299 Type Convert System Attack
『ゲームマスターの、ワタシがキタァ!』
「ゲームマスターが入室しました」と、チャットが流れた。
……!?
辺りが静まり返った。
何なら今流れている戦闘BGMまで止まった。
ラスボスも困惑しているようだ。
勝利確定BGMっぽい曲が聞こえてくるのと同時に、一人の男性プレイヤーが現れた。その男は、茶髪の顎髭でエレキアックスを担いだおっさんっだった。
「……サーマン?」
おっさんは、自分の体を確認する。
「しまったぁぁぁぁああ!」
セカンドが駆け寄って来た。
「ゲームマスターにお越し頂きました。この姿は、使われなくなったサーマンさんのアカウントをゲームマスターが使っている状態ですね」
……ビックリした。
サーマンがゲームマスターなのかと思った。
落ち着きを取り戻したおっさんは、セカンドを手て止めて制止した。
「ワタシが誰であるかは、貴方の胸に聞けばいい」
「あ、はい。ゲームマスターさんいらっしゃい」
「本来、プレイヤーだけでクリアしてもらった方がよかったが、武器消失バグまで起きては仕方ない」
「そうですね」
ゲームマスターという名前は、ただのハンネじゃなくて本物のゲームマスターっぽいな。
『新たなプレイヤーだと!? チーターか貴様あああaaaa!?』
ゲームマスターのおっさんは、セイカに無限湧きしているハチミツをフィールドに放つように指示。おっさんはエレキアックスで水面フィールドのハチミツを集約し、ラスボス目がけて振り放って起爆した。
『ぐああああああああああああぁぁっぁぁ!!』
一撃で、九千ダメージを出してる……。
「スト君!」
「何でしょうかゲームマスターさん!」
「彼らを呼んでくれ」
バブルの中にいるスト君は、何かを思い出したように願った。
マップ中央の時空が歪み、原初の火竜レウスカイ・ティラオスと原初の清竜レイアース・ティラメスが出現した。
すると「助太刀乱戦が発生しました」と、チャットが流れた。
睨み合うオメガオリオンとレウスカイ・ティラオス。レイアース・ティラメスはスト君を気にしている。
「ピンチ! オーガ!」
思わず興奮して叫んでしまった。
「レウスカァイ!」
多分、俺に任せとけぇい! ……と言っている。
『原初二体風情がァ!』
深海の星空の元で機神と二体の飛竜による怪獣バトルが始まった。俺は天駆ける驚天動地が気になったが、おっさんに話しかけられたのでそちらを見た。
「今、ジュラバスに関わる全ての開発がこのゲームの最期を見守り支えています。バグもリアルタイムで取り除いている最中です」
「サーマン……の姿をしたゲームマスターさん」
「……何でしょうか?」
「武器が欲しい。戦う為の武器が!」
「……そう思って、次回作で登場予定の武器をダウンロード中です。準備が出来次第、便利屋に届くはずです」
バブルに守られていたキングとクィンが、駆け寄って来た。
「バスターさん! 武器が届いたワン。受け取って欲しい……ニャン」
セカンドは、キングから新武器「ブーメラン」を受け取った。
武器指南説明が入る。
新武器「ブーメラン」は、お供と一緒に戦うスタイルの武器で、双剣のような近接スタイルと、ブーメランを投げる投擲スタイルを切り替えて戦う近距離中距離型の剣士武器だ。
投げられたブーメランは、お供が銜えて追撃するかブーメランを回収してきてくれる。一部自動でお供がモンスターに攻撃してくれるので、初心者向けの武器種となっている。
ボー立ちのお供を強制的に行動させて、メインアタッカーにするという恐ろしい武器のようだ。
セカンドが大きめのブーメランを受け取ったと同時に、ラスカルが消えた。
「ちょっと、ちょっとちょっと! 僕がブーメランになってるよ!」
おっさんは、「お供と一緒にブーメランで戦う武器が、お供がブーメランと一緒になってしまいました……次の武器は、ちゃんとバグ対策しますので」と、若干狼狽えていた。
「殿下、堪えて下さい。動かなくても当たるだけでいいなら楽じゃないですか」
「そんなぁ~」
セカンドは、滑空するオメガオリオン目がけて、助走を付けながら勢いをつけて巨大ブーメランを投げ飛ばした。
「僕って、飛べるんだぁぁぁ!???」
ピンチとオーガは、ラスカルブーメランを避け、ブーメランはオメガオリオンに接近。
「よけてぇ~!!」
敵が避けたらダメだろ。
『ふん! こんな攻撃っ!』
空振りしたブーメランは、ピンチが銜えてオメガオリオンに追撃アタックをかました。
『そんなバカなァ!!』
五千のダメージを受けて水面に叩きつけられるオメガオリオン。
……バディのセリフが、比較的治ってきてるな。
運営がちゃんと仕事してくれてる。
「バスターさん! あちしにも武器が送られてきたニャン! 受け取ってニャン」
オジサンは、クィンから新武器「ストライク」を受け取った。
新武器「ストライク」は、近接戦が可能なガンナー系統の武器。見た目は細長い金属バットのようで、ガンナーでも機動力の高いハンマーのような戦い方が可能。
ストライクの真価は、石ころや鉱石、環境生物、お供に持たせた専用瓶などを、バッティングして放つ高火力な遠距離攻撃。
近接の火力はハンマーに劣り、条件を揃えないと遠距離のライトやヘビィに火力で劣るが、フィールドから容易に球補完が出来、全ての打つ球に反動が無く、落石をバッティングすると圧倒的な火力が出るのが特徴となっている。
オジサンは、二号に駆け寄った。
「自分、瓶なんて持ってないワン!」
「ナノカメラを球に変えてくれ」
おっさんが、ナノカメラは攻撃後に復元出来ると説明すると、二号は仕方なく応じてくれた。
オジサンは、○チローのようなポーズを取った。
バッターチャンス。
オメガオリオンは、ダウンから復帰して飛び上がった。
二号、オジサンにナノカメラを放り投げる。
オジサン、ナノカメラを打った!!
ナノカメラは、オメガオリオンに被弾して一万ものダメージを与えた。
『コンチキショウメイィ!!』
被弾して破裂した球は、二号がため込んだゲーム内写真を散らして桜吹雪が舞うかの如くマップ内を埋め尽くした。
キングとクィンは「た~まにゃ~」と、掛け声を送っていた。
エリア全体を埋め尽くす数々のフォトシーン。
こういう演出はエンディングで見るのがデフォルトなんだけどな……と、思いながら笑ってしまった。
キングとクィンが、俺の所に来た。
二匹一緒に「最後の新武器を受け取って欲しいにゃん!」と、言ってきた。
俺は、キングとクィンから新武器「空拳」を受けとった。
俺の受け取った新武器は「アンノーンフィスト」という名前がちゃんとあった。
新武器「空拳」は、グローブの見た目をした剣士武器。打撃タイプの双剣みたいな戦闘スタイルからスタートし、戦いながら真空ゲージを溜めていき、ゲージがマックスになると任意で「空剣モード」へと移行出来るようになる。「空剣モード」は、目視出来ない真空の大剣を顕現させて戦う。このモードは溜め動作のない機動力の高い大剣、もしくはガードの出来る刀といった仕様感らしい。
真空ゲージは、スタミナを消費すればするほど溜まり、ゲージがマックスになった後は徐々に減少してゲージゼロになると通常の格闘スタイルに戻る。スタミナギリギリで戦う事でゲージ減少を抑えることが出来る。真空ゲージの管理は、味方からのバフでも増やしたり維持する事が可能となっている。
俺が空拳を装備した瞬間、真空ゲージがマックスになった。
エリア全体を見ると、視聴者達の応援コメントで溢れていた。
「がんばれ! がんばれ!」と、様々な国の言葉で表示されている。
そのあまりのコメント数に、俺は圧倒されてしまった。
「ユッキー!」
オジョーに背中を叩かれた。
「お姉ちゃん達もこの配信見てるんだから、いい所見せなさいよね」
「お……おう!」
アイテムバックからハチミツを無限に流し続けるセイカからは、「ユッキー、私が演じたキャラだからって遠慮はしないで」と言われた。
「当然だぜ!」
「ご主人、御武運を」
「ユッキー、最後まで頑張ってねぇ~」
セカンドとお供に戻れたラスカルからも声援があった。
キングとクィンの方を見ると、何時の間にかモンスターになっていた。
キングはフレア・ウォーズに、クィンはフレア・プロミネンスに進化していた。
「どうしたんだよ! キング、クィン!」
「わしら猫だという真事実を知ってスッキリしたせいか、進化出来たニャン!」
「あちし達、オーガちゃん達と戦闘を交代してくるニャン!」
飛び立った王と王妃は、オメガオリオンに対して果敢に挑んでいった。
『このコバエ共ガァ!!』
オーガとピンチが、俺達の所に降りて来た。
俺がピンチに近づくと、ゲームマスターのおっさんから呼ばれた。
「ユッキーさん! 貴方に最後を決めて欲しい」
「ハルガ達も戦っているからどうなるかわからないけど、そのつもりで戦う。……でも何で俺に?」
「……それは、ユッキーさんがワタシにとっての推しだからダァ!」
拳を胸に当てて感情を爆発させたゲームマスターに、一瞬戸惑ってしまった。
何時、俺はゲームマスターの推しになったんだろう。
それでも、何が何だかわからないけど、無性に嬉しかった!
「ゲームマスター……ありがとう、一狩り行ってくるぜ!」
「一狩り、行ってらっしゃい!」
俺はピンチに乗りゲームマスターに向かって手を振ると、ゲームマスターのおっさんは嬉しそうに手を振り返してくれた。
「行くぞ、オジサン!」
「行こう、ユッキー!」
俺はピンチと、オジサンはオーガに乗って、王VS王妃VSラスボスの戦場に接近する。
『ゲーム終盤で新武器を実装してんじゃねぇ! しかも狩りゲーに格闘武器なんてありえないだろ!』
「お前が武器を消したからだろうが!!」
『そうだ、また武器を消失させれば……』
オメガオリオンは再度武器消失を行おうとしたが、俺の武器は消失しなかった。
「多分もうアップデートで対策済みだぜ!」
『科学の力が凄すぎる……。こんな、こんな所で終われない!』
エネルギーが枯渇してきているのか、オメガオリオンが俺達から距離を取って、右手サイドに逃げて行く。
「あちし達に任せて!」
「逃さないニャン!」
王妃と王に阻まれて逃げ場を失ったオメガオリオンは、マップ中央の天井を突き破ろうと急上昇する。
『テディァァァノアッ!!』
深海のコスモが雷鳴轟き、オメガオリオンに落雷が直撃した。
『シビレビレ!!』
マップ外のヒジカタによる援護落雷だ!
ヨロヨロとしながら左翼に滑空し始めたオメガオリオンを、先回りで捉えるオーガに乗ったオジサン。
オジサンは、新武器ストライクを振りかざしながら飛び降りて、オメガオリオンの頭上から特大フルスイングを放った。
「シャンナロオオオオオイィ!!」
『そんな攻撃当たるかよ!』
「オメガオリオンリバースが討伐されました」と、チャットが流れた。
ハルガ達、やったんだな!
拍手と歓声がマップを包み込んでいる。
リバースの討伐のダメージが、バディのオメガオリオンに襲い掛かり、その反動で奴が怯んだ。
俺は、新武器である空拳を空剣モードに移行し、真空の大剣を作り出して声援のエネルギーを貯め込んでいった。
オジサンのフルスイングは、オメガオリオンの頭部に直撃し、特大ホームランとなったオメガオリオンが俺に吸い込まれるように接近して来た。
『行け! ユッキー君!』
『行って下さい!』
『ユッキーちゃん! ……サヨナラ、デューク様……』
『ユッキーさん!』
『やっておしまい!』
『イケエェ! オオザクラユキヒトオオオォ!!』
――この先、どんな困難や難敵とぶち当たっても。
トリィ、わかってたんだな……こうなる事が。
――それを乗り越え、必ずや討伐してほしい。
ずっと何処かで止めて欲しかったんだな。
――吾輩と約束してくれるか?
俺が、お前達を止めてやるぜっ!
『このチーター共メェ!!』
「バグだらけのお前が言うんじゃねえ!!」
『このぉ! べらぼうがぁ!!』
「いっけええええええええぇえええぇえぇ!!」
飛竜に乗って加速した俺は、真空の大剣を大きく振りかぶって、オメガオリオン胸部の太陽と月に一太刀を浴びせた。
――手応え有り。
イッツオォォヴアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!
Damage999.999!!




