべく、力を声を振り絞った。


「司会進行はわたくしパステル・パレットが務めさせて頂きます! それでは、アメリカ本社ストック・ウィッシュ・ホールディングス社長、ギフティ・トルゲスさんの挨拶に移ります」


 関係者用バルコニーにいるギフティにライトが当たる。

 ギフティはゆっくりと立ち上がった。


挿絵(By みてみん)


「皆様第三回メンズ・オークションにお越しいただき、誠にありがとうございます。前回のイベントにつきましては深くお詫び申し上げます。前回と同じことが起きぬよう、職員一同万全の態勢で今回のイベントに務めております。これからもストック・ウィッシュ・ホールディングスをよろしくお願い致します。それでは皆様イベント楽しんでいって下さい」


 二十歳とは思えない貫録を見せるギフティに拍手が起こる。大きくもなく小さくもない。コントロールルームのモニターでその挨拶を見ていたソフィアは、冷静すぎる妹に寒気を覚えて肩をすくめていた。モニター越しに映る冷たい表情のギフティはゆっくりと腰を下ろした。ギフティにライトが当たりっぱなしなことに気がついたソフィアは、慌ててパステルにライトを当てる。


「ギフティ・トルゲスさんありがとうございました! それではこんイベントに対してのお祝いメッセージが届いておりますので其方をご紹介致します」

 

 四方に設置されている巨大スクリーンにグレースーツの女性が映し出された。

 その女性はアメリカ大統領のトュルー・バトラー。黒いセミロングの髪に勇敢な眼差し、褐色の肌は煌めき手入れが行き届いている。グレースーツからもわかる体格の良さ。彼女はハリウッドスターでもある。国や行政のトップに求められるのは、カリスマ性、同性をも魅了する美貌、そして有り余る富。女性にとって魅力的で人気や指示を得られなければトップに立つことは成り得ない。行政の内容よりもカリスマ性と好感度が重視される。彼女の真っ直ぐとよく通る声が会場全体に広がる。イベントの成功を祈ると締めくくり観客達の拍手が鳴り響いた。


 続いてスクリーンに映ったのはフランス王室第一王子のフリージオ・エトワール。生物学的には女性で男装をしている。本名はフリーシア・エトワール。第一回メンズ・オークションの三人の入札者の一人として参加しており、このイベントとは縁とゆかりが深い。光り輝く天使の羽のような白い髪で、少し癖のあるミディアムヘア。しわ一つ無い青いスーツに透き通った白いシャツ、波紋が広がるような水玉模様のネクタイ。気品と上品さが留まることを知らない。フリージオの登場により黄色い歓声があちこちで響く。宝塚のトップスターのような振る舞いや声質で会場の女性達を魅了する。イベントの祝福を祈ると満面の笑みで挨拶を終えた。


 そしてタイに滞在している世界最高齢の男性の様子などもネット中継された。百五十歳という高齢で、この時代の地上で生きる最後の男性と言われている。腕や足は細くベットから起き上がることはかなわない。いくら医療技術が進歩していても、血縁者の支援無しで、百五十歳まで生きることは出来なかったであろう。ナノマシンからの電波信号が文字に変換される。それをパステルが読み上げる。


「……えーと。男という存在はこの先いなくなってしまうかもしれないが、たまにはこの様なイベントを開いて思い出してほしい……とのことです!」


 パステルは会場の異様な雰囲気に呑まれてガチガチに緊張しながら話した。ステージ慣れしているパステルだったが、この一万人を超える女性達相手には尻込みしてしまった。一方の女性客達もこの中継の内容に困惑し、どよめいていた。


「さーて、次は皆さんお待ちかねの最新型アンドロイドのファッションショーです!」

 

 ヤケクソ気味のパステルが大声を弾かせた。

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