87 U.S.A. NY STATION
自由の国アメリカ・ニューヨーク。
縦横無尽に立ち並ぶビルがカラーボールのような輝きを放ち、その光景を聖母の様に見守る自由の女神が、大都市の象徴として君臨している。商業、文化、ファッション、エンターテイメントの最先端を走るこの街は「眠らない都市」と呼ばれ、昼夜活気が失われない。雪化粧で彩られたグラデーションを女性達の自信に満ちたパッションが熱く焦がしてゆく。
寒さをもろともせず高級ブランドの服を身にまとい闊歩するマダム。モデルの様な立ち振る舞いのオフィスレディ。一人一人の自我を強調したスタイルが顕著に表れており、横断歩道に交わるカラフルは映画の撮影現場に迷い込んでしまったのかと錯覚させるほどの輝きを魅せていた。
そんなドラマが起きそうな舞台に、ゆきひと、クレイ、セラ、フリージオは降り立った。一同が目指すのはSWHアメリカ本社ビル。
グランド・セントラル駅で、ある夫婦に会いに行く。その駅は大理石の足場から天上まで三十八メートルあり、装飾の夜空に十二星座が煌めいている。インフォメーションのスペースにはオパール素材の四面時計。待ち合わせにピッタリの場所だった。
「おっ、ダニエルさーん!」
ゆきひとはダニエルとヴィオラを見つけて大声を出す。
態度のデカい巨漢の男と細身で独特な雰囲気の熟女。見間違うことはない。
この二人は去年の十一月にゆきひとを世話した夫婦である。
東京ゲームショウというイベントで夫婦揃って来日し、年明けにアメリカへと帰国する予定だった。つまり予定通り。
「お前ら、久しぶりだな!」
「喪中でございますね。本年もよろしくお願いします」
夫婦の挨拶にゆきひと達も挨拶を返す。
「俺はもう帰るから!」
「何しに来たんですか……」
「お前らが来るまでのヴィオラの付き添いだよ。じゃぁな」
ドSのダニエルだったが、流石に外ではババァと言わなかった。そういう所は気を使えるらしい。ゆっくり歩いて去っていくダニエル。お腹が重いのか、動作が鈍い。そんな夫をよそに落ち着いた表情のヴィオラが口を開いた。
「わたくしが、ストック・ウィッシュ本社までゆきひと様をご案内致します。……フリージオ様とセラちゃんは、ここで待機願います」
「えー僕達は行けないの?」
不満そうなフリージオ。
その無邪気さの裏に隠された鋭い視線にヴィオラは全く動じていない。
ちなみにこの二人は初対面ではない。
約八年前のメンズ・オークションで入札者として顔を合わせている。
「もしかしたら今後……「あること」に手伝って頂くかもしれませんが、此方から連絡するまで待機で」
フリージオは「ちぇ」と言いながら、セラの手を引いてその場を去った。
「では……ゆきひと様、クレイ様、ご案内致しますわ」




