279 情緒爆発ライフバーン!
あれだけ解散を嫌がっていたオートマを説得するなんて、無理ゲーじゃないか?
ルーム内の緊張感に僕が内心アワアワしている中、ハルガが話を続けた。
「オレはここで離脱する。後はお前達で話をつけてくれ」
「リーダー……お疲れ様でした」
オートマのお疲れ様の後にハルガは離脱。ルームには、ユッキー、オジサン、セカンド、ラスカル、オートマ、僕が残った。
「僕がいても邪魔になりそうだから、僕もログアウトします……」
オートマは、僕の肩をガシッと握りしめた。
「サーマンは! ここに、いなさい?」
「……え?」
「は」の力強さに、ビビる僕。
「私が完全アウェーになるじゃろがっ……!」
「そうですね……」
「私をティンコンカンコン希少種にしないって……言ったわよね?」
「はい! 僕がオートマをティンコンカンコン希少種にはしません!」
「あの……」
ユッキー、挙手。
「なんでしょう」
僕は、ユッキーの方を向いた。
「その、ティンコンカンコンって……何でしょうか?」
「えっ……と、ティンコンカンコンは、感情が高ぶった時に出る言葉です」
ユッキーは、バタバタと僕に駆け寄って来た。
「そうだったんですね! いやぁぁぁーティンが気になって仕方がなかったので、助かりました! ググっても出てこなかったんですよー」
オジサンは、顎を手で撫でながら頷いていた。
「グーグル先生も答えられない事があるようだ」
オートマは、腕を大きく横に振り切って怒りの表情を見せた。
「アンタ達……ふざけてるの? アンタ達のせいで私達のサークルは、壊滅寸前なのよっ!?」
ユッキーは、オートマの前で四十五度のお辞儀をした。
「オートマさんには物凄くご迷惑をおかけしました……ごめんなさい。もし、気が済まないなら、俺を殴りたいだけ殴って下さい」
「……!? アンタ、ドⅯなの!?」
オジサンも、ユッキーの横に並んで四十五度のお辞儀をした。
「本当に申し訳ない。ユッキーよりも先に僕を殴ってくれ」
「アンタもドM!?」
セカンドも、オジサンの横に並んでお辞儀。
「ごめんなさいだワン」
「何、なんなの?」
僕は、オートマの肩に手をかけた。
「彼らも謝ってくれてるし……」
「サーマンはどっちの味方ナノォ!?」
僕が、一番怒られてしまった。
俯くオートマ。
「違う……私が望んでいる事は、そんな事じゃない」
顔を上げるオートマ。
「ウサギを出しなさい」
「ウサギちゃんを?」
少し動揺しているユッキー。
「そうよ、ウサギよ! リーダーなのに、何でこの場にいないの!? アイツが、アイツがリーダーをたぶらかしたせいで……!」
神々しい光を感じた。
そちらを見ると、ウサギがログインしてきた。
超絶美少女のウサギは、リーダーの風格とオーラを放ちながら、僕達の方へと歩を進めた。
ウサギのランクは、BR「560」、HBR「151」で、オジサンよりも若干ランクが高かった。
ウサギも結構ジュラバスをやり込んでいるのがわかった。
「……」
ウサギは、無言でオートマの前に立った。
「初めまして、オートマさん」
「……何よ……初めまして……」
「ごめんなさい」
頭深くお辞儀をするウサギ。
「私達は、ハルガさんを仲間にするという事だけを考えて、その後の事や影響力を深く考えていませんでした。ハルガさんにもハルガさんを慕う仲間がいて、大切に想っている人達がいるのに、それぞれの気持ちを考えていなかった」
「その……何なの? 何でリーダーなの? 別の人じゃダメなの!?」
「はい、ダメです」
キッパリ……言ったな。
「何でっ!?」
確かに何でなんだろう。
僕は、鬼気迫るオートマに加勢する形で隣に立った。
「ハルガは、僕達にとっても大事なリーダーなんです。ハルガでなければいけない理由はなんですか?」
「それは……」
言葉に詰まるウサギ。
「答えられないの?」
怒りが収まらないオートマ。
「多分……私にとっても大事な人だから」
「はああああああああああああああああああぁぁぁ!? それを言うなら、私の方がリーダーを崇拝してるっつーの!」
「私も、ハルガさんを大切に思う気持ちは負けません!」
ウサギとオートマの間に、視線の火花が見えた。
ユッキーは、「ウサギ……ちゃん?」といった感じで若干困惑気味だった。
「ドウ、ドウ、ドウ、ドウ」
オジサンが、ウサギとオートマの間に入った。
「そんなにカリカリしてたら、梅に……」
オートマ、オジサンに対して渾身のアッパーパンチ。
「梅になるか、このボケナスがぁ!!」
倒れ込むオジサン。
「僕が……ナスに!?」
オートマは、ウサギに対して異議あり的に指を差した。
「アンタのせいで、アンタのせいで……! 私達のサークルは、めちゃくちゃだわ! 私は、私にとっては、このサークルが全てだったのに……!!」
「なら、私も殴って下さい」
「ここで殴れって? リアルじゃないなら痛みも無い! ……そんな事をしたら、私が悪者じゃない! 私を悪者にしたいの!?」
だめだ……収集がつかない。
こんな怒り狂ったオートマを説得できるはずがない。
どうするんだユッキー……と、僕がユッキーの方を見たら、ユッキーはオートマに近づいて肩を叩いた。
「オートマさん」
「何!?」
ユッキーは、ラスカルに向かって親指を向けた。
「アイツが全ての黒幕です」
ユッキーが、仲間を売った!?
「ちょっと、ちょっとちょっと! 急に僕に振らないでよー!」
「アイツがハルガを仲間にしたいと言い出した張本人です。攻めるなら、アイツを攻めて下さい」
「ユッキー、最近僕に対しての扱いがヒドイよ~!」
オートマの怒りが、ラスカルに向いた。
ゆっくりとラスカルに近づく、スリラーなオートマ。
「助けてセカンドー!」
セカンドは、ラスカルの足元まで駆けて行った。
若干、やれやれといった感じだ。
「もういいんじゃないですか? オートマさんのリアルを知ってるって言っても」
「何この犬!?」
セカンドに若干ビビるオートマ。
深呼吸して胸に手を当てたラスカルは、意を決したように口を開いた。
「オートマさん、いえ……アスカ、ごめんなさい」
ラスカルは、オートマにお辞儀……って、アスカ?
「……ん……え?」
困惑するオートマ?
「アスカ、ゴメン!」
ユッキーは、オートマに謝罪。
「アスカ、僕からもごめんナス」
オジサンは、オートマに謝罪。
「ナスは謝ってなくね? ……って、何で私の名前を知ってるの?」
咄嗟に口を塞ぐオートマ。
今、自分の本名がアスカだと認めてしまった。
それを不味いと思って、口を閉じたのだろう。
そうだった……。
オートマとユッキー達は、リアルで知り合いかもしれないんだった。
「アスカ、俺だよ」
「オレオレ詐欺?」
「違う……!」
ユッキーが竜人スキンを解くと、筋肉隆々の剣士がそこに現れた。
「……俺だよ」
「貴方は……!」
オジサンも獣人スキンを解除して、ユッキーの隣に立った。
「あの時の、オジサン……!」
「どうも、あの時のオジサンです」
ラスカルが、ユッキーとオジサンの前に来た。
「これで、わかった?」
「アンタは……誰!?」
「あ……僕は見た目も声も違うからわからないか……。アスカ、アスカーン……僕は、君の家の後片付けをした、あの時の王子さっ!」
「えっ……えっ……ええええええ!?」
オートマは、自分の頭を両手で押さえた。
「なになになになに? 今、私の頭に緊急クエストが!?」
ふと我に返ったオートマは、ラスカルの両肩に両手をかけた。
「ねぇ、もしかして……私とリーダーが知り合いかもしれないと思って、私に近づいたの?」
「うーん?」
何だかわからないふりをしている感じのラスカル。
ユッキーは、「おい、正直に言った方がいいぞ」と小声で囁いていた。
「どうなの?」
「えー……っと……」
オートマは、ラスカルの肩を高速で揺らした。
「どうなんだって言ってるんだい……!」
「ごめんごめん、言うから言うから~」
オートマの揺さぶりが止まる。
「ハーフ&ハーフ?」
オートマは、ラスカルの肩を高速で揺らした。
「アアアアアアァァァァあの時は家の後始末ありがとうございましたぁぁぁ!!」
オートマは、天を見上げた。
「バァン、バァン、バァンバァンバァンババババァン、ライフバァァァン!!」
オートマの咆哮は、空を突き抜けた。
もしかしたら彼女はもう……ティンコンカンコン希少種になってしまったのかもしれない。
オートマは、続いて生まれたての小鹿のように地べたをウロウロしだした。
「私、情緒を何処かに落としてしまったようなの……皆で探してくれない……?」
オートマが、壊れた……。
「うぅ……ううううううぅぅぅ……う……」
泣き崩れるオートマ。
ユッキーは、オートマの前で膝を付いて土下座をした。
「アスカ、俺達にチャンスをくれないか?」
「本名はやめて」
「……オートマ、俺達にチャンスを」
「何で?」
「ハルガは……俺達の知り合いかもしれないんだ。だから……」
「そうなのね……」
顔を上げるオートマ、目を拭う。
「リーダーが、貴方がメダコンを達成したなら仲間になると言った。……ならば、私もそれに従うまで」
「じゃぁ……!」
「メダルコンプリートは、暫定ラスボスと違ってそんなに生易しい条件じゃない。私の気が変わらない内に達成する事ね」
嘘だろ……。
オートマが、ハルガの移籍に納得してしまった。
「やったぜ……!」
喜びを体中で表現するユッキー。
ラスカルも、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「やっぱ、アスカと出会っておいてよかったね!」
アスカ、ラスカルに渾身のストレートパンチ。
ラスカルは回転しながら倒れ込んだ。
体を起こして頬に手を当てるラスカル。
「ヒドイ……! グランマにも殴られた事ないのに……!!」
あ、やっちゃった的なオートマ。
「ごめんなさい、家の後始末をしてくれたラスカルさんには感謝してるの。でも、拳が貴方の事を新モンスターと誤認してしまったみたい」
「それじゃぁーしょうがないよね~」
泣きながら納得したっぽいラスカル。
「ユッキー、顔を上げて」
ユッキーは、オートマを見上げた。
「フレンド申請しておくから、認証しておいて。後、今回の一件で私もジュラバスもダメージを受けた。だから、その事については、汚名返上する為に動いてもらうから」
「うん」
「貴方達の公式SNSに後でDMするから、それを確認しておいて。……疲れたからもう離脱する」
「ありがとうオートマ」
「貴方に感謝される覚えはない」
オートマは、佇むウサギを見た。
「貴女には謝らないから」
オートマは、僕に「付き合ってくれてありがとう。お疲れ様」と言って離脱していった。
オートマの離脱後、僕もBTR,s ANGELの面々に対してお辞儀をして離脱した。
あの地獄絵図から二週間、ジュラバス界隈炎上は何時の間にか沈静化し、ネット上では、また別の話題で盛り上がり炎上していた。
情報の移り変わりは早いもので、思ったよりも大惨事にはならなかった。
あれからオートマとBTR,s ANGELの間で、どういった話になったのだろうか。
ずっと気になってはいるのだが、僕はもうGM権限でユッキー達を追うのをやめていたので、その後の展開についてはよくわからなかった。
五月に入って、オートマからの呼び出しがあった。
オートマのルームは、場所はコスモ・ラメール、鍵付きの部屋で他の人には聞かれたくない重要な話だと推測出来た。
オートマと顔を合わせて最初に受けた質問は、僕がゲーム制作に関わっている人間ではないかという推論だった。




