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45 一冬の思い出

 幕張に来てから二年と九か月。

 クリスマスに近い真冬。パステルは同室の先輩とファッションレズになるきっかけをくれた友人と共に、幕張メルシアのイベント「ステップフェスタ」に足を運んだ。「ステップフェスタ」とは、毎年冬に行われる少年向け漫画雑誌、少年ステップの一大イベントの事だ。

 ファッション誌は男性物が無くなってしまったが、漫画雑誌は少年がいなくなっても少年誌として残り続けた。

 パステルが先輩と友人を誘った理由は、彼女達が海外に行ってしまうから。先輩は本格的にバスケの指導を受ける為にアメリカへ。友人は母親と一緒にフランスへ。児童施設の子供が中学に上がってから母親と一緒に住むというケースは多い。決して珍しいことではない。

 パステル達は長蛇の列に並ぶ。幕張メルシアの無料イベントには必ず足を運んだパステル。もう慣れっこだ。入場口でキャラクターの巨大バルーンが出迎え、辺りは既に女子達で混雑し溢れかえっている。海賊、忍者、死神のコスプレをしている人がちらほらいる。

 イベントコーナーが点在する中、友人の目的はもう決まっているようで。


「ねぇパステル、私パケモンコーナー行ってくる」


「パケモン?」


「バーチャルコンソールのパケモンエメラルド。昔のゲームなんだけど、今神速ダコウグマ配信してるんだよねぇー」


「あ、うん行ってらっしゃい」


 友人は笑顔でパケモンコーナーへと走っていった。

 パステルの中学生活はカラオケとネコ生配信が中心でゲームには疎かった。


「パステルは高校行くの?」


 先輩が言う。


「一応行くつもり。中卒のアイドルより、高卒のアイドルの方がいいかなーって」


「何それ」


 先輩は笑っている。

 ボーイッシュな彼女の笑顔は爽やかだ。


「先輩先輩、カラオケステージとコスプレステージ見にいこう!」


「ステップフェスタといえば、ステップアニメのステージじゃない?」


「楽しみ方は人それぞれだよ!」


 パステルは先輩の手を引いて、カラオケステージまで駆けていく。人をかき分けながら手を繋ぐ彼女達は、さながらカップルのよう。ステージに着いて、大迫力のアニソンを聞いている間もパステルは先輩の手を離さなかった。パステルがファッションレズだと知っているのは、神速ダコウグマを受け取りに行った友人だけ。少なくとも先輩はパステルのことをビアンだと思っている。

 二人はそれぞれ秘めた思いを抱えながら、淡い一冬のイベントを楽しんだ。


「イエスッ!!」


 パステルが喜んでいるのには理由がある。タブレットにネコネコパーティの出演オファーのメールがきていたからだ。ネコネコパーティといえば、ネコネコ動画を運営している会社主催の一大イベント。ネコ生主が一堂に会して集まるこのイベントに参加すれば、より多くの人の目に止まる事となる。そう、パステルにとって大チャンスの機会なのだ。

 この頃のパステルは一回の配信で視聴者を千人近く稼いでいた。ヴァーチャルキャラクターであるヴィーナちゃんとの百合は、視聴者に受け入れられていた。ネコネコパーティの出演オファーは有名配信者として認められたということ。嬉しくない訳がない。パステルが出るステージはアニソンカラオケバトル。開催場所は幕張メルシア、時期は二八十六年の四月下旬。

 東京都中野区にある堀上学園進学の準備をしていたが、パステルの頭からその事が飛んでしまった。高校へ行くにあたって、都内の児童施設に移るか、幕張に残るか悩んでいた。でもこのメールを見て幕張から高校に通うことに決めた。結果、準備万端でネコネコパーティに挑むことが出来、幕張に残る事を選択したのは正しかったと自分を褒めた。


 このイベントでスカウトウーマンの目に留まれば、アイドルとしてデビュー出来るかもしれない。パステルの胸は高鳴る。こうしてはいられないと、歌う曲を決めて出演までその曲を歌って練習した。

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