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293 最終シナリオ【シンソウノコスモリウム】

 潜水艇内部。

 重苦しい空気間の船内で、プレイヤーである俺に選択肢が発生した。最終シナリオに関しての選択肢だ。

 選べるのは、通常のEDが見られる「スタンダードモード」と、プレイヤーのシナリオ理解度が反映される「メモリーモード」の二つ。

 「スタンダードモード」を選ぶと、今までのシナリオ進行が無視されると出たので、俺的には「メモリーモード」一択って感じになったが、「メモリーモード」を選ぶとプレイヤー全員のプレイヤーデータや体内のナノマシンの記憶が反映されるとの記述が出たので、他のメンバーにアンケートを取る事にした。

 俺、オジサン、セイカ、ウサギ、ラスカル、ウケツケジョー、セカンド、二号は、メモリーモード派。オジョーは、スタンダードモード派。ハルガ、NANA、TEO、REIの廃人組は、未回答だった。

 「メモリーモード」は、八票。

 「スタンダードモード」は、一票。

 「未回答」は、四票。

 多数決であれば「メモリーモード」となるが、全員が納得する形にしたかったので、意見の合わなかったメンバーに話を聞く事にした。

 廃人組に関しては何方のモードでもいいとの事だが、長年このゲームを追ってきた手前、通常のシナリオエンディングも気になったようだ。

 ……てな感じの理由だったので「メモリーモード」でも大丈夫な様子だった。

 問題は、オジョーか。


 オジョーと目が合った時点で、彼女が危惧しているだろう事が頭に浮かんだ。

 何時だったか、コスモ・ラメールの砂浜で話をした時、子供の頃に大きな事故を起こした事があると教えてくれた事があった。その出来事が、ゲームシナリオに反映されてしまうのが嫌なのだろう。


 「もし……」と、オジョーに話しかけてすぐに、オジョーは俺の言葉を遮った。

 「多数決には従う。覚悟は出来てるから」と、オジョーは「メモリーモード」に賛同してくれた。


 全員の意見がまとまった所で、ゲーム内選択肢の「メモリーモード」を選択。

 ラストシナリオであり、最終メインクエストの「シンソウノコスモリウム」が、スタートした。イベントが進行し、深海を潜航しているであろう潜水艇が目的の場所に到着した。


 コスモリウムの内部に入港したっぽい数分は、ゴォォォオォォオォゥと凄まじい海鳴りが船内に響いていた。発着場に着いた感じの状況になると、ナディアの指示が出て、俺達は潜水艇から顔、体を出した。

 人工で造られた砂浜のようなスペースがあり、顔を出した瞬間に強めのライトに顔面が照らされて眩しさを覚えたが、ブルーメタリックの外壁が見えたせいか、開放感を間に挟んでから重苦しい空気を肌で感じる流れになった。リアリティ凄い。

 俺達のいる人工砂浜から陸地、メタリック構造の施設に続いて、内部に続きそうな扉の無い出入口に、大きめの狐がチョコンと座っていた。

 ……アロマテラス希少種だ。

 俺達は、アロマテラス希少種の前まで歩いて行く。

 落ち着いた様子のアロマテラス希少種の前に立ったが、あまりにも冷静な感じだったので、俺は何を話せばいいのかわからなくなった。


「この施設、最近どうかな?」


『……お待ちしておりました』


 とても落ち着いた声だが、聞き覚えがある感じがした。

 ハナちゃんの声だ。

 この個体、絶対ハナちゃんだ。

 ただ、声は二重に聞こえていたので異様な雰囲気だった。


「誰か、来た?」


『お話は、内部で致します。……比較的施設は清潔ですので、細菌は思ったより少なめです』


 最近と細菌を勘違いしているようだ。

 無視しない辺りは、優しさを感じる。


 アロマテラス希少種は内部へと進み、スト君、俺、ナディア、キングとクィン、他のメンバーの順に付いていった。

 メタリックな研究施設的通路を通行中の俺は、飛竜であるピンチとオーガの事を思い出して、スト君に彼らはどうしたのかと尋ねた。

 二体に関しては、スト君を座標に異次元の壁を超えてコスモリウムに入って来れるらしい。

 ラストバトルで、二体の助っ人に期待してしまう俺。


 大きい球体の広間に入ると、天井が海水と太陽のプリズムに照らされている空間に着いた。幕張メルシアを球状にしたぐらいの広さがあるので、かなり広い。それよりも球体の空間という事もあってか、俺がこの時代リアルで初めて目を覚ました場所を思い出した。あれから五年経ったとか信じきれない。そもそも未来に来てしまった時点でSFなんだが。

 これは俺の記憶が反映されているのかな? ……と、ちょっと思ったが、この場所は「メモリーモード」選択前に決まっていたはずなので、関係ないかもと思ったりもした。

 

 ステージのような場所に目がいき、そこにはメカニカルな大きな繭と一人の女性が立っていた。


「バディ!!」


 変な白い服を着ているが、アレは俺達の受付ジョーだった、バディ・ジョーだ。


『ユッキー。皆、久しぶり』


 近くで声がしたので、ビクッとした。

 アロマテラス希少種が、俺達のそばで声を発している。

 

『驚いた?』


 バディとアロマテラス希少種を交互に見る。

 どうやら彼女達は、動きと声がシンクロしているようだ。アロマテラス希少種の声が二重に聞こえると思ったら、もう一方はバディの声だったのか。


「驚いたぜ……生きているとは思ったけど」


『ここからだと私の声が聞こえないと思って、アロマテラスになったハナちゃんに、手伝ってもらっているの』


「……」


 やっぱり、このアロマテラス希少種は……ハナちゃんだな。


『私達は生きてるかもだけど……アイツらは殺しちゃった。彼女達を使って』


「アイツら? 彼女達?」


『アロマテラス希少種達を使って、この時代に来たSUITE BUYBUYの連中を一掃したって言ったの。でも安心して? どうせ、3Dスキャンのコピー体だろうから』


 物騒な意志をシンクロして伝えるアロマテラスに反応したスト君が、バディに対して意気込んで一歩前に足を出した。


「バディさん! どうしちゃったんですか!」


『もう私達は終わりなのっ! あなたのお父さんの病気だって治らないっ!』


「終わりって……」


『ああああああああっぁあぁっぁ、もうっ!!』


 バディの怒りに、アロマテラスも体を震わせてシンクロする。

 更に、バディの傍で神々しく異彩を放っていた大きな繭も、ドクンと鼓動を鳴らした。

 俺は、巨大な繭を見た。


「何かあの卵みたいな繭、絶対出てくる流れになりそう。あれは……」


「……サザンクロス・デュークオリジン」


 呟いたのは、ナディアだ。

 俺は、ナディアの方を見た。


「サザンクロス・デュークは、また進化するのか?」


「私達の考案したモンスターの中で、まだ顕現していないものがいる。それは三体の原初シリーズの内、一体のみがコスモリウムとシンクロする事で進化出来る究極完全体……」


「……その名も?」


深層宇宙機神シンソウコスモキシンオメガオリオン……」


 何だかとってもラスボスっぽい名前。


「止められないのか?」


 多分、無理だろうけど。


「ただ、前提条件として六属性全ての強い力が必要になる。そのエネルギーがなければ羽化はしない」


 その問題の巨大繭を摩るバディ。


『あぁ……こんな姿になっちゃって。……ごめんね先輩』


「サザンクロス・デュークは、バディの先輩なのか?」


『まだ気付いていないの? それに、記憶も取り戻していないようね。……仕方ない。ここで、私達の話をするしかなさそうね』


 ラスボス戦前の回想か、望む所だぜ。

 

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