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300 君と一緒にサンスマイル!

 衝撃から目を覚ますと、色とりどりの紙吹雪が舞っていた。

 起き上がって周囲を確認してみると、コックピットをガン開きにしたオメガオリオンが水面に全身を浸けていた。それはまるでオブジェクトのように見えた。

 オメガオリオンの近くには、うつ伏せで倒れているバディがいた。

 俺は、おもむろにバディに接近した。


「生きてるか? バディ」


 俺がバディに声をかけると、ゆっくりとバディは起き上がった。

 

「……もう終わりよ。何もかも」


「そうだな、このゲームはもう終わってしまう」


「何? 私にまだ何か言いたい事があるの?」


 俺は、バディに手を差し出した。


「このゲームのシナリオ云々は関係なく、俺が言いたい事はただ一つ。何年もの間このゲームを楽しませてくれてありがとう」


「ほんと、アンタってお人好しなんだから」


「……とは言っても、俺のプレイ歴は三年半ぐらいだし、途中参加なんだけどな」


 俺の手を取って立ち上がるバディ。


「メタな事を言えば、モンハァンが無ければジュラバスだって無かった訳だし、憎しみを口にする前に、運営に感謝の言葉を述べて終わりにしようぜ?」


 バディは、深呼吸した。


「モンハァンは様々なコンテンツを展開しており、これからも最新作をドンドン販売していきます! サンブレイキングは周年という事もあって、過去作をプレイするのも全然ありだと思います。モンハァン開発に携わってきた皆様、私を生んで下さってありがとうございました!」


 バディは、目茶目茶ニッコリと営業トークをした。


「言えたじゃねーか」


「はぁ……これからどうしようかな、私」


「……肝臓を、肝臓をよこせ!」


 リバース操縦者のスト君が、足を引きづりながら俺とバディの元に来た。

 プレイヤーメンバー達も、続々とこのエリアに集まってきた。

 どうやら、隔たれたマップが一つになったようだ。


「バディさん……肝臓……いや、その後ろの機体を僕に下さい」


 未来のスト君が、拳銃をバディに向けた。


「貴方が私を撃ちたいなら撃てばいい。でもトリィは貴方には渡さない」


 バディがオメガオリオンのコックピットに近づくと、未来のスト君は躊躇無く拳銃の引き金を引いた。


 パァン! ……と音がして、俺は「バディ!」と叫びなら状況を把握しようとすると、オメガオリオンの体の一部が盾となってバディを守っていた。オメガオリオンの起動音がしたと思ったら、光の腕が未来のスト君を拘束していた。


「何をする!」

 

「トリィ!」


 バディが驚いている。


『皆、今まで迷惑をかけてスマナカッタ』


 俺は、トリィの意識を取り戻したオメガオリオンに近づいた。


「トリィ、意識を取り戻したんだな」


『ユッキー、ワガハイとの約束を守ってくれてありがとう。……ずっとずっと夢を見ていた。皆が体験した事をワガハイも見る事がデキタ』


 トリィは、オジサンを見て『オジサン、ずっとユッキーを支えてくれてアリガトウ』と言った。セイカを見て『セイカ、アイドル時代にこのゲームをプレイしてから戻って来てくれてアリガトウ』と言った。セカンドを見て『セカンド、貴方のサポートがあってこそ、ここまで来れたと思うよ。アリガトウ』と言った。ラスカルを見て『ラスカル、最後のシナリオだけでもちゃんと見てくれてアリガトウ』と言った。ウサギを見て『ウサギ、ずっとハンマーを使い続け、キャラクリを最大限まで楽しんでくれてアリガトウ』と言った。二号を見て『二号、このゲームの思い出をキャンパスに描いてくれてアリガトウ』と言った。ウケツケジョーを見て『ウケツケジョー、ジュラバスをバズらせてくれてアリガトウ。お姉様はワガハイガマモッテイクヨ』と言った。NANAを見て『NANA、ずっとジュラバスのトップを走り続けてくれてアリガトウ』と言った。TEOを見て『TEO、お医者さんとゲームの両立は難しかったとオモウケド、最後までプレイしてくれてアリガトウ』と言った。REIを見て『REI、不甲斐ないワガハイでスマナカッタ。でも、君がワガハイにとっての一番の理解者だと思っているよ』と言った。

 REI、号泣。

 トリィは、オジョーを見て『オジョー、貴女も運営お疲れ様でした。これからの御武運を祈っています。今までアリガトウゴザイマシタ』と言った。ハルガを見て『ハルガ、楽しい時も、嬉しい時も、苦しい時も、悲しい時も、ジュラバスをプレイし続けてくれてアリガトウ』と言った。ゲームマスターを見て『オレと人生を共に歩んでくれてアリガトウ』と言った。

 トリィは、プレイヤー全員に感謝の気持ちを述べていった。


 トリィは、光の腕で拘束した未来青年ストをコックピットの後部に乗せ、バディも光の腕を使ってコックピットに乗せた。

 

「ちょっと、どうするの? トリィ!」


 バディが、困惑している。


『ワガハイはバディを死なせたくない。バディが私を生かしたように。世界の全てがウケツケジョーを憎んでも、ワガハイだけは、味方でアリタイ』

 

 遠くの方から、何かが走って来た。

 キング、クィン、ヒジカタに乗ったスト君達だ。

 飛竜のピンチとオーガも滑空しながら付いて来てる。


「バディさん、トリィさん!」


 バディは、不安定な姿勢でスト君を見た。


「……私の事、恨んでるでしょうね」


「今まで、お世話になりました!」


 機械仕掛けのトリィが、ちょっとニヤケタ気がした。


『スト君、カッコイイ大人にナレヨ!』


「スト君……今までありがとね」


 トリィは、コックピットを閉めて宙に浮いた。


『歴戦のバスター達よ! 此度の活躍は、アッパレであった! ワガハイは時空の彼方へと旅に出る。これから起こるであろう、其方達の活躍と幸運を祈っている。それではサラバである!!』


 未来青年ストとバディを乗せトリィは、凄まじいジェットで急上昇し、時空の彼方を突き抜けて旅立って行った。


『受付ジョーは、DLCで何度でも蘇る!』


 空耳だろうか……バディの声が最後に聞こえたような……。

 もしかしたら、バディは次回作に出るのかもしれない。


「バスターの皆さん……もう一体のオメガオリオンの元へ行ってみませんか?」


 ……と、スト君。


「そういえば、未来のスト君が乗って来たピンチがいるんだよな」


 俺達は、オメガオリオンリバースを捜し歩いて発見した。


「……ピンチ!」


 俺は、別の世界線を生きた未来のピンチに駆け寄った。

 スト君も未来のピンチの頭と思われる部分を撫でた。


「大丈夫ですか?」


『グルゥゥゥ』


 水面に「大丈夫だぜ」と大きく文字が表示された。続いて「まだコスモリウムに生きている子がいるようだぜ」と文字が表示された。

 水面下からゆっくりとポメラニアンが浮かび上がってきた。

 俺は、その瞬間ポメラニアンが何者なのかを理解した。


「ハナちゃん!」


「ハナ!」


 ヒジカタも反応した。

 ポメラニアンは、ゆっくりと目を開けた。


「わぉん……わふ……」


「ハナ、言葉を話せないのか……? ……記憶は?」


 ハナちゃんは言葉を話せないながらも、巨大狼のヒジカタにすり寄って行った。


「……ハナ」


「未来のピンチさん、こんな状況で申し訳ないのですが未来に飛べますか?」


「スト君……何を?」


「恐らくですが、オメガオリオンになった時点で彼らはタイムマシンと同義になってしまったのだと思います。それに十年後から来たという事は、その時点での時間残量はまだ無事。……僕は未来のナディアさんと話をして、現状の打開策を探りたいと思います」


 ヒジカタは、スト君の話を聞いてハナちゃんを銜えて彼に預けた。


「ハナは、スト殿が面倒を見てくれぬか?」


「ヒジカタさん?」


「拙者達は未来に行けない。興奮してしまうと大量の時間を奪ってしまう。ハナは元々飼い主の病気を治したくてタイムトラベルをしているようだし、スト殿と目的が一致している。だから、スト殿に預けたい」


「……ハナちゃんは、どうしたい?」


「わぉん……わぁんわぁああん!」


 水面に文字が表示された。

 多分、ハナちゃんの言葉を未来のピンチが翻訳している。

 「わたしはスト君と一緒に行きます。……お父しゃん、今までありがとうごじゃいました!」と、言葉が流れていった。


「わかったハナ。我が娘よ、元気でな」


「わぉん!」


 親子は別れを惜しんで、ほっぺを擦り合わせていた。

 もの凄い体格差があったが、そんな壁は微塵も感じなかった。


「わしらもこの地に残るニャン! いやぁ犬と猫のバランスが悪いと思ってたけど、これで一安心ニャンね! わしら人気者の猫で良かったニャン!」


「ここにきて新たな火種を生むんじゃないニャン!」


 この夫妻(?)も、何だかんだ仲が良いな。


「それでは皆の者、しばしの別れである!」


「バイバイニャーン!」


「あちし、皆の事忘れないから! バイバーイ!」


 ヒジカタ、キング、クィン……元便利屋だった三匹は、亜空間の壁を超えて去っていった。


「皆さんはこれからどうしますか?」


 ハナちゃんを抱いたスト君が、俺達に今後の展開を尋ねた。

 ここで、三つの選択肢が表示された。

 「ストと一緒に未来に行く」「現地に残る」「エンディングをシアターで見る」の三拓だ。これは、エンディング分岐になるな。

 俺は、「ストと一緒に未来に行く」を選択。

 オジサンも俺と同じ選択をして、他のメンバーもそれぞれ自身の選択を選んだ。

 

 死闘を繰り広げた皆と、バイバイのジェスチャーで別れを惜しんだ。

 一人一人、ログアウトして去っていく。

 最終的に俺とオジサンとゲームマスターが残り、ゲームマスターは「配信の進行がありますので……」と言って離脱しようとしていた。


「ゲームマスター!」


「なんでしょう」


「次回作でも仕事するの?」


「そういった話もありますね」


「最後に一つ、ジュラシックバスターの運営、十年もの間お疲れ様でした! それじゃ……さよなら、またいつか」


「さよなら、またいつか」


 ゲームマスターは、嬉しさと寂しさの滲んだ表情でログアウトしていった。


 俺とオジサンは、スト君と一緒にリバースに乗って現在の歴から百十年後という別の世界線へと旅立つ事になった。

 リバースのタイムマシン能力を、レウスカイ・ティラオスとレイアース・ティラメスとも共有。飛竜二体もタイムトラベル機能を得て付いて来る。


 タイムトラベル中。

 コックピットの外は、エンドロール画面になっていた。

 エンディングテーマも合わせて流れてくる。

 ……このエンディング曲、聞いた事がある。

 オジサンも聞いた事があるみたいだ。

 オジサンの話だと、春希という友人がプレイしていたゲームかもしれないと言っていた。そのゲーム、どうやらゾンビが出るらしい。

 もしかしてバイオか?

 そう言えば、兄貴もバイオプレイしてたな……多分だけど。

 子供の頃の俺は、とてもじゃないがゾンビゲーは怖すぎて無理だった。

 暗い部屋で兄貴がバイオをプレイしている所を、怖がりながら見てたっけ……。

 兄貴も父さんも母さん……も、元気にしてるかな?

 俺はこの調子じゃ、元の時代に帰る事はなさそうです。

 オジサンが、エンディングテーマを口遊んでいる。

 「ゆ……めじゃ、おーわーらせニャイ」。

 爽やかなフレーズだけど、バットエンド集だったような。

 何だろう……凄い印象に残っている曲だ。

 俺も「タマーゴのー中にキミがある~」と口遊んでしまった。

 

 別の世界線の百十年後に到着した。

 着いた瞬間、外の風景を見てすぐ異変に気付いた。空を飛ぶ鳥々が空中で静止していた。ハトもカラスも羽ばたきながら止まっている。もう、一般の動物は構っていられるレベルではないのか。

 スト君は、リバースにこの世界線のナディアの元へと行くようにお願いした。すると、リバースはとある高層ビルの屋上付近に突っ込んでいった。

 申し訳なさもありつつ、コックピットの中から出てビルの内部に侵入すると、歳を重ねたナディアが俺達の前に現れた。


「やはり来たのね。別の世界線のスト坊」


「ナディアさん……この世界線では初めまして。外の様子を確認しましたが、時間減少は止まっていないのですね」


「……えぇ。これは止められないわ。ただ……」


「ただ?」


「……打開策の考えはあるのだけど、ピンチとオーガがこの世界線にいるのは不味いわね」


「時間減少の速度を上げてしまうからですか?」


「そうね、時間を吸ってしまうもの。でもそれは、時間をかけて改良できない事もない。しかしその事よりも、その子達が別の組織に狙われる事の方が問題だわ。善良な人間達は、とっくに過去の時代へ逃げていった。残った組織は過激な連中ばかりなの」


「……そうですよね」


「考えている打開策を教えてもいいけど、それにはスト坊に研究を手伝ってもらう事になる。そして……スト坊がよく知るオーガとは、別れてもらうわ」


「……オーガ」


 オーガとスト君の目が合った。

 スト君は、悩んでいるようだった。


「ナディアさん、その打開策とは?」


「話を聞くなら、私の条件を飲んだと受け取るけど」


「わぉん」


 スト君に抱かれたハナちゃんが鳴いた。


「……その打開策を聞きます」


 俺は、スト君の判断に驚いて「スト君!?」と声を出してしまった。


「ハナちゃんは飼い主を助けたくて、父親と別れる決断をしてまで僕に付いて来たんです。僕も覚悟を決めないといけない」


「わかったわ。……その打開策とは、私達自身が時間を生成出来るようになる事、そうすれば、現状もいくらかマシになるかもしれない」


「時間を過去から奪うのではなく、生成するんですね!?」


「等価交換が原則の世界だから、中々上手くはいかないけれど。……では、約束を果たしてもらうわ。時空転送装置へ案内するから、ついて来て頂戴」


 スト君、ハナちゃん、未来のナディアが部屋を移動した。

 リバースは、ピンチとオーガに移動を促し、その場から飛んで行った。

 残された俺とオジサンは、ソープという秘書に案内され屋上行きのエレベーターに乗った。

 屋上の階層に着くと、一本道の廊下へと辿り着いた。

 ソープは、エレベーターに乗って下の階に降りて行った。

 多分彼女、ボディ、リンス、シャンプーのオリジナルだな。

 屋上のエレベーターを再度触ってみるが、反応は無い。

 もう戻れない感じだ。


 廊下を少し進むと、見覚えのある通路になった。

 この通路、オジサンのいた精神病院と内部構造が似ているんだ。

 オジサンもそれを感じ取っているようだった。


 更に少し進むと、オジサンに呼び止められた。


「ユッキー!」


「どうしたオジサン」


「今ここで話す事ではないかもしれないが……僕とユッキーが出会った時、僕はもう死んでもいいと思っていた。でも色んな経験をして、このジュラシックバスターというゲームをして、生きていて本当に良かったと思えた。こんなに楽しい場所があるんだなって」


「俺もオジサンと同じ気持ちだぜ」


「ユッキー、僕を引きこもりの世界から連れ出してくれてありがとう」


「何だよ今更、俺だっていつも助けてもらって感謝してるよ」


「うん……言いたかったのはそれだけだ」


 もうすぐこの世界が終わってしまうから、つい駆け足になってしまう。


「ほら急がないと。俺達は最強の無職と最強の元引きこもりなんだから、もう怖い物なんてないさ」


「僕は今無職で元引きこもりなんだけど」

 

 思わず笑ってしまうオジサン。


「ウダウダ言ってないで、行きますよオジサン!」


「そうだな、ユッキーちゃん!」


 俺達が、スト君達のいる時空転送装置に着くと、天窓が開いてピンチとオーガが舞い降りて来た。

 二体の飛竜は、自分達の状況を理解しているようだった。


 オーガは、顔をスト君に寄せた。

 スト君も、オーガの顔に自分の頬を寄せて、涙を流していた。


「オーガ……お前はピンチと一緒に行きな。僕はここで立派な科学者になって、この時代や僕のいた世界線を救うべく勉強するよ。そして、オーガ達が普通に暮らせるようになったら、迎えに行く」


「クーン……ルルゥゥ……」


 オーガは、寂しい声を出してから頷いたように見えた。

 オーガとピンチが、翼を広げるとナディアが時空転送装置の操作を開始した。

 室内が仄かに光輝くと、異世界の扉が立てられた絵本のように開いた。


「バイバイ、オーガ! バイバイ!」


「バァイ……バァイ……」


 オーガとピンチは、お辞儀をして宙に浮いた。

 スト君は、止まらない涙を擦りながら大きく手を振り続けた。

 俺も、ピンチに向けて大きく手を振った。


「ピンチも元気でなァ!」


「グルルゥゥ……ワン!」


 最後の最後で、ピンチが犬になって笑ってしまった。

 二体の竜は、宙を舞うように異世界の奥へと消えて行った。


『それでは、ユッキーさん、オジサン、最後に一言よろしいでしょうか?』


 うわ、ビックリした。


「ゲームマスターさん!?」


『このジュラバス配信も、直に終了となりますので視聴者さんに一言』


 俺は、カメラの位置を確認してそっちの方を見た。


「長い間、俺達の旅の行方を見守って下さり、ありがとうございました! ゲームマスターさんもお疲れ!」


『ありがとうございます』


 オジサンも視聴者さんに向けてお辞儀をした。


「長時間のご清聴、ありがとうございました!」


 それでは皆さん、おつ狩り様でスター!!


 ~fin~

 

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